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亡くなる30分前にも気にかけた「サケ」 完全養殖へ札幌の町工場が生んだ技術が再び世界へ

  • 2026.7.14

北海道日高地方のホテルのレストランでは、大ぶりのトキシラズの焼き物や海鮮丼など、さまざまなメニューが提供されています。しかし、ここにも海の異変による影響がじわりと広がりつつあります。

サケなどの人工ふ化を手がける「日高管内さけ・ます増殖事業協会」で、2026年から力を入れているのが淡水で行う『マスの養殖』です。

協会の清水勝専務理事は、4年前からサケの漁獲数・回帰数が落ちて、漁獲数が下がっていることに触れ「このまま下がると、サケの漁では漁業者らが生きていけない」と話します。

そこで、卵から成魚にいたる一連の工程を、ふか場でできないか実証試験を始めました。

自然に近い川を再現

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清流の沙流川などで育ったマスから、卵を丁寧に取り出し『浮上槽(ふじょうそう)』と呼ばれる水槽でふ化させます。

その卵を網目模様のプラスチックに固定して、水の流れを調節。長さ1メートルほどの水槽に、自然に近い川の環境を再現するのです。

清水専務理事は「増殖も養殖も、ふ化室と池があって飼育場が必要。この装置は、池とふ化室をひとつにして効率化を図ったもの」だと説明します。

海水温の上昇など、海の環境が目まぐるしく変わるなか、水産物の安定供給を目指す養殖技術。
これらの装置は、札幌の中小企業が生み出しています。

高いふ化率が強み

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札幌市東区のプラスチック類加工会社「フラット合成」です。
従業員は20人で、アクリルや塩化ビニルなどの加工や販売を手がけています。

会社自慢の「サケマスふ化装置」は、浦河町の増殖事業協会と協力して製造を続け、もう40年以上。高いふ化率が強みです。

フラット合成の菅和成さんは「サケ・マス装置は意外とデリケート。雑菌などの対策が必要なので隙間がないように作る」と、こだわりを語ります。

ロシアでのシェア6割

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フラット合成の平村由佳社長は「道内では大部分のふ化場で使用してもらっている。道外は一部東北と、ロシア、官民両方で使ってもらっている」と話します。

水産庁の依頼で、このふ化装置を1990年ごろから旧ソ連へ輸出。
これをきっかけに、平村社長の父であり創業者の西崎建夫さんは、国内のほかロシアへ販路を広げていったのです。

「父はロシア語をしゃべれないのにすごいなって。ロシア全体で6割くらいまでフラット合成のふ化機器が入ったと聞いている」

創業者の熱意と技術力で、会社の売り上げも順調に伸びていました。

しかし、事態は一変します。

ウクライナ侵攻が影を落とす

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2022年、ロシアがウクライナに侵攻。
EU諸国などが経済制裁を科す中、日本もロシアへの輸出を禁止に。フラット合成も取引を停止せざるを得ませんでした。

平村社長は「売り上げの1億ぐらいはロシアだった。それが2023年から『ゼロ』になってしまったので、会社としてもかなり厳しい」と話します。

さらに同じ年、ロシアとパイプを築いていた父・西崎さんが誤嚥性肺炎のため急死したのです。日ロ関係の行く末を、最後まで案じていたといいます。

「亡くなる30分前ですかね。父の呼吸器を取ったら『サケマス』と言って手を伸ばした。ロシアからの追悼のメールはすごく届いた」

ピンチをチャンスに!新たな活路

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予測不能な国際情勢に翻弄されたフラット合成の海外事業。しかし、残されたメンバーは、ピンチをチャンスに変えようとしています。

今アレクサンドラさんは、ロシア生まれで小学校から北海道で育ちました。西崎さんとともに、ロシア市場を開拓してきた1人です。

今さんは「もしかしたら同じロシア語を公用語としている中央アジアで、新しく事業をする可能性があるのか…2023年ごろから調査してきた」と話します。

いま力を入れているのは、北海道から5000キロ離れたカザフスタンです。
中央アジアに位置する内陸国で、日本の7倍の国土を持ちます。

人口が増え続けているカザフスタンはいま、国を挙げて養殖漁業に取り組んでいて、フラット合成の技術に強い関心を示しています。
あの自慢の「ふ化装置」も、既に24台を納品しました。さらに2026年6月、新たに6台を輸出します。

今さんは「紛争で海外展開が途絶えてしまうのは、とても残念なこと。北海道のサケマス技術を生かせるのであれば、全力でこれからやらなければいけない」と決意を口にします。

北海道の企業が持つ、食を守る確かな技術。
国際情勢の荒波を乗り越えて、世界に広がろうとしています。

取材・文:HBC報道部
編集:Sitakke読者編集部ぬまぬま

※掲載の内容は、HBC「今日ドキッ!」放送時(2026年6月8日)の情報に基づきます。

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