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男性はチームバトルをすると「愛情ホルモン」が高まる

  • 2026.5.7
Credit: canva

仲間とチームを組んで戦うとき、人の体の中ではどんな変化が起きているのでしょうか。

スポーツの試合で「よし、みんなで勝つぞ」と気持ちが一つになる瞬間は、単なる気合いや根性だけでは説明できないかもしれません。

スイス・チューリッヒ大学(University of Zurich)の研究チームは、ボリビアのアマゾンに暮らす先住民チマネの人々を対象に、チーム競技中のオキシトシンの変化を調べました。

オキシトシンは、親密さや絆に関わることから「愛情ホルモン」と呼ばれることがあります。

しかし今回の研究は、このホルモンが甘い愛情だけでなく、仲間と力を合わせて相手チームと競う「チームバトル」の場面でも高まる可能性を示していました。

研究の詳細は2026年5月6日付で学術誌『Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences』に掲載されています。

目次

  • 「愛情ホルモン」は仲良しの場面だけで働くわけではない
  • 男性では、相手が「ライバル」や「外集団」だと反応が高まった

「愛情ホルモン」は仲良しの場面だけで働くわけではない

オキシトシンと聞くと、親子の絆や恋人同士の親密さを思い浮かべる人が多いかもしれません。

実際、オキシトシンは出産や授乳、スキンシップなどに関わるホルモンとして知られてきました。

そのため「愛情ホルモン」という呼び名も広まりましたが、近年の研究では、オキシトシンは単に人を優しくする物質ではないと考えられています。

むしろ、誰を「仲間」と見なし、誰を「外の相手」と見なすのかという、集団の境界にも関わっている可能性があります。

これまでの研究では、鼻スプレーでオキシトシンを投与すると、人がより集団志向になる可能性が示されていました。

ただし、そうした研究は実験室内で行われることが多く、実際の集団競争の場でオキシトシンが自然に増えるのかは、よく分かっていませんでした。

そこで研究チームは、ボリビアのアマゾンに暮らすチマネの人々と協力し、サッカー大会を開催しました。

サッカーは、仲間と協力しながら相手チームと競う典型的なチーム競技です。

研究者たちは、選手の尿を試合前後で採取し、尿中のオキシトシン濃度がどのように変わるかを調べました。

ただ試合の前後を比べるだけでなく、相手がどんな集団なのかにも注目しました。

具体的には、よく知っている同族のライバルチーム、別のチマネ共同体のチーム、そしてチマネではない人々との対戦が比較されました。

男性では、相手が「ライバル」や「外集団」だと反応が高まった

結果として、男性では試合後にオキシトシン濃度が上昇しました。

特に上昇が大きかったのは、よく知っているライバルと対戦した後でした。

一方、別のチマネ共同体のチームと対戦した場合には、上昇は比較的小さくなりました。

しかし、チマネではない人々と対戦した場合には、オキシトシンの上昇が再び大きくなりました。

これは、オキシトシンが単に運動量や試合そのものに反応しているだけではなく、対戦相手の社会的な意味に反応している可能性を示しています。

つまり、相手が「よく知るライバル」だったり、「自分たちとははっきり違う外の集団」だったりすると、体の中で集団意識に関わる反応が強まるのかもしれません。

一方で、女性では男性のような試合前後の明確なオキシトシン変化は見られませんでした。

研究者はその理由として、女性参加者の多くが授乳中で、もともとのオキシトシン濃度が高かった可能性を挙げています。

また、チマネ社会では女性は男性ほど頻繁にサッカーをしないため、サッカーという競技の社会的な意味が男女で異なっていた可能性もあります。

さらに研究者は、男性が進化的に集団間競争へ強く関わってきたとする「男性戦士仮説」とも関連するかもしれないと述べています。

ただし、これは「女性には競争心がない」という意味ではありません。

チマネの女性にとって重要な競争は、身体的な試合ではなく、評判の管理や社会的支援をめぐる人間関係の中に表れやすい可能性があります。

また、この研究だけでは、オキシトシンの上昇がチーム内の結束を強めたのか、相手チームへの競争心を強めたのかを切り分けることはできません。

チームスポーツでは、仲間との協力と相手との競争が同時に起こるためです。

それでも今回の研究は、「愛情ホルモン」という名前の裏にある、もう少し複雑な働きを見せてくれます。

オキシトシンは、人をただ穏やかにするホルモンではなく、「自分たち」と「相手」を意識しながら協力するためのスイッチにもなっているのかもしれません。

仲間と肩を組んで戦うとき、私たちの体内では、勝ち負け以上に古く深い集団の仕組みが動き出している可能性があるのです。

参考文献

Love hormone enters battle mode, exposing rivalry and group lines in Amazon study
https://phys.org/news/2026-05-hormone-mode-exposing-rivalry-group.html

元論文

Us against them: oxytocin response to competition in a small-scale human society
https://doi.org/10.1098/rspb.2026.0242

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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