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「カメラで見てるとは思わないわ」唐揚げを落とした妻。だが、カメラに映った姿に絶句

  • 2026.7.20

台所から見えるようになった居間

保育園に通う孫を平日だけ預かることになり、居間の棚にカメラを一台取り付けた。

目的は単純で、台所に立っている間に孫の様子が見えるようにするためだ。

設置した日、私は妻に画面を見せた。

ソファも、テーブルも、床のブロックまで映っている。

「ここから全部見えるぞ。便利なもんだ」

「そんなもの、いちいち見てるの?」

妻はレンズを一瞥して、エプロンで手を拭いた。

「カメラで見てるとは思わないわ」

見られているつもりで暮らす人間なんていない、という意味だったのだろう。

あの時の私は、ただの軽口として聞き流した。

妻は、食べ物にはおおらかな人だった。

「ちょっとくらい落ちても大丈夫よ」

孫が菓子を畳に転がすたび、そう言って拾い上げる。

私が渋い顔をすると、決まって「神経質ねえ」と笑った。結婚して28年、その笑い方はずっと変わらない。

拾った手が、戻ってくるまで

その日、妻は孫の夕飯を持って居間へ入っていった。

私は流しで手を動かしながら、置いたスマホの画面を横目で追っていた。

孫が箸を伸ばす。小皿の唐揚げが跳ねて、そのまま床に落ちる。

「ほら、こぼしちゃって」

妻がかがみ、床の唐揚げをつまみ上げた。私はその手の行方を、画面越しに見ていた。

次の瞬間、妻の背中が画面の端から消えた。

映るのは孫だけになった。麦茶のコップを両手で持ち上げている。

10秒。20秒。40秒。妻は帰ってこない。

戻ってきた妻の手には、何も握られていなかった。

孫の横に座り直し、いつもの調子で「あーん」とやっている。

私は息をついた。捨ててくれたのだと、そう受け取った。

間もなく、妻が台所へ入ってきた。

「ごはん、そろそろにしましょ」

コンロの唐揚げを皿へ移す。味噌汁をよそう。箸を置く。手つきに、迷いは一つもなかった。

最後に、私の皿の縁へ、唐揚げがひとつ足された。

衣の一部だけが、てらてらと湿っていた。

「なあ、これ」

「なあに」

妻はこちらを見た。何のことか分からない、という顔だった。演技には見えなかった。それが、いちばん怖かった。

「……いや、なんでもない」

言葉が出てこなかった。責める材料はあるのに、口が動かない。

私は全部見ていた。拾って、消えて、手ぶらで戻ってきた妻を。カメラは残らず記録していた。

見られているとは思わない。あの日の妻の言葉が、遅れて胸に落ちてきた。

あれから、居間のカメラはそのままにしてある。孫のために付けたはずのレンズを、私は毎晩、別のもののように眺めている。

※tendが独自に実施したアンケートで集めた、50代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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