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「早くもらわないと損」65歳から“月12万円”の年金受給をスタート→11年後、70代女性を待ち受けていた“120万円”の大誤算

  • 2026.9.9
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。FPで公的年金の受け取り方に詳しい柴田です。

SNSの年金情報には、役に立つものがある一方で、極端な意見や誤解を招きかねないものも混在しています。

今回は、そうした極端な情報を信じて受給開始を決めた70代のAさんのお話です。先に言っておくと、これは「繰下げが絶対得」という話でもありません。「ご自身の頭でしっかりライフプランを設計しましょう」という話です。

「早くもらわないと損」を信じて65歳で受給開始

元専業主婦のAさん(70代・女性)は65歳になる直前、SNSで見かけた投稿が忘れられませんでした。

「年金は早く受給したほうがよい」「繰下げ受給は不利になる」といった投稿を目にし、深く検討せずに65歳から受給を開始。ご自身が働いていたときの厚生年金を合わせて月12万円の年金で、当初は特に不満もありませんでした。

状況が変わったのは76歳のときです。高齢のお母様の介護費用が重くのしかかり、家計の相談に来られました。私が資料を確認して、率直に気になったのが「なぜ余裕があるのに繰下げ受給をしなかったのか」という点です。

Aさんは65歳時点で十分な資産があり、繰下げ受給をする余裕もありそうでした。また、75歳まで繰り下げていれば月22万円前後を受け取れていた計算でした。実際の受給額との差額は月10万円、年120万円。お母様の施設費用のほとんどは、まかなえそうな金額です。

繰下げ受給の仕組みを正しく知る

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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

ここで、公的年金制度をおさらいします。

年金の繰下げ受給は、受給開始を1か月遅らせるごとに0.7%増額され、2022年4月の改正で上限が75歳まで広がりました。75歳まで繰り下げれば84%増。月12万円なら約22万円になり、その額が生涯続きます。

繰下げの場合、増えた年金で「もらわなかった期間」を取り返すのにかかるのは、受給開始からおよそ11年10か月。75歳開始なら87歳前後で逆転します。女性の平均寿命を考えると、長生きするほど繰下げが効いてくる構図です。

ただ、ここで一度立ち止まって考えてほしいことがあります。そもそも公的年金は、払った分を取り戻す「積立貯金」ではなく、「保険」だということです。正式な名前も「年金保険」で、私たちが払っているのは「保険料」。

では何に備える保険かというと、「予想より長く生きて、お金が尽きてしまうリスク」に備える保険です。早く亡くなれば受け取りは少なく、長生きすれば納めた保険料を大きく上回る年金を受け取ることができます。「元を取れるか」という物差しは、そもそも保険には合わないのです。

この見方で繰下げを捉え直すと、意味が変わって見えてきます。繰下げは「損得の賭け」ではなく、「長生きしたときの保険金を手厚くする」選択です。100歳まで生きたときに、月12万円と月22万円のどちらで暮らしたいか。保険の本質は、起きてほしくない事態が起きたときに困らないことにあります。「長生きしたのに困る」という事態を避けたい人ほど、繰下げは検討する価値があるわけです。

もちろん寿命は誰にもわかりません。だからこそ繰下げは「寿命の賭け」ではなく、働き続けられるか、退職金やiDeCoなど他の収入源があるか、配偶者の年金はどうかで決める「設計問題」なのです。

年金は知らないと損する制度でもある

長生きリスクに備えるうえで効果的な繰下げ受給ですが、あらかじめ知っておきたいポイントもあります。増えた年金には税金や社会保険料が引き落とされるため、額面84%増がそのまま手取り84%増にならない点には注意が必要です。なお、基礎年金と厚生年金は別々に繰り下げることもできます。

一方、年下の配偶者がいる方の加給年金は、厚生年金を繰下げている間は受け取れません。加給年金は年約40万円と大きいため、該当する方は「厚生年金は65歳から受け取り、基礎年金だけを繰り下げる」形が有効な選択肢になります。また「66歳以降にさかのぼって一括で受け取る」場合は繰下げ増額が適用されないなど、受給方法による違いを理解しておくことが重要です。

繰下げ中の生活費をどう工面するかも大切です。65歳以降も働いて収入を得る、退職金やiDeCoの一時金を活用する、夫婦で受給開始をずらすなど、無理のない順番や組み合わせを検討してみてください。

まとめ

年金の受け取り方に、全員共通の正解はありません。あるのは、ご家庭の状況に合わせた最適解だけです。「必ず得」「繰下げは危険」といった極端な言説に振り回されず、判断材料をひとつずつ確認していくことが先決です。

受給を開始するのに適したタイミングは一人ひとり異なります。生活費や年金額をシミュレーションし、今後の働き方や資産状況を加味したうえで、ご自身が安心して暮らせる方法を検討していきましょう。


執筆・監修:柴田 充輝
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,200記事以上の執筆実績あり。

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