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「何もないよ」と笑った朝、俺はもう転勤の辞令を受け取っていた

  • 2026.5.14
ハウコレ

俺は同棲して1年半になる彼女と暮らしている会社員です。普段は営業の仕事で帰りも遅く、家事は彼女に任せがちでした。けれど、ある日突然出た転勤の辞令が、俺の生活を大きく変えることになったのです。彼女に伝えるまでの一週間、せめて優しさで時間を稼ごうとした不器用な日々と、その結末の話です。

金曜の夕方、辞令が出た

その金曜の夕方、上司に呼ばれて辞令が出ました。来月一日付で、地方支社へ異動。期間は最低でも2年。突然のことで、頭の中が整理できないまま帰宅したのを覚えています。リビングで笑っている彼女を見て、その夜には何も言えませんでした。土日もずっと、切り出すタイミングを探していました。週明けの月曜が来ても、まだ言葉にできないままでした。

優しさで時間を稼いだ一週間

月曜の朝から、俺は急に家事をやり始めました。朝ごはんを作り、洗濯を回し、出勤中も昼休みもメッセージを送る。我ながら、いつもの俺じゃない。後ろめたかったのです。「来月から地方勤務になる」と切り出すまでの一週間、せめて彼女のそばにいる時間の密度を上げたかった。優しさは罪滅ぼしであり、最後のプレゼントでもありました。

彼女に「ねえ、何かあった?」と聞かれたとき、俺は「何もないよ」と笑いました。嘘でした。

「何かやらかした?」に「逆」と返した夜

木曜、彼女からメッセージが届きました。「最近やたら優しいけど、何かやらかした?」画面を見つめたまま、入力欄にカーソルだけが点滅していました。

本当のことを書く勇気はなく、嘘もつきたくなくて、結局「逆」とだけ送りました。「また今度話すよ」と続けて、それから彼女のメッセージは開かないようにしました。彼女のせいじゃない。俺がやらかしたわけでもない。

ただ、俺が君のそばを離れるんだ。書ければよかった一文が、どうしても文字にできなかった夜でした。

そして...

金曜の夜、ようやく切り出しました。「来月から、しばらく東京を離れることになった」彼女は一瞬黙って、「……仕事?」と聞き返しました。「うん。地方勤務」

短く答えた俺の手を、彼女は黙って握ってくれました。「ありがとう」と返した彼女の声は、責めるでも泣くでもなく、穏やかでした。何もできなかった一週間の優しさが、彼女にはちゃんと届いていたのかもしれません。

これから始まる長い距離を、二人で乗り越えていくために、先に渡してしまった一週間ぶんの優しさを、これから時間をかけて形にしていこうと思っています。

(30代男性・営業職)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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