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7人の作家が厳選する、旅に行きたくなる文学ガイド

  • 2026.8.3

本を読んで思い立ち旅に出る、旅先で本を読む、読むために宿に籠もる。この夏、そんな粋な体験はいかが? 作家たちが厳選する旅のきっかけになる本をご紹介します。

朝吹真理子さんおすすめ

『べつの言葉で』ジュンパ・ラヒリ 中嶋浩郎 訳

作家が薦める、旅に行きたくなる文学ガイド
3つの言語と出合った著者がエッセイで綴るひたむきな日々

幼少期から家庭内ではベンガル語、外では英語を使い分けて育った著者。さらに40代にして家族とローマに移住することになり、イタリア語と格闘しながら小説を書く日々を綴ったエッセイ。「母語では書くことができない気持ちを、新しい言葉を体に入れながら言語の海を豊かにしてゆく姿がとても素敵です」。

新潮クレスト・ブックス 1760円

『荒原にて』索南才譲 及川茜 訳

作家が薦める、旅に行きたくなる文学ガイド
遊牧民として生きた著者が描く「魯迅文学賞」受賞の小説集

「最後の世代の遊牧民」であるモンゴル人の著者は、12歳で家畜の群れを父から引き継ぐ。遊牧生活の中で文学も幅広く吸収し書き上げた表題作は、動物と共に生きる男の張りさけそうな心を描く。「標高4500mの高原で、一人で羊の番をする孤独を、日本にいながら追体験できる短編集です。本を読むことで、記憶が書き換わる感覚になります」。

リトルモア 2970円

朝吹真理子

あさぶき・まりこ 東京都生まれ。2009年「流跡」で作家デビュー。'11年「きことわ」で芥川賞を受賞。著作に『TIMELESS』『抽斗のなかの海』など。今年秋に長編小説『ゆめ』(河出書房新社)を刊行予定。

加藤シゲアキさんおすすめ

『日はまた昇る』ヘミングウェイ 高見浩 訳

作家が薦める、旅に行きたくなる文学ガイド
エッセイ『できることならスティードで』にも登場する不朽の名作

禁酒時代のアメリカを出て、パリでその日暮らしをする男たち。やがて戦争で傷を負ったジェイクは、作家仲間や奔放な女友達と情熱の国スペインへと旅立つ。加藤さんのエッセイを読んだ人ならピンとくる作品。「キューバへ旅をしたときに、まさに読んでいた本でした。いろんな人に出会うロードノベルの王道的作品です」。

新潮文庫 737円

『赤目四十八瀧心中未遂』車谷長吉

作家が薦める、旅に行きたくなる文学ガイド
情念ほとばしる逃避行。不思議と魅了されるほの暗さ

アパートの一室で「私」は鬱々とした日々を送っていた。ある日、向かいの部屋に住む「アヤちゃん」が部屋の戸を開ける。“うちを連れて逃げてッ”。ふたりの逃避行が始まる。「おどろおどろしく、泥くさい人間味溢れる心中話ですが、そこに魅力を感じます。その場所にこの物語があるなら行きたくなるお気に入りの一冊です」。

文春文庫 748円

加藤シゲアキ

かとう・しげあき 大阪府出身。2012年『ピンクとグレ ー』で作家デビュー。'21年『オルタネート』で吉川英治文学新人賞、高校生直木賞を受賞。著作に『閃光スクランブル』『ミアキス・シンフォニー』など。

湊かなえさんおすすめ

『塩狩峠』三浦綾子

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自分にとっては聖地巡礼のような気持ちで訪ねた、作中のモデルの地

湊さんは、本書と、同じく三浦綾子の『氷点』とを愛読し、それぞれの作品のヒントになった旭川の地を旅したことがあるという。「当時、聖地巡礼という言葉は今ほど浸透していませんでしたが、振り返るとまさにそんな旅です。この2冊にはとても感動して、“絶対に北海道に行ってその場所を見るのだ”と憧れていた場所でした」。

新潮文庫 935円

『斜陽』太宰治

旅先での偶然の体験が、太宰文学への扉を開いてくれた

大学の卒業旅行でトンガ王国に行く予定が、阪神・淡路大震災もあって行き先変更。同じ研究室の友達と周遊券で東北巡りへ。津軽鉄道の五所川原でストーブ列車を体験し、感激したそう。「乗っているのはほとんど太宰治ファン。みな太宰の記念館である〈斜陽館〉目当ての乗客だったんです。感化されて私も太宰を読むようになりました」。

新潮文庫 539円

湊かなえ

みなと・かなえ 1973年、広島県生まれ。デビュー作『告白』で2008年度の「週刊文春ミステリーベスト10」で第1位、'09年の本屋大賞を受賞し、一躍ミステリー界を牽引する存在に。『王国』は、30作目の著作になる。

万城目学さんおすすめ

『深夜特急1―香港・マカオ―』沢木耕太郎

場所を訪ねるためではなく、人と出会い、自分を知るための旅

著者は、当時イギリス領だった香港から出発し、東南アジアから中東、ヨーロッパ各国、最終目的地のロンドンまで、自分を見つめながら旅をした。「最初に読んだのは受験生の頃。当時の自分とのあまりの自由さの違いに強烈な嫉妬を覚えましたね(笑)。大学に入ってからリベンジで、海外へずいぶんバックパック旅行しました」。

