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【内野聖陽さんインタビュー】57歳でたどり着いた“いい加減”の境地。『リア王』に重ねる、男の喪失と再生

  • 2026.7.1

舞台、映画、テレビドラマと縦横無尽に活躍する内野聖陽さん。57歳を迎え、満を持して挑むのがシェイクスピアの舞台『リア王』です。いまの心境と、50代でたどり着いた境地を語っていただきました。

「一生懸命やった先で、手放すことも大事」50代で変わった仕事観

「若い頃は、極限まで張り詰めた状態で芝居に向かうことに美学があって。高層ビルの間にかけられた細い綱の上を渡るみたいな緊張感で演技したい、っていう時代がありました。常にビリビリしていたい、みたいな(笑)。でも50代になって、 “いい加減”にやったほうがいいなって思うようになりました。ラフさや抜けた感じの、良い加減です」

とくに大きなきっかけがあったわけではないけれど、少しずつ肩の力が抜けてきたと話す内野さん。たとえば、7年前、50歳で演じた『きのう何食べた?』もきっかけのひとつ。同性愛者である《ケンジ》を実に生き生きと、楽しそうに演じる様子が話題になりました。

「昭和の“男たるもの”みたいな価値観って、自分のなかにも細胞レベルで残っていたんだとわかりました。でも、あの作品にはそれが一切必要なかった。だからすごく自由だったし、もういまの時代、男とか女とか関係なくて、そのままでいいんだって思えたところはありますね」

肩の力を抜く、ということを考えたとき、内野さんの心に浮かぶのが、名優・仲代達矢さんの姿です。2007年のNHK大河ドラマ『風林火山』で武田信玄の父・信虎を演じていた仲代さん(当時70代半ば)は、壮大なロケ現場でもどこか飄々とされていたと言います。

「僕らから見たら“さすが仲代達矢さんだな”っていう芝居をされるんです。でもご本人は、終わったあとに『いやあ、こんないい加減な芝居でいいんですか?』なんて笑っておられて。もちろん、決して本当に“いい加減”だったわけじゃありませんよ。全部やることをやった人が、最後に風に吹かれながら自由に立っている感じというか。“人事を尽くして天命を待つ”じゃないけど、そういう加減が今になって僕もやっとわかってきた気がします」

圧倒的な経験と技術。積み上げてきたものがあるからこそ、力を抜ける。そんな成熟のあり方に、いまの内野さん自身も近づいているのかもしれません。

『リア王』は“変化に取り残される人間”の物語

今回、内野さんが演じるリア王は、国を娘たちに譲ったあと、狂気と孤独へ向かっていく王。老いの悲劇として語られがちな作品ですが、内野さんが惹かれるのは別の部分だといいます。

「いちばん響くのは、時代が変わったときに、自分の価値観が通用しなくなる怖さですね。いままで積み上げてきたキャリアがある。なのに、明日から会社に来なくていいよ、この仕事しなくていいよって言われたとき、人はすぐ価値観を変えられますか? たぶん難しいですよね」

昨日まで当たり前だったことが、今日には通じなくなる。そんな感覚は、大人のおしゃれ手帖世代なら誰しも感じたことがあるのでは。

「僕らの世代には、会って話すのが礼儀だろうとか、手紙は自筆だろうとか、そういう感覚があるじゃないですか。でも、それがもう古いと言われたりする。え、そうなの?って(笑)。そういう、ある日突然ルールが変わることこそが、『リア王』の悲劇なんですよ」

単なる老いの物語ではなく、変化に取り残される人間の物語。だからこそこの時代に響くのでしょう。かく言う内野さんも、仕事場でもプライベートでも、若い世代とのギャップを感じることはあるそう。でも、そこで拒絶はしないと話します。

「僕は、なんでそうなるのか知りたくなる。この間、銭湯で大声ではしゃいでいる若者たちがいて、なんでかな?と考えました。ああ、そうか、彼らはコロナ禍にみんなで騒ぐ時間を奪われた世代なのか、と気付きました。だから、現象だけ見て拒否するのは違うなって思うんです。銭湯の若者にはちょっと注意もしましたけどね(笑)」

