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綴る、わがままな部屋。作家・九段理江の居住空間学

  • 2026.6.16

写真で伝わることもあれば、住まい手自身が書くことでしか見えてこない住まいの形もある。かつて住んだ記憶に残る部屋、窓から見える庭の移り変わり……住まいの数だけ物語がある。作家・九段理江が綴る、居住空間学。

本記事は、BRUTUS「居住空間学2026」(2026年6月15日発売)から特別公開中。

illustration: Anri Yamada

作家・九段理江、住まいのエッセイのイラスト
BRUTUS

住むこと、その街の一部になること

とあるサイトによれば、日本人の生涯の平均引っ越し回数は3回前後らしい。それでいうと、これまで30回は(覚えているだけでも)住まいを変えてきた私は、平均の10倍引っ越していることになる。

子供の頃の転居は、親の不仲が主な理由だった。全然自慢できる引っ越しではない。けれど、家庭内が不穏な空気になり始めると、不安と悲しさの中に、「次はどんな街に、どんな家に住むのだろう」と、新生活に期待する気持ちもたしかにあったのだった。回数を重ねるごと、部屋はアップグレードすることもあれば、ダウングレードすることもある。最初から恋している街もあれば、最後まで気に入らない街もある。いずれにせよ、子供だから文句なんて言えない。街と家の個性に合わせて、自分の思考と体を変える術(すべ)を、ただ自己流で身に付けていくしかなかった。そんなふうに育っていった住まいに対する感受性は、大人になってからずいぶん役に立っている。

BRUTUS

部屋は工夫次第でアレンジが利くが、街は代えが利かない。だから部屋を選ぶ時は、まず街から考えたい。私の場合は、本を読む環境が整っている街かどうか、というのが必須の条件となる。22歳の時、九段下のマンションで初めて一人暮らしをした。神保町の古書街と、千代田区立図書館が毎日の散歩コースだった。ベッドとデスクと椅子でいっぱいになる手狭な1Kだったけれど、そこで寝起きし生活する自分が、九段下という街の一部になっている事実が、ひたすらに誇らしかった(後に、筆名にするくらいには)。


profile

九段理江(作家)

くだん・りえ/1990年埼玉県生まれ。2021年「悪い音楽」でデビュー。22年には、「Schoolgirl」で第166回芥川賞候補、第35回三島由紀夫賞候補に。24年、「東京都同情塔」にて第170回芥川賞を受賞する。

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