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【HERALBONY Art Prize 2026】「ヘラルボニー」がひらく世界

  • 2026.6.23
Courtesy of heralbony

会場に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのは鮮烈な色彩だ。

緻密な反復によって生み出された作品。圧倒的な色彩感覚に満ちた作品。既存の構図や表現の枠組みから自由になった作品。

国籍も文化も異なる作家たちに共通しているのは、既成概念では測れない独創性である。

世界中の障害のある表現者を対象とした国際アートアワード「HERALBONY Art Prize」。2024年に創設され、今年で3回目を迎えたこのアワードは、単に作品を顕彰する場ではない。展覧会やライセンス事業を通じて、アーティストの継続的な活躍を後押しすることを目的としている。

撮影=鈴木穣蔵
本展では、世界77カ国から寄せられた約3,000点の応募作品のなかから選ばれた受賞者とファイナリストによる約60点が並ぶ。 撮影=鈴木穣蔵

世界中から「異彩」が集結

「HERALBONY Art Prize 2026」授賞式の模様。受賞したアーティストが国内外から駆け付けた。 撮影=橋本美花

国内外のアートシーンで注目を集める「HERALBONY Art Prize」。2026年は77の国と地域から1,342人が参加し、2,943点もの作品が寄せられた。創設からわずか3年で、累計応募数は7,566点にまで広がっている。

その頂点に立ったのが、オランダ在住のアーティスト、カー・ハン・ムイだ。

グランプリ受賞作《Zonder titel(無題)》を前にすると、まず深い緑を基調とした豊かな色彩に目を奪われる。

カー・ハン・ムイ《Zonder titel(無題)》 Courtesy of heralbony

近づくにつれ、無数の線と点が幾重にも重なり合い、気の遠くなるような時間と集中力によって生み出された作品であることが伝わってくる。

香港にルーツを持つカー・ハン・ムイは1989年生まれ。当初はパステルや絵の具も用いていたが、やがて色鉛筆こそが自身の表現に最もふさわしいと考えるようになった。鋭く削った色鉛筆で何層にも色を重ねる制作は、ときに数カ月にも及ぶという。

2026年のグランプリを受賞した、カー・ハン・ムイ。 heralbony

審査員たちは、その作品に宿る静かな力を高く評価した。エメラルドグリーンを中心に広がる色彩は、水面の奥深くをのぞき込むような感覚を呼び起こし、反復される線のリズムは見る者を思索へと誘う。

華やかな主張ではない。しかし、その圧倒的な密度と完成度が、多くの応募作品の中で際立った存在感を放っていた。

左から3人目がグランプリを受賞したカー・ハン・ムイ。同行した姉(左から4人目)は、「ただ彼が好きに絵を描いて、好きなことをできることが私にとっては一番大事なんです」とコメントした。左から審査員の日比野克彦、クラウス・メッヘライン、黒澤浩美、ハリエット・サーモン。 撮影=橋本美花

世界が注目するアーティストたち

グランプリだけでなく、審査員特別賞にもまた強い個性が光る作品が並んだ。

【審査員特別賞】

審査員を務めたEUWARDアーカイブおよびアトリエ・アウグスティヌムのディレクター兼キュレーター、クラウス・メッヘラインが選んだのは、オーシャンの《私から過ぎ去った時間1》。

メッヘラインは「時間」という誰もが共有する普遍的なテーマと、幾重にも描き重ねられた表現を高く評価した。

オーシャン《Time Got Away From Me 1 私から過ぎ去った時間1》 Courtesy of heralbony

「ヘラルボニー」最高芸術責任者である黒澤浩美が選んだのは、カミジョウミカの作品。黒澤は、作品から立ち上がる生命力と独自の色彩感覚に惹かれたという。

カミジョウミカ《イエローで白い黒の進化 Yellow,White and Black Evolution》 Courtesy of heralbony

東京藝術大学学長の日比野克彦が選んだのは、鳥山シュウの作品。

日比野は、反復されるモチーフから生まれる独特のリズムと構成に注目した。

鳥山シュウ《つみかさなる Accumulating》 Courtesy of heralbony

米国サンフランシスコのアートスタジオ「Creativity Explored」のアート・パートナーシップディレクター、ハリエット・サーモンが選んだのはルイス・フェリペ・ダビラの作品。

