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少女の願いは「母親を殺すこと」――不死者の少女と死に損ないの武士が出会う明治浪漫譚『勇気あるものより散れ』【書評】

  • 2026.7.29
勇気あるものより散れ 相田裕 / 白泉社
勇気あるものより散れ 相田裕 / 白泉社

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『勇気あるものより散れ』(相田裕 / 白泉社)は、魅力的なキャラクターたちが生死を“超越した”戦いを繰り広げる歴史ファンタジー漫画だ。

明治7年、東京。

「鬼九郎」と呼び名された元会津藩士の鬼生田春安(おにうだ・はるやす)は、戊辰戦争で家族や仲間を失い、武士としての存在意義も奪われ、虚しいだけの日々を送っていた。

死に場所を求めていた彼は、政府要人の暗殺依頼を受け馬車を急襲するも、護衛の少女に阻まれる。銀髪に髪が輝き始めた少女は、斬っても死なない不死の一族「化野民(あだしののたみ)」を母に持つ人智を超えた存在であった。

少女、九皐(きゅうこう)シノの剣戟により瀕死状態に陥った春安だったが、彼女の“眷族”となることで生き永らえる。シノが彼を生かしたのは自らの悲願成就に協力してほしいからであった。

シノの願い、それは不死の存在を産み出す者として、時の為政者に人間との子どもを産まされ続けた挙句に心の病になってしまい、それでもなお死ぬことのできない不死者の母親を、「殺生石で作られた妖刀」で殺め、自らも死ぬこと。

春安は、重たい宿命を背負うシノに運命を感じ、シノを主(あるじ)と仰ぎ一蓮托生の身となることを決意する。

しかしそれは、“母親殺し”を阻もうとするシノの兄弟姉妹たちや、母親を利用し続けたいと考える為政者たちとの、熾烈な闘いの幕開けでもあった――。

ファンタジーでありながら歴史漫画、そして「キャラ推し」もできる作品

本作は「不死の民」というファンタジー要素がありながらも、歴史の息吹をしっかりと感じられる歴史漫画であり、迫力満点の剣戟アクションでもあり、更には可愛かったりカッコよかったりするキャラクターが多く登場し「キャラ推し」ができる漫画でもある。

それに加えて、家族愛や武士道、生きるとは、死ぬとは等、重厚な人間の感情ドラマで心が揺さぶられるヒューマンドラマでもあったと思う。

こう書いてしまうと、要素が多すぎてどれも薄味なのではないかと危惧される方もいるかもしれないが、そんなことは全くなく、それらが見事に一つの世界観の中で融合していると感じた。

不死者として生きるシノの兄弟姉妹は、「個性豊かな強キャラ」として物語の求心力となっていることが多いのだが、彼らがシノたちの味方になったり敵になったりする展開も面白い。

それぞれの“眷族”との関係もいい。不老不死となり長い年月を共に過ごした主と眷族は、言葉では言い表せない特別な関係なのだ(各々関係性が違ったり、男女、男同士、女同士なのも更にいい……!)。

また「化野民」と人間の間に産まれた「半隠(はたかく)る化野民」には、人を惑わす体香があったり、眷族に自らの血を飲ませたりするなど、ちょっとした読者サービスというか、蠱惑的なシーンもあったりして、「キャラ推し」したいエンタメ漫画としても非常に魅力的である。

一方で「歴史好き」にも「ハマる」要素が多くあると感じた。

出身の藩によって異なる方言を話すキャラクターたちや、戊辰戦争で敵対していた薩摩人と会津人の関係を活かした物語の展開、伊庭八郎や藤田五郎など、歴史好きにとっては「待ってました!」と拍手したくなるようなキャラクターが物語に関わってくるのも嬉しい(藤田五郎が愛妻家という設定も個人的にはとても好きだ……!!)。

最新9巻で、妖刀を生み出す集落にたどり着いたシノと春安は…

さて、7月29日には最新9巻が発売された本作。

妖刀を生み出す刀鍛冶の集落「日戸津(ヒトツ)の里」に辿り着いたシノと春安だったが、村人たちは新たな妖刀を打つことは、簡単には了承できないようで……。

その一方、シノの姉であり稀代の強さを誇る煙花(えんか)は、弟の生松が新政府軍に殺されたことから修羅の道へ。家族を害する恐れのある妖刀を、この世から全て葬りさらんと集落に迫っていた。避けられない兄弟姉妹の対決が、悲しくも幕開けてしまう。

不死の少女と死に損ないの武士が命を燃やす明治浪漫譚、ぜひご一読あれ。

文=雨野裾

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