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好きな人にそっと置いた差し入れ。お礼を言われていたのは、私ではなく先輩でした

  • 2026.6.21
ハウコレ

まだ人のいないフロアで、私は買ってきた缶コーヒーを彼のデスクにそっと置きました。残業続きで疲れている彼に、ひとことも告げずに渡したかったのです。名前は、あえて書きませんでした。それが自分を傷つけることになるとは、思っていませんでした。

ひとことも言えなかった差し入れ

彼は同じ部署の同僚で、私がひそかに想いを寄せている人でした。ここ数週間、納期に追われて遅くまで残っている姿を、私はずっと気にかけていました。

いつだったか、彼が私に、徹夜続きで微糖の缶コーヒーばかり飲んでいると話していたことがあって。だから私は同じ銘柄を一本、小さなお菓子と一緒にデスクへ置いたのです。

名前を書けば、想いまで伝わってしまう気がしました。喜んでくれたらいい。ただそれだけの、ささやかな気持ちでした。

笑顔のお礼は、私のほうを向かなかった

人が増えてきたフロアで、彼が缶コーヒーに気づいたようでした。誰かを探すようにあたりを見回す彼の前に、ちょうどお菓子をよく配ってくれる先輩が通りかかりました。彼は明るい声で言いました。

「先輩、差し入れありがとうございます」

先輩は「いえいえ、いつものことですから」と笑って返しています。そして彼は続けました。

「こういう気遣いがさらっとできる人って、いいですよね」

その言葉は、自分のデスクにいる私の耳にまっすぐ届きました。ほんの短い間、彼と目が合った気がしましたが、視線はすぐに逸れていきました。

名前を書かなかったのは、私です

違う、それは私が置いたんです。そう言えたら、どれだけよかったでしょう。けれど名前を書かなかったのは私自身です。今さら手を挙げて主張するのも浅ましい気がして、私は手元の書類に視線を落としました。

本当に苦しかったのは、お礼の相手を間違えられたことではありません。「こういう気遣いがさらっとできる人って、いいですよね」と彼が口にしたとき、その視界に私がまったく入っていなかったことです。

毎日彼を目で追い、好きな飲み物まで覚えていた私は、彼にとって気づかれてすらいない存在だったのだと感じました。

そして...

それでも、私はあの差し入れを後悔していません。誰のためでもなく、疲れている彼に少しでも元気が出たらと思って選んだ一本です。お礼が私に向かなかったとしても、彼がそれを飲んで、ほんの少しでも力が出たのなら、それでよかったのだと今は思えます。

ただ、これからは自分の気持ちを、こんなふうに名前のないかたちで隠すのはやめようと決めました。次に何かを手渡すときは、ちゃんと自分の名前で。たとえ届かなかったとしても、私の気持ちは私のものとして、まっすぐ差し出したいのです。

(20代女性・会社員)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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