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方言を笑ったあの日、公園で聞こえてきた懐かしい訛りに足が止まった

  • 2026.5.6
ハウコレ

都会で暮らして15年。地元の言葉はとっくに捨てたはずでした。それなのに、あの日、聞こえてきたイントネーションが、封じ込めていたものを揺さぶりました。

18歳で消した言葉

高校を卒業してすぐ上京しました。地元の訛りが出るたび「どこの田舎?」と笑われ、必死で標準語を身につけました。美容院で「ご出身は?」と聞かれれば曖昧に笑ってかわす。それを何年も繰り返すうちに、方言は消えたはずでした。だから保育園で出会った彼女の、隠す気のない訛りが耳につきました。堂々と方言で話し、周りに合わせる気配すらないその姿が、なぜか落ち着かなかったのです。

あの一言の裏側

「あんた方言丸出しで恥ずかしくないの?」。ママ友の集まりで、気づけば口にしていました。笑いながら言ったけれど、心の中では笑えていなかった。恥ずかしくないの? それは彼女への問いかけではなく、かつての自分に向けた言葉だったのかもしれません。方言を隠さずに暮らせる彼女が、まぶしかった。でもそれを認めることは、自分が15年かけて築いた「都会の私」を否定することになる。だから笑うしかなかったのです。

足が止まった瞬間

週末の公園で、彼女がベンチのおばあさんに話しかけているのが見えました。「おばあちゃん、大丈夫?どうしたと?」。あの訛りは、3年前に亡くなった祖母の言葉と同じものでした。祖母の葬儀には出ませんでした。「仕事が休めない」と母に伝えて。でも本当は、地元に帰って方言に包まれるのが怖かったのです。あの場所に戻ったら、15年かけて塗り固めた都会の自分が剥がれてしまう気がして。

そして...

おばあさんが彼女の手を握って「ありがとうね」と微笑んだとき、喉の奥がぎゅっと詰まりました。あのとき祖母のそばにいたら、同じ言葉で「ありがとうね」と言ってもらえたのだろうか。あの温かい手を、握り返すことができたのだろうか。

彼女と目が合いました。何か言わなければいけないのはわかっていました。でも口を開けば、15年間押し込めてきた訛りまで一緒にこぼれ出そうで、私はただ目をそらすことしかできませんでした。方言を笑った私が本当は何を恥じていたのか、あの公園でようやく気づいたのに、その答えを声にする勇気は、まだありません。

(30代女性・会社員)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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