1. トップ
  2. エピソード
  3. 「狭いんだ、しょうがねえ」シートを倒してお茶をこぼした乗客。だが、車掌の行動に救われた瞬間

「狭いんだ、しょうがねえ」シートを倒してお茶をこぼした乗客。だが、車掌の行動に救われた瞬間

  • 2026.8.1
「狭いんだ、しょうがねえ」シートを倒してお茶をこぼした乗客。だが、車掌の行動に救われた瞬間

静岡を過ぎたあたりで

お盆の時期の新幹線でのことです。

私は座席のテーブルにノートパソコンを広げ、資料を作っていました。

名古屋に着くまでに仕上げて、取引先へ送らなければなりません。

静岡を過ぎたころ、突然、目の前の背もたれが大きく動きました。

前の席の男性が、勢いよくシートを倒したのです。

パソコンの画面が背もたれに押されそうになり、私は慌てて手前へ引き寄せました。

その拍子に、キャップを開けたまま置いていたお茶のボトルが倒れます。

お茶はテーブルを伝い、私のスカートにまでこぼれてしまいました。

「あっ……」

思わず声が出ました。

しかし、前の席の男性は振り返りません。

私がパソコンを膝の上へ移していると、男性は前を向いたまま言いました。

「狭いんだから、しょうがないだろ」

さらに、小さな舌打ちまで聞こえてきました。

隣や通路を挟んだ席の人たちも、一度こちらを見ましたが、すぐに視線を戻します。

私はハンカチでスカートを押さえました。

濡れたテーブルの上には、茶色い水滴が広がったままです。

拭くものを持ってきた車掌

しばらくして、通路を歩いてきた車掌が、濡れたテーブルに気づいて足を止めました。

「お客様、どうかなさいましたか」

私は周囲に聞こえないよう、小さな声で事情を説明しました。

車掌はうなずくと、いったんその場を離れます。

少しして、拭くための紙タオルを持って戻ってきました。

「こちらをお使いください」

「ありがとうございます」

私がテーブルを拭いている間、車掌はパソコンと、深く倒された前の背もたれを見比べていました。

そして前の席の横に立ち、落ち着いた声で男性に話しかけたのです。

「恐れ入ります。後ろのお客様のお荷物に当たっておりますので、シートを少しお戻しいただけますでしょうか」

男性は、不満そうに車掌を見上げました。

「シートを倒しちゃいけないのか」

「お倒しいただくこと自体は問題ございません。ただ、後ろのお客様がパソコンをお使いですので、少しだけご配慮をお願いいたします」

車掌は声を荒らげることなく、同じ調子で説明しました。

男性は何も言い返しません。

しばらくすると、背もたれに手をかけ、シートを少しだけ起こしました。

残りの時間

前の背もたれとの間に余裕ができ、私は再びパソコンをテーブルへ置けるようになりました。

「ご協力ありがとうございます」

車掌は男性にそう声をかけました。

続けて私にも、

「お召し物は大丈夫でしょうか」

と確認してくれました。

「はい。ありがとうございました」

車掌は軽く頭を下げ、次の車両へ歩いていきました。

男性を強く責めることも、私の味方をするような言葉を口にすることもありませんでした。

ただ、起きている問題を確認し、双方が納得できるよう静かに対応してくれたのです。

通路を挟んだ席の女性が、私と目が合うと、心配そうに小さく会釈をしました。

私は同じように頭を下げ、パソコンへ向き直ります。

スカートにはまだ少し染みが残っていましたが、作業を続けられるだけのスペースは戻っていました。

名古屋に到着する少し前、私は完成した資料を無事に送信しました。

ホームに降りたとき、濡れたスカートよりも、間に合ったことへの安堵のほうが大きかったのを覚えています。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています。

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