1. トップ
  2. ビジネス・マネー
  3. 『退職金2,300万円』を受け取った65歳男性→「老後のお金で困ることはない」と思いきや…年金の支給額を見て“絶句したワケ”

『退職金2,300万円』を受け取った65歳男性→「老後のお金で困ることはない」と思いきや…年金の支給額を見て“絶句したワケ”

  • 2026.8.10
undefined
出典元:photoAC(※画像はイメージです)

皆さま、こんにちは。社会保険労務士の小泉です。

定年退職を迎えると、「これまで頑張って働いてきたのだから、老後のお金は何とかなるだろう」と考える方も多いのではないでしょうか。退職金や十分な貯蓄があれば安心と思いがちですが、実際には年金額を具体的に確認した瞬間、不安を感じる方も少なくありません。

今回は、長年勤め上げた男性が65歳で改めて確認した「想定していた年金額との違い」と、老後生活を守るために事前に確認しておきたいポイントについて紹介します。

「部長まで務めたのに…」予想より少なかった年金額

「退職金が2,300万円あります。老後のお金で困ることはないと思うんです。」

相談に訪れた65歳のAさんは、そう話しながら穏やかな表情を浮かべていました。製造業に42年間勤務し、この春に定年退職。住宅ローンは完済し、預貯金も約600万円あります。妻は63歳で、パート勤務を続けていました。

ところが、相談が進むにつれ、ご夫婦の表情は少しずつ曇っていきます。きっかけは、「ねんきんネット」や日本年金機構から届いた年金関係書類で確認した老齢年金の支給額でした。

「思っていたより少ないですね……」

ご主人が言葉を失い、ぽつりと漏らした一言が印象的でした。Aさんは「長年勤めて最後は部長まで務めたのだから、自分の年金だけで月25万円くらいはもらえるはず」と思い込んでおり、具体的な受給額を計算・確認していなかったのです。しかし、実際に提示された受給見込額は月17万円ほど(年間約200万円)でした。

なぜ、このようなギャップが生まれてしまったのでしょうか。

実は、会社員が受け取る老齢厚生年金は「退職直前の年収」だけで決まるわけではありません。原則として、過去の全加入期間(20代から60歳までなど)の「標準報酬月額」や「標準賞与額」の平均値(平均標準報酬額)を基に計算されます。

Aさんの場合、50代で管理職へ昇進して以降は高収入でしたが、30代から40代前半までは現在の給与水準ほど高くはありませんでした。そのため、現役最後の年収が高くても、加入期間全体を通した平均額で計算すると、本人が想像していたほどの受給額には届かなかったのです。

※公的年金の受給額は個人の加入履歴によって異なります。金額そのものに制度上の問題があったわけではなく、「現役最後の年収から推測した思い込み」と「実際の制度上の受給額」との差が問題だったのです。

年金を確認しなかった代償…退職金が“生活費”に変わる瞬間

undefined
出典元:photoAC(※画像はイメージです)

そこで、ご夫婦の今後の家計収支を一緒に整理してみました。

退職後に予定していた夫婦の生活費は、ゆとりある旅行や車の維持費などを含めて毎月約30万円。一方、夫婦の収入は、夫の年金(月約17万円)に加えて、妻が65歳になるまでのパート収入や将来受け取る妻自身の年金を合わせても、毎月の生活費に対して不足(赤字)が生じる試算となりました。

「不足分は2,300万円ある退職金から出せばいい」と考えることもできます。しかし、毎月数万円から十数万円の赤字補填が15年、20年と続けば、退職金は生活費として確実に減っていきます。

さらに、60代後半以降は自宅の修繕費、車の買い替え、医療費や将来の介護費など、突発的かつまとまった支出が発生しやすくなります。

退職金は決して「使ってはいけないお金」ではありません。しかし、「退職金が多いから年金を確認しなくても大丈夫」とタカをくくっていると、退職金を取り崩すペースが想定を超え、老後後半の資金繰りを圧迫する原因になりかねません。

多くの人が見落とす"たった一つの数字"が老後を左右する

相談の最後に、ご夫婦は「もっと早く年金見込額を確認しておけばよかったですね」と話されました。

50歳以上の読者の方には、日本年金機構から毎年誕生月に届く「ねんきん定期便(ハガキ・封書)」に、「現在の加入条件が60歳まで続いた場合の見込額」が具体的に記載されています。また、「ねんきんネット」を活用すれば、いつでも試算が可能です。

もし60歳や65歳になってからではなく、50代後半(例えば55歳前後)の時点で現実的な受給見込額を把握できていれば、以下のような選択肢をあらかじめ検討する時間が十分にあったはずです。

  • 退職後の生活費(固定費や変額費)の事前見直し
  • 60歳以降の働き方の見直し(定年後の再雇用・再就職で社会保険に加入し、年金を増やす)
  • 受給開始時期の検討(繰下げ受給による年金額の増額など)
  • iDeCoやNISA等を活用した私的年金・資産形成の強化

老後資金を考えるとき、多くの人は「退職金がいくら入るか」という一時金に目が向きがちです。しかし、本当に確認すべきなのは、「毎月いくらの年金(定常収入)が入り、毎月いくらの生活費(定常支出)が必要なのか」という継続的な収支バランスです。

退職一時金は一度使えば減っていきますが、公的年金は原則として生涯にわたって支給される「終身の収入源」です。

老後の安心を左右するのは、退職金の多さそのものではありません。自分自身の将来受け取る年金見込額と世帯全体の収入を正しく知り、その金額を前提とした現実的な生活設計を早めに立てられるかどうか。その準備こそが、ゆとりある老後を迎えるための第一歩なのです。


※相談事例をもとに一部内容を再構成しています。

執筆・監修:小泉@社労士ライター

20年以上の社労士経験を通じて、多くの相談者から「こんな制度があるとは知らなかった」「もっと早く相談しておけばよかった」という声を聞いてきた経験から、専門知識を、必要とする人に、正しく、わかりやすく届けることを大切にしている。社会保険・労働保険、公的年金をはじめ、暮らしや仕事に関わる制度について、専門家としての正確性と、生活者目線のわかりやすさを両立した情報を執筆・発信。保有資格は、社会保険労務士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、宅地建物取引士など。

の記事をもっとみる

注目コンテンツ