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”老化を遅らせる”蝶、近縁種の「3倍」長生きすると判明

  • 2026.6.18
長生きする蝶 Heliconius hecale / Credit:Greg Hume, Wikipedia commons, CC BY-SA 3.0

チョウの寿命と聞くと、多くの人は「数週間ほどではかなく消える命」を思い浮かべるかもしれません。

しかし中南米の熱帯雨林にすむドクチョウ属(Heliconius)の一部は、近縁のチョウよりはるかに長く、飼育記録などを含めると、最大でほぼ1年近く生きた個体も確認されました。

英ブリストル大学(University of Bristol)の研究チームは、この長寿が単なる偶然ではなく、老化速度の低下を伴う特徴である可能性を示しました。

その鍵を握るのが、成虫になってから花粉を食べるという、チョウとしては珍しい食生活です。

この研究は2026年6月16日付で、科学誌『Nature Communications』に掲載されました。

目次

  • ドクチョウ属は近縁種の約3倍も長生きする
  • 花粉だけでは説明できない「老化の遅さ」

ドクチョウ属は近縁種の約3倍も長生きする

多くのチョウは、成虫になると主に花の蜜を吸って暮らします。

蜜はエネルギー源となる糖を得るには適していますが、アミノ酸などの栄養は多くありません。

一方、ドクチョウ属のチョウは、成虫になってから花粉を集めて食べるという珍しい性質を持っています。

花粉にはアミノ酸が含まれており、体の維持や卵づくりに使える栄養を得られます。

研究者たちは以前から、この食性がドクチョウ属の長い寿命や長い繁殖期間と関係しているのではないかと考えてきました。

そこで研究チームは、ドクチョウ族の複数種について、商業バタフライハウスの飼育記録、野外で個体に印をつけて放し再捕獲する研究、さらに管理された飼育実験のデータを組み合わせて分析しました。

単に「最も長く生きた個体」だけを見るのではなく、中央値寿命、つまり半数の個体が生き残っている日数や、年齢とともに死にやすさがどう変わるかも調べています。

さらに体重の減り方や、脚でどれくらいの重さを引けるかを調べる“握力テスト”も行い、体の衰え方を比較しました。

その結果、花粉を食べるドクチョウ属は、花粉を食べない近縁のチョウに比べて、最大寿命や中央値寿命が長く、若い時期から高齢期までを通じた死亡の起こりやすさも低い傾向が見られました。

ドクチョウ属の一部は、近縁種に比べて平均3倍も長く生きていたのです。

そして集められた記録の中では、ドクチョウ属の一種 Heliconius hewitsoni が最大348日生きており、近縁の Dione juno が14日と比べて、記録上の最大寿命には25倍の開きがありました。

では、ドクチョウ属の長寿は、本当に「花粉を食べるから」だけで説明できるのでしょうか。

研究チームはこの点を確かめるため、花粉を与える条件と与えない条件を比べ、寿命だけでなく体の衰え方も調べました。

次項では、その詳しい結果を見ていきます。

花粉だけでは説明できない「老化の遅さ」

研究チームは、花粉を食べる代表種として Heliconius hecale、花粉を食べない近縁種として Dryas iulia を選び、花粉あり・花粉なしの条件で寿命や体の変化を比べました。

すると、H. hecale では花粉を与えた個体の中央値寿命が63日だったのに対し、花粉を断った個体では47日でした。

つまり、花粉は確かに長寿を支える効果を持っていました。

ところが、D. iulia では花粉を与えても寿命は延びず、中央値寿命は花粉ありで27日、花粉なしで29日でした。

さらに重要なのは、花粉を断たれた H. hecale でさえ、D. iulia より長く生きた点です。

これは、ドクチョウ属の長寿が「花粉を食べているから一時的に元気になる」という単純な現象ではなく、もともと彼らに長寿性がある可能性を示します。

ちなみに、体の衰え方にも違いがありました。

D. iulia は加齢とともに握力が低下し、5週目には1週目より約25.7%弱くなっていました。

一方、H. hecale では、より長く生きるにもかかわらず、年齢に伴う明確な握力低下は見られませんでした。

これは、ドクチョウ属が寿命を延ばしただけでなく、身体機能の低下、つまり生理的な老化そのものを遅らせている可能性を示しています。

研究チームは、花粉食によって成虫期にも栄養を得られるようになったことが、長く繁殖する生き方を可能にし、その結果として高齢期の体を維持する仕組みが生まれたのではないかと考えています。

ただし、花粉食と長寿の因果関係を完全に証明したわけではなく、化学防御など別の要因が関わる可能性も残されています。

今後は、筋肉機能の維持や免疫、代謝、遺伝子の働きなどを詳しく調べることで、自然界に存在する「老いにくさ」の仕組みに迫れるかもしれません。

この小さなチョウの体には、長寿研究の大きなヒントが隠れているのです。

参考文献

‘Geriatric’ butterfly species lives nearly three times as long as their relatives
https://phys.org/news/2026-06-geriatric-butterfly-species.html

元論文

Evolution of increased longevity and slowed ageing in a genus of tropical butterfly
https://doi.org/10.1038/s41467-026-73635-7

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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