「自分の理想と戦いたい」57歳で挑むタイトルロール

実は今回、そもそもの上演案はシェイクスピアの『テンペスト』だったそう。けれども内野さん自身が『リア王』を希望しました。

「昨年、WOWOWのドラマ『GOLD SUNSET』で、シニア劇団で『リア王』をやる老人を演じたんです。それはそれで非常に大変だったんですけど、そのぶん、全部やらせてくれ、という気持ちが動いて。プロデューサーや演出家に『いや、俺、リアをやりたいんだけど』って言ったら、みんなガクッとしてました(笑)」

それでも演出の森新太郎さんはすぐに読み直し、「おもしろいじゃないですか」と賛同してくれたと言います。

「リアは、もっと年上の俳優が演じるイメージがあるかもしれませんが、実は激しい芝居なんですよ。嵐の場面はとくに有名。狂気のシーンもあるし、フィジカルも必要。娘を“お姫様抱っこ”するシーンもあったりで、できるうちにやったほうがいいですよ、と冷やかして言われましたよ(笑)」

こうして、40代の終わりに演じた『ハムレット』に続き、今度はリアを演じることになった内野さん。シェイクスピア劇にどのような魅力を感じているのかと尋ねると、問いを受け止めながらしばし思案したのちに、こう答えました。

「正直に言えば、シェイクスピアは役者にとって難しいものだと思うんです。セリフは修飾語が多くてやたらと長い。それを観客に伝えるのは簡単ではない。だから、僕にとっては、シェイクスピアは魅力的というより、手強い相手、好敵手、という感じですね」

だからこそ、今回は、シェイクスピアの台詞を自然に届けることを意識したいと続けます。

「日本語の翻訳シェイクスピアって、変に朗々としゃべる芝居になりがちなんですよ。でも、そうじゃないだろうって思っていて。難しい言葉でも、ちゃんと人間の言葉として落とし込まなきゃいけない。そのためにはとても訓練がいるし、稽古が重要です。自分がやるからには、自分の理想と戦い、理想のリアを演じたいんですよね」

力を抜くことを知った57歳が、自分の理想を目指して全力で挑む『リア王』。その舞台には、いまだからこその説得力が宿りそうです。

「稽古場が、みんなで真剣に遊べる場所になればいいなと思っています。見ごたえのあるものには、必ずなると思う。そこは期待していてほしいですね」

PROFILE

内野聖陽(うちの・せいよう)
1968年9月16日生まれ。1993年に俳優デビュー。森田芳光監督作「(ハル)」で第20回日本アカデミー賞新人賞を受賞。2007年にNHK大河ドラマ『風林火山」』で主演を務め、『JIN』『臨場』などのドラマ、映画、舞台等多くの作品に出演。2019年放送のドラマ『きのう何食べた?』での演技も話題に。近年の出演作に、舞台『芭蕉通夜舟』(24)、『笑の大学』(23)、映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』(24)、ドラマ、『阿修羅のごとく』(Netflix/25),『PJ 〜航空救難団〜』(テレビ朝日/25)など。

内野聖陽さん出演 舞台『リア王 〜King Lear〜』

絶対王リアは退位に際し、娘たちの愛情を試す。甘言の長女・次女に領土を与え、率直な末娘コーディリアを勘当。だがふたりは父を冷遇し、リアは荒野で狂気に陥る。一方、臣下グロスター家でも私生児エドマンドが兄を陥れ、権力を狙う。裏切りと欲望が渦巻くなか、帰還したコーディリアが父を救おうとするが、王国は血塗られた悲劇へと突き進む。シェイクスピア4大悲劇のひとつ、絶望に満ちた本作を通して、演出の森新太郎氏は、いまに何を問うのか。

作:ウィリアム・シェイクスピア
訳:松岡和子
演出:森新太郎
出演:内野聖陽
前田公輝 井之脇海 清水くるみ 川上友里 内田慈
大山真志 永島敬三 和田正人 杉本哲太 山路和弘 ほか
【東京】2026年9月21日(月・祝)〜10月4日(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
新潟、愛知、兵庫、岡山、福岡公演あり

撮影/天日恵美子 スタイリング/中川原寛 ヘアメイク/佐藤裕子 取材・文/みよしみか

この記事を書いた人

大人のおしゃれ手帖編集部

大人のおしゃれ手帖編集部

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