ルイス・フェリペ・ダビラ《HACIA MI DESEO 私の欲望に向かって(スペイン語)》 Courtesy of heralbony

黒澤は、「長年アートに携わってきた経験があるからこそ、既存の知識や先入観が判断を曇らせることもある」と語る。

だからこそ、作品と向き合うたびに学び直しているという。

「審査を重ねるなかで、作品を選んでいるようで、むしろ作品に呼ばれている感覚がある」

アワード最大の特徴は「企業賞」

「HERALBONY Art Prize」の大きな特徴が企業賞の存在だ。

東京建物、SMBCグループ、JINS、エプソン、JR東日本、トヨタ自動車など、日本を代表する企業が独自の視点で作品を選出する。

評価の基準となるのは、技術や完成度だけではない。企業が大切にする理念や未来像と、作品がどのように響き合うかである。

そして受賞はゴールではない。

選ばれた作品は、商品やサービス、空間デザインへと展開され、社会との新たな接点を得ることになる。

例えば2025年のJR東日本賞では、受賞作品が列車ラッピングや駅構内展示、ホテルメトロポリタンのスカーフデザインとして採用された。

アートを展示室の中だけにとどめず、街や暮らしの中へ届ける。企業賞は、異彩ある表現を社会へ実装するための仕組みなのである。

【東京建物|Brillia賞】
時永蒼生《20210425》 Courtesy of heralbony
【JR東日本賞】
KIYO 《希望 Hope》 Courtesy of heralbony
【トヨタ自動車賞】
Yuina《無題 Untitled》 Courtesy of heralbony

受賞作品や企業賞を見ていくと、このアワードが一般的な「障害者アート展」とは異なることに気づく。

その背景には、「ヘラルボニー」創業者である松田文登、松田崇弥兄弟の強い問題意識がある。

障害者アートという言葉への違和感

授賞式に登壇した、「ヘラルボニー」の松田崇弥(左)と松田文登(右)。ブランド設立のきっかけとなった、重度の知的障害を伴う自閉症の4歳年上の兄、松田翔太を囲んで。 撮影=橋本美花


記者発表の席で、「ヘラルボニー」の松田崇弥が最初に強調したのは、「私たちは障害者アート展をやりたいわけではありません」という言葉だった。

創業の原点には、重度知的障害を伴う自閉症の兄・翔太さんの存在がある。

幼い頃から兄は「かわいそう」と見られることが少なくなかった。しかし松田兄弟は、その視線に違和感を抱き続けてきた。

社会はできないことに目を向ける。一方で、その人だけが持つ才能や価値には気づきにくい。

アートに出会ったとき、作品そのものに感動する自分たちと、「障害者アート」という言葉を介した社会の反応との間には大きな隔たりがあった。

その境界線を変えたい。

「ヘラルボニー」は、そんな思いから生まれた。

松田兄弟とともに進化する「ヘラルボニー」

「HERALBONY Art Prize」もまた、その思想の延長線上にある。

2024年にグランプリに輝いた浅野春香さんは、タイの国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の国際会議に出席し、ヘラルボニーの取り組みを発表する場に参加。タイの障害福祉の状況や、障害のある人がおかれている状況も視察した。2025年のグランプリを受賞したエヴリン・ポスティックさんは、2026年4月、パリのヴェルサイユ宮殿で共創アートプロジェクトを実施した。

松田文登は、「本気で彼らにスポットライトが当たる場をつくりたい」と語る。実際、この取り組みはアートアワードの枠を超え、一つの文化運動として広がり始めている。

審査員のクラウス・メッヘラインは、「日本ではわずか3年でムーブメントが生まれている。ヨーロッパなら30年かかることもある」と評価した。

松田兄弟が見据えるのは、アートアワードの成功ではない。

障害の有無によって可能性が規定されるのではなく、一人ひとりの個性が価値として歓迎される社会。

世界中から集まった2,943点の作品は、その未来への希望の数でもある。

「HERALBONY Art Prize 2026 Exhibition Presented by 東京建物|Brillia」

DATA
会期/2026年5月30日(土)〜6月27日(土)※会期中無休
会場/
三井住友銀行東館 1階アース・ガーデン(東京都千代田区丸の内1-3-2)
開館時間/10時~18時
観覧料/無料

「HERALBONY Art Prize 2026 Exhibition Presented by 東京建物|Brillia」


編集・文=石黒三惠

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