1. トップ
  2. エンタメ
  3. 27年前、80万枚を超えた"アクセルしかない"ロックナンバー ブレーキを踏まない疾走の設計図

27年前、80万枚を超えた"アクセルしかない"ロックナンバー ブレーキを踏まない疾走の設計図

  • 2026.7.1

とにかく速い曲を浴びたい夜がある。考えごとを振り切りたい、迷いを置き去りにしたい、そんな日にちょうどいい一曲。刻むリフが鳴り出した瞬間から、こちらの呼吸まで前のめりになる。アクセルしかないクルマに乗せられたような感覚。当時、テレビの前で一気に体温が上がった人もいたはずだ。

B'z『ギリギリchop』(作詞:稲葉浩志/作曲:松本孝弘)ーー1999年6月9日発売

アニメ『名探偵コナン』のオープニング。日本中の子どもと大人が同じタイミングで聴いた一曲。だがこの曲のすごみは、共有体験の入り口だけでは終わらない。鳴り出しの一瞬で空気を切り替えてしまう鋭さで、いまかけてもまったく古びない。

歌が始まってもギターは一歩も引かない

イントロから松本孝弘のギターが刻み続ける。ザクザクという擬音がそのまま音になったような、無駄を削り落としたリフ。普通ならAメロでいったん減速して歌を立てるところを、この曲は減速しない。バックの刻みはそのままに、稲葉浩志の声が高い位置から滑り込んでくる。ふつう、歌が始まればギターは一歩引く。ここでは引かない。歌とギターが横並びで全速力。

サビ前の溜めも最小限。タメて落とす王道の気持ちよさではなく、走り続けたまま頂点を迎えるタイプの快感。稲葉の高音は喉を絞り上げるのではなく、上空をかっさらっていく。「ギリギリ」という言葉どおり、許容範囲のいちばん端っこで踏ん張り続けている緊張感が、サウンドそのものになっている。

長尺のギターソロも特筆ものだ。最近のJ-POPがどんどん短くしていったあの部分を、この曲は堂々と長くとる。しかも全編フルスピード。バンドのソロを「聴かせどころ」として疾走で押し切る判断は、ロックバンドの矜持そのものだ。

undefined
B'zコンサートより(C)SANKEI

助走からの再始動で合図を撃つ

前作シングル『HOME』が1998年7月。そこから次のシングルまで11ヶ月空いている。ベスト盤をリリースし、ソロ活動を行う。バンドとしての新作シングルの蛇口は、いったん閉じていた時期だ。

その沈黙のあとの最初の一発に、彼らはキャリアでも屈指の最速級を選んだ。普通ならここで世間の風向きを確かめる、こなれたミディアムでもいい。ところがB'zは「いちばん速い」を選ぶ。間を空けたぶん助走をつけて、再始動の合図にした。なるほど、これは宣言だ。俺たちはまだいちばん速く走れる、そう言い切りたかったのかもしれない。

その勢いのまま、1ヶ月後にはオリジナルアルバム『Brotherhood』が出る。『ギリギリchop』は単独の一発というより、加速していく一連の入り口に位置している。沈黙ののち、シングルで速度を立て、アルバムで領域を広げる。この設計図の鋭利さに、当時のB'zが何を目指していたかが透けて見える。

茶の間と映画館を1枚で受け持つ贅沢

2nd beat(B面)の『ONE』は同じ年の劇場版『名探偵コナン 世紀末の魔術師』主題歌。ひとつのシングルでテレビと映画館の両方を担当した形だ。テレビで疾走するロックを聴き、映画館で別の顔のバラードを聴く。この振り幅を1枚に閉じ込めた贅沢さは、ヒットメイカーの体力を示している。

売上は累計80万枚を超え、週間ランキングでも頂点に立った。数字の話をしているのではない。それだけの規模で、子どもも大人も同じ曲を共有していた事実が大きい。当時の小学生が大人になり、この曲がかかると今でも一瞬で背筋が伸びる、そういう肌感覚を全国規模で作った曲なのだ。

『コナン』というコンテンツの息の長さに乗ったわけでもない。むしろ逆だ。この時期の主題歌群が、長く続くコンテンツの初期記憶の核をつくった側だろう。月曜の夜、夕食をかきこんでテレビの前に身を乗り出した子どもの体に最初に流し込まれたロック。原体験としての破壊力は、いまも残響している。

速さが演出ではなく構造でできている

あらためて音量を上げて聴き直すと、やはり最初の刻みが鳴った瞬間に体が前へ出る。減速しないアレンジ、走り切るギターソロ、高音で押し続ける声。曲の中に休符の少ない楽曲は、聴き手にも休む暇を与えない。だけど疲れない。むしろ、聴き終わったあとに少し背が伸びている。走り切ったあとの清々しさが、聴き手の側にも残る。仕事の終わりに、長い坂を上り切ったあとに、もう一度この曲を浴びたくなる理由はここにある。

1999年に放たれた最速級は、二十数年を経ても最速のままだ。スピードを売りにした曲は時代の変化で色褪せやすいが、この曲は色褪せない。それは速さを「演出」ではなく「構造」で出しているからだろう。リフの組み立て、歌の置き方、ソロの長さ。設計が速いのだ。今日かけても、明日かけても、聴き手の背中をひと押ししてくる。

沈黙を破った一発は、いまも鳴り終わらない。むしろ、再生のたびに最初の一音目がいちばん新しく聞こえる。これほど何度も聴いてきたのに、毎回新品で届く。それがこの曲のいちばん不思議で、いちばん贅沢なところだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

の記事をもっとみる