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背中を撫でると赤ちゃんが落ち着く理由

  • 2026.7.7
背中を撫でると落ち着く理由とは / Credit:Canva

「背中を撫でると赤ちゃんが落ち着く」というのは、育児の場面ではよく知られた経験則です。

しかし、その効果は本当に背中特有のものなのでしょうか。

東邦大学の研究チームは、ヒト乳児とマウスの仔を対象にこの現象を調べました。

赤ちゃんの背中・お腹・後頭部を比較したところ、落ち着きに関係する反応が最もはっきり見られたのは「背中」だと分かりました。

詳細は、2026年4月10日付の学術誌『Communications Biology』に掲載されています。

目次

  • 背中を撫でたときだけ、赤ちゃんの動きが減った
  • マウスの背中を撫でると眠りやストレス反応が変化!母マウスによる幼少期のケアが必要だった

背中を撫でたときだけ、赤ちゃんの動きが減った

赤ちゃんをあやすとき、多くの人は自然に背中をさすります。

しかし研究チームが知りたかったのは、それが単なる習慣なのか、それとも背中という部位に特別な意味があるのかという点でした。

そこで研究チームは、日本人の母子15組を対象に、母親が赤ちゃんの「後頭部」「背中」「下腹部」をそれぞれ1分間撫でる実験を行いました。

実験中は、赤ちゃんの胸に心電図センサーをつけ、同時にビデオで頭、上半身、下半身の動きを記録しました。

また、撫でる刺激以外の影響をできるだけ減らすため、母親には赤ちゃんに話しかけたり、目を合わせたり、揺らしたりしないよう求めました。

結果は明確でした。

後頭部を撫でても、赤ちゃんの自発的な動きに有意な変化はありませんでした。

下腹部を撫でた場合も、明確な変化は見られませんでした。

ころが背中を撫でたときだけ、頭部と下半身の動きが有意に減少したのです。

一方で、後頭部を撫でたときには心拍が上昇しており、落ち着きというより軽い覚醒や注意の反応に近い変化が起きた可能性があります。

つまり、赤ちゃんは「どこを撫でても同じように落ち着く」わけではありません。

少なくともこの実験では、動きの減少という点で、背中への刺激がもっとも鎮静に結びついていました。

研究チームは、この反応に皮膚の触覚神経が関わる可能性を考えています。

母親が背中を撫でた速度は平均で約10.5cm/秒で、心地よい触覚に関わるC-tactile線維を刺激しやすい範囲に近いものでした。

ただし今回の刺激は比較的しっかりした圧だったため、単一の神経だけでなく、複数の触覚神経が同時に働いた可能性もあります。

では、背中への刺激は体の中でどのような変化を起こすのでしょうか。

ヒトの赤ちゃんでは、脳の内部で何が起きているのかを詳しく調べることはできません。

そこで研究チームは、マウスの仔を使って、背中への刺激が体や脳にどんな変化を起こすのかを調べました。

マウスの背中を撫でると眠りやストレス反応が変化!母マウスによる幼少期のケアが必要だった

研究チームはまず、母マウスが仔の体のどこをよく舐めているのかを確認しました。

生後2日の仔マウスの背中側と胸側に水分で消える印をつけ、母親の元に戻したところ、胸よりも背中側の印が大きく消えていました。

これは、母マウスが仔の背中側をよく舐めていることを示しています。

次に研究チームは、母マウスの舐め行動を模して、柔らかいブラシで仔マウスの背中を刺激しました。

すると仔マウスでは、筋活動が低下し、心拍も下がり、脳波ではノンレム睡眠に近いデルタ波が増えました。

つまり背中を撫でられた仔マウスは、単に動きを止めただけでなく、眠りに入りやすい生理状態へ移っていたと考えられます

さらに、母親から離された仔マウスでは通常、ストレスホルモンであるコルチコステロンが上昇します。

しかし、離されている間に背中を撫で続けると、このストレスホルモンの上昇が抑えられました。

一方で、絆や社会的接触に関わるとされるオキシトシンには、有意な変化は見られませんでした。

特に重要なのは、この反応が生まれつきの単純な反射ではなかった点です。

母親から離して人工的に育てられた仔マウスは、体重増加や基本的な反射には大きな異常を示しませんでした。

しかし背中を撫でても、筋活動の低下、心拍の低下、睡眠への移行、ストレスホルモンの抑制が起こらなかったのです。

さらに研究チームは、視床下部で働くCacna1bという遺伝子に注目。

人工哺育された仔マウスでは、この遺伝子の働きが約半分に低下していました。

また、母親に育てられたマウスでもCacna1bを人為的に低下させると、背中を撫でたときの鎮静反応が失われました。

この結果は、少なくともマウスでは、初期の母子接触が、背中を撫でられたときの鎮静反応を支える脳の仕組みの発達に関わる可能性を示しています。

このように今回の研究は、背中を撫でるという身近な行為が、赤ちゃんの覚醒やストレスを調整する仕組みと深く関わっている可能性を示しています。

参考文献

Why the back? How stroking calms infants and mouse pups
https://medicalxpress.com/news/2026-07-calms-infants-mouse-pups.html

元論文

Early-life maternal care is required for the typical development of calming responses to back stroking
https://doi.org/10.1038/s42003-026-10012-6

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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