1. トップ
  2. カルチャー・教養
  3. 人間は抽象画に隠された「黄金律」を見抜いている【AIアートでは再現されず】

人間は抽象画に隠された「黄金律」を見抜いている【AIアートでは再現されず】

  • 2026.6.22
人間は抽象画の隠された「黄金律」を感じ取っている可能性。イメージ / Credit:Canva

「抽象画なんて適当な模様にしか見えない」

そう感じたことがある人は少なくないでしょう。

しかし、英国のハートフォードシャー大学(University of Hertfordshire)などの研究チームによると、人間の脳や視線は、本物の抽象画に隠された“特有の構造”を無意識に感じ取っている可能性があるようです。

一方で、AIの「疑似アート」では、その特徴が十分には再現されませんでした。

研究の詳細は2026年5月14日付で学術誌『PLOS Computational Biology』に掲載されています。

目次

  • 本物の抽象画のほうがAIアートよりも高く評価された
  • 人間は「本物の抽象画」に隠された”黄金律”を見抜いている可能性

本物の抽象画のほうがAIアートよりも高く評価された

抽象画は、人物や風景のような分かりやすい対象を描くわけではありません。

そのため「本当に意味があるのか」「ランダムな模様と何が違うのか」と疑問を持たれやすい芸術です。

そこで研究チームは、色や雰囲気ではなく、絵の中で形がどうつながり、どこに輪や穴のようなパターンが生まれるのかに注目しました。

研究では、解析手法である「パーシステントホモロジー」を使い、画像の中にある「つながり」「輪」「穴」「模様の密度」などを調べています。

そして研究チームは、ポーランドの芸術家Lidia Kot氏による抽象画と、AIを使って生成された「疑似アート」を比較しました。

疑似アートは、本物の作品と色や明るさの傾向が近くなるよう調整され、参加者にはどちらも本物の展覧会作品であるかのように提示されました。

アーティストの抽象画(上)とAIによる疑似アート(下) / Credit:Emil Dmitruk(University of Hertfordshire)et al., PLOS Computational Biology(2026), CC BY 4.0

実験室では、これらの画像を1枚ずつ決まった時間だけ見せ、視線の動き、脳波、美的体験の評価を測定しています。

その結果、本物の抽象画は疑似アートよりも高く評価されました。

参加者は、本物の抽象画に対して、視覚的要素を把握しやすい、感情的に強く感じる、作者の意図を理解しやすい、流れや没入感を得やすいと評価したのです。

また実験室の初回では、本物の抽象画を見ると視線がより長く留まる傾向が見られました。

研究チームはこれを、より深い視覚処理を反映している可能性があると考えています。

脳波の解析からも、本物の抽象画を見ると、より安定した統合的な処理が起きていた可能性が示されました。

では、同じ画像を「展覧会」という現実の文脈で見せると、反応はどう変わるのでしょうか。

人間は「本物の抽象画」に隠された”黄金律”を見抜いている可能性

興味深いことに、ギャラリーでの結果は実験室とは少し異なりました。

参加者は、疑似アートの展示の前でより長く時間を過ごし、視線も長く留まる傾向を示したのです。

一見すると、AIが作った疑似アートのほうが人を引きつけたように思えます。

ただし研究チームは、この結果を単純に「疑似アートの方が美的に優れていた」とは解釈していません。

ギャラリーでは、参加者は「これは美術展である」という前提で作品を見ています。

そのため研究チームは、参加者が疑似アートの中にも意味や意図を探そうとした可能性を考えています。

つまり疑似アートは、人を深く感動させたというより、理解しにくかったために視線を引き留めた可能性があるのです。

研究チームの解析では、参加者がよく見た場所と、数学的に検出された「輪」「穴」「模様の密度」などの特徴に対応が見られました。

人間の目は、抽象画の中にある構造が密な場所を無意識に追っていた可能性があります。

さらに研究チームは、カンディンスキー、ロスコ、ポロックなど著名な抽象画家の作品も分析しました。

そこで見つかったのが、「Alexander duality」という数学的関係の崩れ方に共通する傾向です。

これは簡単に言えば、絵の中の形と、その周囲にある余白がどのようなバランスで配置されているかを見る考え方です。

著名な抽象画家たちの作品では、このバランスの崩し方が似た程度に収まっていたのです。

研究チームは、この共通した崩し方を、抽象画における隠れた「黄金律」のようなものかもしれないと考えています。

もちろん、画家たちが数学を意識して作品を作っていたわけではありません。

また、この研究は芸術の価値を数学だけで決められると主張するものでもありません。

抽象画には、歴史、文化、筆づかい、展示空間、鑑賞者の記憶など、数式では測れない要素も多く含まれます。

それでも今回の研究は、「抽象画はただのランダムな模様ではない」という見方を強く後押しします。

人間の目は、私たち自身が気づくよりも先に、抽象画の中に隠された秩序を探し当てているのかもしれません。

参考文献

Scientists Found a Hidden “Golden Rule” in Abstract Art — and Your Eyes May Already Know It
https://www.zmescience.com/science/news-science/scientists-found-a-hidden-golden-rule-in-abstract-art-and-your-eyes-may-already-know-it/

Mathematical analysis reveals a hidden “golden rule” in abstract art
https://www.eurekalert.org/news-releases/1127687

元論文

Art’s hidden topology: A window into human perception
https://doi.org/10.1371/journal.pcbi.1014156

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

元記事で読む
の記事をもっとみる