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「またかよ」GW明けの駅に響く怒号と舌打ち…5月の現場で現役駅員が痛感した“人身事故の実態”

  • 2026.5.13
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

皆さま、こんにちは。現役鉄道会社社員の福本明文です。

「本日もご利用くださいまして……」

午前8時15分。ゴールデンウィークの喧騒が嘘のように静まり返ったはずの週明け、駅のホームに聞き慣れた自動放送を遮って駅員のアナウンスが流れました。

「ただいま、〇〇駅にて人身事故が発生しました。運転を見合わせます」

その瞬間、ホームに漂っていた連休明けの憂鬱は、一気に苛立ちへと変わります。舌打ちをするスーツ姿の男性。スマホを片手に「またかよ」と呟く若者。改札や窓口には怒号を飛ばす乗客が押し寄せ、私たち駅員は平謝りしながら振替輸送を案内します。

連休が終わり、多くの人が「鉄道会社もようやく一息つけるだろう」と思う5月。しかし、現場の人間にとって、この時期は特段の緊張感を持って迎える要注意な季節なのです。

統計が示す「人身事故」の実態

鉄道の人身事故と聞くと、忘年会シーズンなどの酔客をイメージする方が多いかもしれません。実際、国土交通省の統計を見ても、事故件数が最も多くなるのは年末年始です。この時期の要因はその大半がアルコールによる足のふらつきやホームでの寝込みといったものです。

しかし、5月の特徴は件数ではなく、その中身にあります。

5月は連休があるため日常的な飲み会が減り、酔客による事故自体は減少傾向にあります。それにもかかわらず、人身事故全体の件数が極端に下がらないのは、アルコール以外の要因、つまり、体調不良やメンタルの不調による事故が他の時期に比べて相対的に増えるからです。

なぜ「5月」にトラブルが起きるのか

現場に立っているとその要因が肌で感じられます。

まず、 急激な気温変化による体調不良です。5月は、春の穏やかな気候から一転して、真夏のような暑さが顔を出す時期です。身体が暑さに慣れていない状態で、連休明けの満員電車に揺られると、自律神経が乱れ、立ちくらみや貧血を起こしやすくなります。ふらついてホームから転落したり、走り出した電車に接触するような事故は決して珍しいものではありません。

より深刻なのは、環境の変化による精神的な負担です。4月に新しい職場や学校に入り、気を張って過ごしてきた反動が、長期連休明けに一気に押し寄せます。たまっていた不安や疲労がふとした瞬間に足を踏み外させてしまうのです。

鉄道会社が進める命を守るための工夫

私たちは、お客様の命を守るためにハード・ソフトの両面から対策を講じています。

まずはホームドアの設置です。最も効果的な対策ですが、多額の費用と期間を要するため、全駅設置にはまだ時間がかかります。

ホームドアのない駅でも転落検知装置がある駅は少なくありません。これはホーム下にセンサーを設置し、異常を検知すると自動的に列車を止めるシステムです。

さらに、近年、多くの駅で見かけるようになった線路に対して垂直に置かれたベンチも効果的です。これは、主に酔客が立ち上がった勢いでそのまま線路に直進するのを防ぐためのもので、地道な工夫による対策です。

しかし、これらの設備も「自ら命を絶とうとする意志」の前では、万全とは言えません。

鉄道会社社員からのお願い

5月は心も体も無理が出やすい時期です。もし、駅のホームで少しでも「おかしいな」と感じたら、どうか以下のことを思い出してください。

・「駅ナカ」を避難所にしてください
気分が悪い、あるいは心がざわつくときは、無理に電車に乗る必要はありません。ホームのベンチで休むだけでなく、駅構内のカフェなどで一杯のコーヒーを飲み、落ち着くまで時間を稼いでください。わずかな時間かもしれませんが、その「数分」があなたの心を守ります。

・非常停止ボタンをためらわないでください
もし、線路に転落している人や、ふらふらと危険な歩き方をしている人を見かけたら、迷わずホームにある非常停止ボタンを押してください。「間違っていたらどうしよう」「電車を止めたら迷惑がかかる」と心配する必要はありません。

鉄道を安全に運行するために

連休で羽目を外した後の平日は誰にとっても辛いものです。適度な気分転換を心がけ、自分を追い込みすぎないようにしてください。

人身事故が起きるとダイヤが乱れ、多くの人が不便を強いられます。その裏側には、失われた尊い命と、深い悲しみに包まれるご遺族、そして現場で対応に当たる職員たちの無念があります。

人身事故がなく、誰もが安心して利用できる鉄道。その当たり前の景色を守るために、私たちは今日もホームに立ち続けています。どうか、あなたの大切な体を、心をお大事になさってください。


参考:
ホームにおける人身障害事故の件数(全国)(国土交通省)
可動式ホーム柵の「人身事故」防止効果について(公益財団法人鉄道総合技術研究所)
鉄道利用者等の理解促進による安全性向上に関する調査について(国土交通省)
鉄道交通事故の動向(内閣府)
鉄道自殺防止のための調査報告書(大阪府人権協会)



ライター:福本明文
大学卒業後、鉄道会社に総合職として入社し、鉄道業界を15年以上経験。鉄道部門だけでなく、関連事業部門のタクシーやバス、小売りなどを幅広く経験。現在はWebライターとしても活躍し、広報を担当した経験からコラム記事の執筆からSNSへのコンテンツ提供まで幅広く活躍中。


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