1. トップ
  2. ヘルスケア
  3. 膝の痛みを「年齢のせい」と放置→ある夜、飛び上がるほどの激痛に襲われ…70代女性を襲った事態に「早く受診していれば…」

膝の痛みを「年齢のせい」と放置→ある夜、飛び上がるほどの激痛に襲われ…70代女性を襲った事態に「早く受診していれば…」

  • 2026.7.20
undefined
出典元:photoAC(※画像はイメージです)

みなさまこんにちは。周術期管理において、あらゆる病気をお持ちの患者さんを日々安全にお守りしている麻酔科専門医の松岡雄治です。

「健康診断で尿酸値は正常だったし、この膝の痛みはただの歳のせい。痛風なんてビールを飲む男性の病気だから、お酒を飲まない私には関係ないわ」。そう言って、心配する家族の「一度、整形外科で診てもらったら?」という忠告を聞き流していたHさん(70代女性)。

しかしある夜、突然、彼女の膝はラグビーボールのように赤く腫れ上がり、布団が触れるだけでも飛び上がるほどの激痛に襲われました。慌てて受診し治療を受けたことで激しい痛みは治まりましたが、発作を繰り返すうちに変形が進んだ膝関節の軟骨は完全には元に戻らず、「あの時、ただの疲れだと油断せず、もっと早く受診していれば…」と、階段を見上げるたびに深い後悔を口にしています。

なぜ、尿酸値が正常であるにもかかわらず、痛風のような激烈な痛みが突然関節を襲うのでしょうか。今回は、見逃してはいけない「突然の膝の激痛」について解説します。

偽痛風は関節の軟骨に溜まる「カルシウム結晶の暴走」

尿酸値が正常でも起こるこの病気は、「偽痛風(ぎつうふう)」と呼ばれます。お酒の飲みすぎなどが原因の痛風(尿酸結晶)とは異なり、高齢の女性にも非常に多く起こる偽痛風の医学的メカニズムは、以下のように静かに進行します。

【関節の中で炎症が爆発するフロー】
結晶の発生と沈着:関節の局所で「ピロリン酸カルシウム」という結晶が過剰に作られ、膝などの大きな関節の軟骨に、自覚症状のないまま静かに沈着を繰り返します。
結晶のはがれ落ち:何らかのきっかけでこの結晶が関節液の中へとはがれ落ちると、体の免疫システムである白血球が「敵」とみなして一斉に攻撃を開始します。
急激な炎症の爆発:白血球の攻撃によって関節内で激烈な化学反応が引き起こされ、急激な腫れと激痛が爆発します。

「いつもの痛み」と「危険な急変」の境界線

「歳を取ればあちこち痛むのは仕方ない」「湿布を貼って少し安静にしていればそのうち落ち着くだろう」。忙しい日々の中でご自身の小さな不調をやり過ごしてしまうのは、無理もありません。

しかし、本件を通してお伝えしたい「危険な境界線」があります。
実は、「ただの加齢による痛み(変形性関節症)」だと思って発作を我慢して放置していると、関節内で繰り返される炎症によって軟骨の破壊が急速に進行し、最終的に「人工関節」にする手術が必要になるケースもあるのです。
つまり、ただの変形性関節症だと思っていた裏側で、偽痛風の結晶が関節を傷つけ続けているかもしれない。ぜひその一線を超える前に、受診しましょう。

偽痛風は痛風と違って男女差がなく、60歳以上で急増し、その半数以上が「膝関節」に起こります。さらに、変形性関節症だけでなく、副甲状腺などの代謝性疾患、あるいは過去の怪我や半月板の手術歴がある場合も、結晶が溜まりやすくなる危険因子となります。

手遅れになる前に、確認すべき3つのサイン

「いつもの加齢による痛み」と、関節の中で結晶が暴走している「偽痛風の急発作」を見分けるために、以下の3つの初期サインをご確認ください。

1. 朝起きたら「急激に立ち上がれないほどの激痛」が走る

数ヶ月〜数年単位で徐々に痛む変形性関節症とは異なり、偽痛風は「昨日までは普通に歩けていたのに、急に膝に激烈な痛みが走り一歩も歩けない」という急激な発症が特徴です。

2. 膝が「ラグビーボールのように腫れ上がり、触ると熱い」

関節の中で白血球と結晶の激しい戦いが起きているため、膝に水が大量に溜まり、皮膚が赤く腫れて強い熱を帯びます。

3. 膝の激痛と同時に「微熱や体のだるさ」を伴う

炎症が全身の免疫システムに波及するため、体温が上昇し、まるで風邪を引いたような強いだるさを感じることがあります。

※極めて重要な注意点として、これらの症状(膝の激しい腫れ・熱感・微熱)は、関節の中に細菌が入り込んで化膿する「化膿性(かのうせい)関節炎」という、一刻を争う緊急疾患の初期症状とも全く同じです。細菌による感染だった場合、放置するとわずか数日で関節の軟骨が溶けて取り返しのつかない障害が残るため、自己判断せず、すぐに整形外科を受診してください。

膝の痛みを感じたらお早めの受診を

「これくらいで病院に行くなんて大げさだ」。そうやって急激な事態に困惑し、受診を先延ばしにしてしまうのは当たり前のことです。
偽痛風は、痛風と違って食事療法の必要がなく、関節に溜まった水を抜き、炎症を抑えるお薬(ステロイドなど)を直接注入する処置や適切な内服薬によって、驚くほど速やかにその激痛を取り除くことができます。
気になるときにはまずは、整形外科や専門クリニックを受診してみてください。その歩けないほどの激痛と不安を取り除き、大切な日常を守るためにぜひ医療を活用してください。


参考:

日本リウマチ学会 偽痛風

慶応義塾大学 KOMPAS ピロリン酸カルシウム結晶沈着症(calcium pyrophosphate dehydrate deposition(CPPD)症)、偽痛風(pseudogout)


監修者・執筆:松岡 雄治
総合病院や大学病院、小児専門医療機関での勤務を通じて、幅広い診療科の周術期管理に従事。現在は急性期病院の麻酔科医として最前線の医療に携わっている。専門医としての高度な医学的知見を活かし、医療・健康・美容分野でのコラム執筆や医学論文の解説などを幅広く手掛ける。医療AI技術開発プロジェクトへの参画など多岐にわたる実績を持ち、読者に寄り添った分かりやすい医療解説に定評がある。保有資格は麻酔科専門医、睡眠コンサルタント、睡眠検定1級など。

の記事をもっとみる

注目コンテンツ