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私の名前を呼ぶ直前、彼のボイスメッセージには3秒の無音があった

  • 2026.7.1
ハウコレ

再生ボタンを押すと、最初の3秒だけ、何も聞こえませんでした。文字の返事ばかりだった彼から、初めて届いたボイスメッセージです。一拍おいて私の名前を呼ぶ声の後ろを、車が通り過ぎていきます。名前の前のあの無音が、私には引っかかっていたのです。

何度聞いても、一秒は埋まらなかった

机にスマホを置いて、スピーカーから流し直しました。

「今度の休み、空けておいてほしい」

用件はそれだけで、録音は十秒に満たないものでした。それなのに、耳に残るのは言葉より手前の部分です。言いかけた何かを、引っ込めたような間でした。ここしばらくの彼は返事が短く、前回の約束もひとことで延期されたままです。その流れの先にあの3秒があったようで、気づけば同じ録音を十回以上聞いていました。

増えていく想像と、短くした返事

想像は勝手に膨らみました。転勤が決まったのかもしれません。改まって伝えたい、よくない話があるのかもしれません。

聞きたいことを文字にしては、送らずに消しました。3秒の間を問いただす自分が、ひどく小さく見えたからです。結局、返したのはひとことだけです。

「わかった。空けておく」

いつもなら絵文字のひとつも足すところを、句点で終わらせました。それが私なりの、ささやかな仕返しでした。

質問の答えは、紙の上にあった

約束の日に向かったのは、彼の最寄り駅でした。改札の向こうの彼は、鞄を体の前に抱えていました。駅前の公園まで歩き、ベンチに腰を下ろしたところで、ためていた質問を口にしました。

「あのメッセージ、名前の前に間があったよね」

彼はスマホを出して、その録音をその場で再生しました。あの3秒は、外で聞くといっそう長く響きます。録音が止まると、彼は言いました。

「大事な話があるんだ、って最初に言うつもりだった」

続けて鞄から出てきたのは、四つ折りの間取り図です。

「ふたりで住める部屋、ずっと探してた」

返事が短かったことも、約束を延ばしたことも、仕事帰りに一人で内見を回っていたからでした。全部そろえてから渡したかったのだと、彼は紙の折り目を伸ばしながら話します。条件の欄の、二人入居可の文字だけが、ペンで丸く囲ってありました。

「その部屋、今から見に行ける?」

そう言ってから、声が弾んでいたことに気づきました。

そして...

あのボイスメッセージは、消さずに残されています。同じ3秒なのに、今では、切り出す前の深呼吸にしか思えません。疑う側にいた数日の私のことは、隣を歩く本人に、まだ話せていません。

(20代女性・医療事務)

本人記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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