新潮文庫 693円

『琵琶湖周航殺人歌』内田康夫

旅の前には、トラベルミステリーで、日本各地の名所旧跡をチェック

琵琶湖の水を守る会のリーダーが密室で死亡していた。自殺か他殺か、ルポライターの浅見光彦が謎を追う。琵琶湖の観光船内で流れる歌や、琵琶湖の環境汚染問題などとの関わりは?「内田康夫さんや西村京太郎さんのトラベルミステリーは、その土地の名所旧跡が網羅されているから、そこに旅行するときは読んでおくのがおすすめです」。

講談社文庫 682円

万城目 学

まきめ・まなぶ 1976年、大阪府生まれ。京都大学法学部卒。2006年、第4回ボイルドエッグズ新人賞受賞作『鴨川ホルモー』でデビュー。'24年、6度めの候補となった『八月の御所グラウンド』で直木賞を受賞。

永井紗耶子さんおすすめ

『前世への冒険 ルネサンスの天才彫刻家を追って』森下典子

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スピリチュアルには懐疑的だけれど、セレンディピティには惹かれる人に

「あなたの前世は、フィレンツェの彫刻家デジデリオです」と告げられたエッセイストの森下典子さん。少ない資料を当たり、ついにはイタリアへ調査に飛ぶ。「実体験に基づくエッセイなのに、ミステリーやファンタジーのようで、すごく面白いんです。時空を超えて、いろいろな意味で旅行ができる一冊です」。

光文社知恵の森文庫 814円

『山家集』西行 宇津木言行 校注

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23歳で出家した僧が、旅路で見た花鳥風月と人のこころを歌う。

旅の中で自然の美しさに触れたとき、どう心が動いたかを歌い続けた平安〜鎌倉時代の歌人。〈願はくは花のしたにて春死なんそのきさらぎの望月のころ〉といった有名な歌や、恋や孤独を詠んだものも。「旅先での読書に、歌集は負荷がかからなくて最適。遠い昔の旅人と思いを共有すれば時間旅行気分も味わえる」。

角川ソフィア文庫 1276円

永井紗耶子

ながい・さやこ 1977年生まれ、神奈川県出身。2010年『絡繰り心中』で小学館文庫小説賞を受賞し、デビュー。'23年、『木挽町のあだ討ち』で、山本周五郎賞と直木賞のダブル受賞を達成。『めぐる糸』の第2弾が、今冬刊行予定。

背筋さんおすすめ

『ムーミン谷の彗星[新版]』トーベ・ヤンソン 下村隆一 訳

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彗星が近づく極限状況の中で、友達と大冒険へ出発し、成長する

空が赤く染まり、海は干上がる。ムーミン谷に彗星が近づき、異変が起こる中、その原因を知るため、ムーミントロールはスニフとおさびし山まで行くことに。途中でスナフキンと出会い、3人で旅を続ける。「干上がった海の裂け目に落ちないよう、長い竹馬で帰路についたり、本作全体が冒険を通しての異文化交流の話になっています」。

講談社文庫 748円

『昔話の民俗学入門』島村恭則

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昔話に見えてくる、伝統や慣習。それが生まれた背景を旅のお供に

「玉手箱の正体とは?」「笠地蔵はなぜ6体なのか」など、昔話に出てくる人物や不思議な出来事には、実はどういう意味が隠されているかを民俗学の観点から読み解いた本。「『こういう土地にはこういう話が生まれるのだな』と地域性の話も出てくるので、旅先だけではなく、旅の企画を練るときに読むのも面白いかもしれません」。創元社 1980円

背筋

せすじ 2023年、カクヨムで「近畿地方のある場所について」の投稿を開始。同年、KAOKAWAより書籍化されデビ ュー。モキュメンタリーブームを牽引する。『口に関するアンケート』(ポプラ社)ほか、著作は次々と話題に。

芦花公園さんおすすめ

『宿で死ぬ―旅泊ホラー傑作選』朝宮運河 編

古今東西の怪異譚の舞台となってきた「宿」についての11編

豪華作家陣によるホラーアンソロジー。「知らない場所で眠る不安やおちつかなさにピンポイントでスポットを当てた感じがよくて。旅先で読む本として薦めていいのか微妙ですが(笑)、とびきり怖いお話揃いです」。

遠藤周作/福澤徹三/坂東眞砂子/小池壮彦/山白朝子/恩田陸/綾辻行人/北野勇作/半村良/都筑道夫/小川洋子

ちくま文庫 990円

『ヨーロッパ退屈日記』伊丹十三

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著者の上質なユーモアと風刺精神。そのレンズを通して見た欧州とは

著者がヨーロッパで実際に見聞きしたことを、鋭い観察眼で洒脱に綴ったエッセイ。「『外国はこんなに素晴らしい』みたいな内容ではまったくなく、むしろ、文化の違いや常識の違いを面白おかしく書いていて、それをひたすら味わう感じ。親本はもう半世紀も前のものなので、現代のヨーロッパとの違いを味わうのも楽しいですよ」。

新潮文庫 693円

芦花公園

ろかこうえん 東京都出身。2021年、カクヨムに投稿した1編を含む『ほねがらみ』(幻冬舎)でデビュー。代表作・佐 々木事務所シリーズの第5弾『悪魔の微睡』(角川ホラー文庫)が最新刊として発売中。

文・三浦天紗子

anan 2505号(2026年7月22日発売)より

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