1. トップ
  2. エピソード
  3. 「結婚はまだか」正月のたびに詰めてくる叔父→従兄弟が注意した後に、耳にした小声に背筋が凍った

「結婚はまだか」正月のたびに詰めてくる叔父→従兄弟が注意した後に、耳にした小声に背筋が凍った

  • 2026.5.22

毎年正月の恒例行事

父方の実家に親戚が集まる正月は、僕にとって楽しみでもあり憂鬱でもある。

料理は祖母の自慢の煮しめが並ぶし、いとこたちと顔を合わせるのも年に一度の機会だ。

ただ、毎年同じ展開が決まってある。

お屠蘇が回り、座敷の空気が緩んだ頃合いに、必ず父の弟である叔父が僕に向き直るのだ。

「結婚はまだか」

30代に入ってから、もう何度この言葉を浴びたか分からない。

仕事の話や近況をひと通り聞き終えたあと、最後の決め台詞のように繰り出されてくる。

こちらが言葉を濁すと、相手はまだ早いのか、相手はいないのか、と質問が枝分かれして続いていく。

父も母も笑って聞き流すだけで、止めには入らない。

毎年同じ会話を繰り返しているうちに、自分のいない場所でこの話題が消費されているのではないか、という嫌な感覚だけが蓄積していった。

従兄弟がさらりと止めてくれた瞬間

その年も、いつものように叔父が口を開いた。

お酒の入った顔で、笑顔のまま僕に向かって同じ問いを投げてくる。

そのときだ。隣に座っていた従兄弟が、お猪口を置きながらやんわりと言った。

「そういうの今どき失礼だよ」

声は決して大きくなかった。けれど座敷の空気が一瞬で静まり返り、テレビの音だけが妙に響いた。叔父は何も返さず、苦笑いのままおせちに箸を伸ばしていた。

その後は誰もその話題に触れなかった。僕は心の中で従兄弟に手を合わせた。三十数年の正月で、初めて誰かが代わりに言葉にしてくれた。胸の中の固まりが少し溶けていくようだった。

玄関で靴を履きながら、あの一言で空気が変わったんだよなと、まだ余韻が残っていた。

廊下で耳に届いた小声

帰り際、コートを取りに廊下へ戻ったときだった。中庭側の襖の向こうから、聞き覚えのある声が小さく漏れていた。

叔父の声だ。会話の相手は、別の親戚らしい。

「で、お宅のところはどうなの。結婚の話は出てるの」

口調も、間も、さっき僕に向けてきたものと寸分違わなかった。心臓のあたりが、すっと冷たくなった。

耳をすませると、相手も曖昧に答えを濁しているのが分かった。

叔父はそれを意に介さず、こちらに浴びせてきたのと同じ言葉で次の質問を重ねていく。

従兄弟の言葉も、座敷の沈黙も、叔父の中には何ひとつ残っていなかった。

ただ、聞き出す相手を変えただけだった。

来年もまた、同じ顔で同じ問いを繰り返す姿が浮かんでくる。咎める声があれほど軽く上書きされてしまう、その軽さが何より怖かった。

玄関で靴ひもを結びながら、襖の向こうから漏れてくる声を背中に聞いていた。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる