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ショウジョウバエは「13G」の”超重力”に耐える

  • 2026.5.18
ショウジョウバエは13Gに耐え、7Gで10世代にわたって生き延びる / Credit:Canva, ナゾロジー編集

アメリカ、カリフォルニア大学リバーサイド校(UCR)の研究チームが、ショウジョウバエを地球の4倍、7倍、10倍、そして最大13倍の重力にさらしました。

13Gは、人間にとっては極めて危険なレベルの重力です。

それにもかかわらず、ハエたちは24時間の超重力実験を生き延びました。

さらに4Gと7Gでは、卵から成虫まで超重力下で育てる長期実験も行われ、一部の系統は10世代にわたって繁殖を続けました。

しかも4Gでは逆に活動量が増え、7G以上では活動量を落とす“省エネモード”のような反応まで見られたのです。

研究結果は2026年4月23日付で学術誌『Journal of Experimental Biology』に掲載されました。

目次

  • ハエに超重力環境を経験させるとどうなるのか
  • 4Gでは活発化、7G以上では沈静化した
  • 超重力下で10世代にわたり繁殖したハエたち

ハエに超重力環境を経験させるとどうなるのか

宇宙生物学というと、多くの人は無重力環境を思い浮かべるでしょう。

実際、これまでの研究の多くは「重力を失うと体に何が起きるか」に集中してきました。

しかし宇宙飛行士は、打ち上げや地球への再突入時に3〜4G程度の強い重力を受けます。

また戦闘機パイロットは、急旋回のたびにさらに高いGへ日常的にさらされています。

それにもかかわらず、「重力が強くなったとき、生物の体はどう変化するのか」は、意外なほど詳しく分かっていませんでした。

そこでUCRチームは、ショウジョウバエを使った“超重力実験”を行いました。

研究チームが用意したのは、直径30cmの円盤を高速回転させる自作の遠心装置です。

小さな試験管に入れられたハエたちは、回転による遠心力によって、まるで地球よりはるかに強い重力を受けているかのような状態になります。

研究では4G、7G、10G、13Gの4段階の環境が作られました。

そして研究チームは、ハエの「負の走地性」を利用して運動能力を調べました。

負の走地性とは、本能的に上へ登ろうとする性質のことです。

ハエを試験管の底へ落として登る速さを測ったり、刺激を与えずに自由に動かしたりすることで、運動能力や日常的な活動量を詳しく調べたのです。

では、24時間、それぞれの重力を経験したハエには、どんな変化が生じたのでしょうか。

4Gでは活発化、7G以上では沈静化した

研究チームは、24時間の超重力曝露を終えた後、ハエたちを通常の1G環境へ戻し、その後の変化を詳しく調べました。

すると、非常に奇妙なパターンが現れました。

4G群のハエは、通常重力へ戻した後の1週間にわたる活動量モニタリングでは通常より明らかに活発になり、その後は徐々に元に戻っていきました。

つまり「少し重い世界」を経験したハエは、その後もしばらくハイパーアクティブな状態を維持したのです。

一方、7G、10G、13G群では、通常重力へ戻した後、登る速度が低下し、自発的な活動量も少なくなっていました。

研究チームは、4Gがある種の“活性化スイッチ”として働いている可能性があると考えています。

研究者は、重力が脳のエネルギー使用や運動に関する判断へ直接入り込み、「行動するか、エネルギーを節約するか」を左右している可能性があると説明しています。

さらに興味深いことに、この行動変化は体内のエネルギー貯蔵とも関係しているようでした。

研究チームは、ショウジョウバエの主要な脂肪量を測定すると、日数と重力条件の組み合わせに応じた変化が見られたのです。

慎重に結論を下すべきですが、行動の変化とエネルギー貯蔵が同時に動いていた点は、超重力が運動だけでなく代謝にも影響する可能性を示しています。

超重力下で10世代にわたり繁殖したハエたち

研究チームはさらに極端な実験も行いました。

今度は、卵から成虫になるまで、生涯ずっと超重力下で育つショウジョウバエの系統を作ったのです。

この長期・多世代実験で使われたのは、4Gと7Gの環境です。

しかも、それを10世代にわたって続けました。

つまり、卵、幼虫、蛹、成虫、交尾、繁殖のすべてを高重力環境下で繰り返したことになります。

それでもハエたちは生き延び、繁殖を続けました。

もちろん変化がなかったわけではありません。

長期間の超重力曝露では登る能力が低下し、特に7G群で顕著でした。

この傾向は1世代目だけでなく、10世代目でも確認されました。

つまり、超重力環境で長く生活すること自体が、運動行動へより強い影響を与えていた可能性があります。

しかし重要なのは、「極端な環境だから即座に破綻する」という単純な結果にはならなかったことです。

そして今回の研究の本当の驚きは、ハエが13Gに耐えただけでなく、重力の強さに応じて、活発に動く状態と活動を抑える状態を切り替えていた点にあります。

研究チームは今後、どの神経回路が重力を感知するのか、どのホルモンが活動と省エネの切り替えに関わるのか、そして長期世代飼育で遺伝的適応が起きるのかを調べたいとしています。

私たちは普段、重力を「ただ存在する背景」のように感じています。

しかし今回の研究は、その重力が、生物の行動や代謝、さらには「動くか休むか」という行動選択の仕組みにまで深く関わっている可能性を示してくれました。

参考文献

Fruit Flies Survived Extreme 13G Hypergravity That Would Crush Most Humans
https://www.zmescience.com/ecology/animals-ecology/fruit-flies-survived-extreme-hypergravity/

元論文

Hypergravity exposure leads to persistent effects on geotaxis and activity in Drosophila melanogaster
https://doi.org/10.1242/jeb.251327

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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