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吉田恵輔監督、一ノ瀬ワタルの芝居に感じた“想定外”の深み「ずっといい映画になった」

  • 2026.6.25
一ノ瀬ワタル&吉田恵輔監督 クランクイン! 写真:You Ishii width=
一ノ瀬ワタル&吉田恵輔監督 クランクイン! 写真:You Ishii

吉田恵輔監督が『ミッシング』から2年ぶりに発表する衝撃の人間ドラマ『四月の余白』が、6月26日に公開される。吉田監督が思春期に出会った人々を振り返り完成させたオリジナル脚本は、取り返しのつかない過去を背負う西が主人公だ。元半グレで元受刑者ではあるが、数年前から更生施設で未来ある子供たちを親身に指導する寮長として活動している。人生をリスタートさせた西を演じるのは、Netflixオリジナルドラマ『サンクチュアリ ‐聖域‐』の主演で時の人となった一ノ瀬ワタルだ。出世作『サンクチュアリ』や『炎上』のKAMIくんなどで、癖の強いキャラクターを得意としてきた一ノ瀬だが、本作ではクシャクシャの笑顔で子供たちと向き合う懐の深さを見せる。吉田監督と一ノ瀬の初タッグはどのように準備され、正解のないラストまで走ったのか聞いてみた。

【写真】撮影中にふざけ合う姿も! 一ノ瀬ワタル&吉田恵輔監督撮りおろしショット

■スパイス的演技を封印して、すべてを受け入れる男に

──暗い過去から更生した西という人物について、おふたりの間ではどのようなお話をされたのですか?

吉田:自分が覚えているのは一ノ瀬さんが何度も「なるほどっすなー」とうなずくことでした(笑)。

一ノ瀬:自分が印象的だったのは、いろんな子供たちが登場するから、それを受け止める側であってほしい、と言われたことでした。これまでは作品の味を変えるくらい強烈なスパイスになることを心掛けて、濃厚な演技をしてきましたが、吉田監督の説明を受けて「なるほど」と納得しました。役作りの参考に挙げられたのは、『ザ・ノンフィクション』というドキュメンタリー番組で取り上げられた半グレ集団の創設メンバーでした。自分も偶然、その回を見ていたんです。一見すると普通の人なのに、ふと語る過去は極悪非道で、笑顔なのに時折ゾッとする瞬間がある。初めは吉田監督のアドバイスは意外でしたが、説明を聞くうちに「あの動じなさを演じるのか」と、意図を理解できました。

吉田:一ノ瀬さんは強靱(きょうじん)さと愛らしさを併せ持ち、どこか包容力を感じさせる俳優さんです。西を演じてもらうときにはその多面的な魅力の奥に危うさや過去の陰影がチラリと光る男をイメージしていました。でも、基本的には自分からは役作りに指示はしません。自分とは違うアイデア、違うプランが来る可能性があるし、そちらの方がおもしろい可能性だってあるじゃないですか。もちろん疑問には答えますが、おもしろくなるかもしれないプランを引っ込められるのは避けたいので、必要最小限にとどめます。

一ノ瀬:なるほど!!

吉田:指示通りに演じられるだけではつまらないじゃないですか。一ノ瀬さんのシーンでは何テイクも撮り直していなくて、パックン(パトリック・ハーラン)との共演シーンや収穫シーンの取材風景といったおふざけシーンに強弱をつけるために、テイクを重ねたくらいだと思います。

一ノ瀬:電車内のシーンもそうでしたね。時間的に3回くらい撮影できるから、なんかやっておこうかみたいなノリでした。

吉田:一ノ瀬さんと海斗(上阪隼人)は微調整が効く技術派の俳優さんなんです。だから何度でも同じ演技を繰り返せるんだけど、夏帆さんは正反対で直感的に演技するから毎回変わるんです。3人のギャップはおもしろかった。

一ノ瀬:監督がおっしゃることを一言一句聞き逃さずに、求められるものを忠実に演じようと心掛けています。自分がやりたいことよりも、監督が撮りたいものからブレない方がいい作品になると思っているので。

■役作りのために自分を孤独に追い込んだ

──一ノ瀬さんは西を演じるためにどんな役作りをされましたか?

一ノ瀬:自分は西を演じるために孤独を大事にしました。だから撮影以外では、誰ともコミュニケーションを取りたくなかったし、撮影中は誰とも食事に行っていません。

吉田:確かに、一緒に飲んだりしなかったね。

一ノ瀬:撮影地の蒲郡(愛知県)ではコンビニしか行ってないです。

吉田:え? 自分、毎晩飲んでたよ。領収書が束になっていて、エグい金額になっていた。

一ノ瀬:(爆笑)


吉田:『空白』の松坂桃李さんも孤独に過ごすタイプでしたね。古田新太さんはほぼ毎晩、昼から飲んでいたし。夏帆さんも付き合いがよくて、おしゃべりで明るいんです。最初はかわいさに緊張してしゃべっていたのに、気づいたら3つ下の照明部の後輩と話している感覚になってました。吉田組は食事したり飲んだりしても、誰も芝居の話を一切しないですよ。

一ノ瀬:え、何の話をするんですか?

吉田:超どうでもいい世間話しかしなくて、例えば「明日のシーンなんですけど」なんて誰も相談してこないし、映画論も語らない。そういうタイプの人はいなかったと思う。

一ノ瀬:そうだったんですか。うさぎの話とかアットホームな話だったらめちゃくちゃ行きます!

吉田:私たちの共通点はうさぎを飼ってること。私は2年前から1羽飼っていて、一ノ瀬さんは8羽もいて歴史も違う! 1対8ってコールド負けだから、一ノ瀬さんとうさぎについて語ることはできません(笑)。あとね、一ノ瀬さんはうさぎに掛ける金額が桁違いで、生活を投げ打っています。

一ノ瀬:そうなんですよ。

吉田:蒲郡で高級ないちごを見つけたときに、私は高すぎるから手が出せませんでした。でも、一ノ瀬さん、うさぎたちのために買っていました。

一ノ瀬:うさぎの健康のために38万円の空気清浄機も買いました。うさぎのために仕事しているといっても過言ではないです。

吉田:私は昨日、たった1羽しかいないうさぎを胸に抱きあげた瞬間、乳首を噛まれ、思わず手を離してしまいました。もし現場で飲んだり食事することがあったら、こんなうさぎトークで十分、大丈夫ですよ。

一ノ瀬:安心しました。一緒にご飯を食べたりというのはいつかしてみたいですけど、役にもよりますね。自分は助走が長ければ長いほど安心するタイプなんです。もしかしたら助走2メートルで飛べるかもしれないけど、できれば300メートルくらいは欲しい。とはいえ、やり過ぎると逆に支障になることもあるし、助走で疲れることもあるし。

吉田:じゃあ、主役3本、掛け持ちでやるしかないオファーが来たらとかどうする?

一ノ瀬:それはもうお断りするしかないです(笑)。

吉田:ここで吉田組について説明したいのですが、私は俳優を追い込む監督だと誤解されているようで、俳優さんが「役作りを徹底して追求しなくてはいけない」と自分を追い込む謎の現象が発生するんです(笑)。『ミッシング』の石原さとみさんは役作りのために、撮影中はお子さんに会うのをやめようとしたくらいで、役作りにもほどがある! このように石原さん、一ノ瀬さんなど“ほどがある”俳優さんが集まる傾向があって、私は何も要求してないのに、ストイックに役作りをして現場に現れます。皆さん、そんなことをしなくても、すでに上手なんですよ。厳しく追い込むことで発見できる何かがあるようで、私としては現場ではご自由にお楽しみくださいという立場でおります。

■常に「あと何分残っているか」と計算していた

──吉田組の撮影で印象に残ったことはなんですか?

一ノ瀬:驚いたのは撮影の早さでした。普通はアクションシーンの撮影は延長することがほとんどなのに、『四月の余白』では巻いたんですよ。吉田監督のアクションの振付は的確で無駄がなかったです。

吉田:実は、18歳以下の子役は夜10時までしか撮影できない労働時間の制限があります。撮影地の蒲郡は3、4月になると午後7時頃まで日が残るから、夜シーンの撮影ができるのは実質、3時間くらい。常に「あと何分残ってるから、今日はあと何カット撮れる」と時間を意識して、海斗や暴走族たちが西をどうやって襲って、西がまとめて反撃するかを即興に近い感じで振り付けていました。「このカットでパンチしてこのあと蹴ってとかあるんだけど、もう時間がないから流れでバンバンパーンと殴って蹴っちゃえ」って。


一ノ瀬:そういう事情があったとは気づかなかったですが、アクションの撮影は楽しかったです。海斗はずる賢くて武器を使わないと戦えない設定ですが、海斗役の隼人は少林寺拳法の有段者だそうですね。

吉田:隼人は殴られたフリとか受身がうまいし、覚えも早かったです。以前『BLUE/ブルー』の撮影で本職のボクサーに殺陣指導をしたら、パンチが来ると本能的に避けてしまい、苦労した経験があります。プロの格闘家は受身が苦手なんですね。隼人には俳優としてのセンスを感じました。

■変わりたいと思ったらいつでも変われる

──まもなく公開となりますが、改めて完成作をご覧になって感じることはなんでしょうか。

吉田:脚本段階では、西の設定は『その男、凶暴につき』の北野武さんのように「細くて弱そうだけどキレたら危ない中年男性」でしたが、一ノ瀬さんの芝居やにじみ出る人間性によって西に深みが増し、愛すべき人物へと肉付けされていました。『四月の余白』は非行や更生、教育への問題提起を含んでいるので、少しでもバランスを崩すと暗くて、暴力を肯定する後味の悪い映画と捉えられる心配がありました。そこを、一ノ瀬さんが計算して人当たりの良い熱心な西を演じてくれたおかげで、ちょうどいいところに落とし込めました。「自分が考えるより、ずっといい映画を作っていたんだ」と、今改めて気づかされています。

一ノ瀬:ありがとうございます。変わりたいと思ったなら人は20代でも30代でも、もっと大人になった人でも、少しの勇気を出せば変われる、そう自分は信じています。自分を変えたいと思っている人はもちろんですが、自分も周囲に手を差し伸べられるのではないかと、本作が気づきの一歩になればいいなと思っています。

吉田:一ノ瀬さんがちゃんとまとめてくれました(笑)。『四月の余白』は令和の時代にあまり見かけないタイプの邦画だと思います。だからこそ、逆に令和に見る必要がある映画なのではないでしょうか。少しでも興味を持っていただけたなら、ぜひご覧ください。

(取材・文:落合有紀 写真:You Ishii)

映画『四月の余白』は、6月26日より全国公開。

※吉田恵輔監督の「吉」は「土に口」が正式表記。

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