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「1日を2回生きているみたいで、寿命が縮まる感覚があった」尾崎世界観が日記を書く理由とは?【インタビュー】

  • 2026.7.2

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年7月号からの転載です。

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日記を書く理由はさまざま。本コーナーでは実際に日記を書いている方々に、なぜ日記を書くのか、その魅力はどこにあるのかについて語ってもらった。

ロックバンド「クリープハイプ」のフロントマンで、芥川賞に2度ノミネートされるなど小説家としても活動する尾崎世界観。本誌にて連載中の「尾崎世界観の書かなかったこと日記」は、日記の最後に必ず、その日にあったけれども「書かなかったこと」を%で記録している。これは、2016年から17年にかけて執筆された日記「苦汁」シリーズ(『苦汁100%』『苦汁200%』として書籍化)にはなかった趣向だ。

「前の日記を書いていた時、1日を2回生きているみたいで、寿命が縮まる感覚があったんです。だからもう止めようと決めたのに、またやりたくなってしまった(笑)。その日書かなかったことを%で表示するというのは、編集さんのアイデアです。世に出る文章である以上、情報として書けないこともあるし、これは書きようがないな、書きたくないなという出来事も多いんですよね。“全部を書けない”ことに対する葛藤があると編集さんに言ったら、日記自体を“全部は書かない”というコンセプトにするのはどうですか、と返ってきて。それならできるかもと思い、書き始めることができました」

約7年ぶりとなる、日記を書くという行為と共にある生活は「すごく楽しいですね。日記に救われています」。

「イヤなことがあったり腹が立つ人に会ってしまった時も、“日記でどう書いてやろうか?”と思うと気が晴れるんです(笑)。言葉にする前まではとんでもなく大きかった負の感情も、いざ日記に書いてみると“そっか、その程度のことなんだ”って冷静に捉えられるようになる。全然思うようにはならなかったなとか、周囲に流されてしまったなってしんみりするような日も、日記のおかげでなんとかなっていますね。その日に起きたことを自分なりに取捨選択して書いていくことで、自分の人生の主導権をちょっと取り戻せる感覚がある。意味がないと思っていた日を、日記を通して、もう一度生き直すチャンスが与えられるというか」

日記の存在は、行動にも影響を与えている。その一つは、連載を始めてから、何度か海外へ一人旅に行っていることだ。

「基本的には小説の取材で行っているんですが、日記のネタにもなるし、という感じで出かけています。日記のおかげで、行動範囲が広がっていると思います。海外に行くと言葉は通じないし常に不安だし、道もわからなくて迷ったり困ったりして、自分の情けなさや恥ずかしさと常に向き合うことになります。そのことを日記で面白おかしく書きながら、そういう弱い自分を許していく」

そう聞くといいことずくめのように思えるが……「面倒くさい部分も多いですよ。終わったはずの生活が、毎日返ってくるので」と苦笑い。書くのが面倒くさいのは、楽しいことが起きた日なのだという。

「何もなかった日が一番、書きがいがあるんです。このつまらない一日をどう料理してやろうか、とテンションが上がるんですよね。逆に楽しいことばかりだったり充実していた日は、起きたことをただ書けばいいだけだからつまらない。“そんな簡単なことを俺に書かせるなよ、過去の自分!”って腹が立ちます(笑)」

書く楽しさだけでなく読み返す楽しさもある

日記を書く前から、他人の日記を読むのが好きだった。小学生の頃に読んだ『猿岩石日記』に始まり、フィクション要素をたっぷり含んだ乙一の『小生物語』、赤裸々にもほどがある田中康夫の『東京ペログリ日記』や殿山泰司の『JAMJAM日記』……。

「文庫解説を書かせていただいた(*『一私小説書きの日乗 野性の章 遥道の章 不屈の章』)西村賢太さんの「日乗」シリーズは特に好きですね。自分が書いているものもそうなんですが、日記って結局、同じ記述の繰り返しだったりするじゃないですか。突き詰めていくと、生活って、同じことの繰り返しなので。西村さんの日記はとりわけそうで、まるでミニマル・ミュージックみたいだなと思います。ミニマル・ミュージックって、同じ音がただ繰り返されているだけで面白くないと言う人もいれば、他のジャンルにはないくらい強烈な感情を掻き立てられると言う人もいる。感想にばらつきがあるんですよね」

実は、数年前に日記本を出した時、違和感を抱いたことがあったそうだ。

「“ただの日記じゃん”という感想を持たれる人が結構いたんです。日記は文芸として小説よりも下、という風潮があるなと感じました。でも、そもそも日記って、書き手がその日にあったことを書いているわけだから、読み手の面白がる力も必要になるはずなんですよね。例えば何重にも仕掛けがある、ネタバレ禁止ですみたいな小説の方にこそ、自分は身構えてしまう。物語はこっちで動かすので読者であるあなたはことの成り行きをじっと見ていてください、と書き手に言われているような寂しさを感じるんですよね。それに比べると日記って自由度がものすごく高くて、どう面白がるかは受け手次第。それこそが魅力だと思うんです」

連載では毎回、絵本作家のヨシタケシンスケがその月の尾崎の日記を読み、イラストと文章を描きおろしている。こんなふうに面白がることもできる、という最良のサンプルとなっている。

「日記を読んで自分はこんなことを連想した、ということをかなり自由に描いてくださっています。こういう読み方ができるんだって、僕自身もそうだし、読者の皆さんもきっと視野を広げてもらえると思います」

他人の日記の中に面白さを見出すことは、自分の日常を面白がる視点を得ることにも繋がるのかもしれない。連載は現在も継続中だ。6月22日には、12回分の連載をまとめた単行本が刊行される(もちろんヨシタケのイラストも全採録)。

最後に、日記を始めてもどうしても三日坊主になってしまうという人に、アドバイスを送ってもらった。

「日記が続かない方は、もしかしたら書き手の自分しか持てていないのかもしれません。昔の自分もそうだったんですが、日記は書くものだという先入観にとらわれていて、いまいち読む楽しさを感じられていない。だから、三日坊主で終わってしまう。日記には読む楽しさ、読み返す楽しさもあるということを意識できれば、続けられるんじゃないかなと思います。そういった、読者としての自分を育てるうえでも、他の人の日記を読むのはおすすめです」

取材・文:吉田大助 写真:干川 修

ヘアメイク:AKIRA スタイリング:入山浩章

衣装協力:ジャケット7万4800円(i'm here/☎03-6457-5985)、ビンテージのシャツ8800円(FRONT11201/info@front11201.com) *すべて税込

おざき・せかいかん●1984年、東京生まれ。2001年結成のロックバンド「クリープハイプ」のヴォーカル、ギター。12年、アルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビュー、16年、『祐介』で作家デビュー。20年に『母影』、24年に『転の声』が芥川賞候補に選出される。他の著書にエッセイ集『泣きたくなるほど嬉しい日々に』など。

6月22日(月)発売予定

『尾崎世界観の書かなかったこと日記』

(尾崎世界観:著 ヨシタケシンスケ:イラスト/KADOKAWA) 1980円(税込)

バンドマンとして全国を飛び回り、新作小説の取材で海外への一人旅を敢行して、40代に突入した自分の体を気遣いながらも書く、話す、書く、会う……。2024年12月から25年12月までの毎日を収録した日記文学。絵本作家・ヨシタケシンスケの筆による「日記読んだ日記」も全採録。

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