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「新幹線で豚まん」は果たしてマナー違反なのか?規定上は問題ない?現役鉄道社員の見解は

  • 2026.6.6
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

皆さま、こんにちは。現役鉄道会社社員の福本明文です。

暑い日が増えると、気になり始めるのが電車の中のにおいではないでしょうか。体臭だけでなく、香水や化粧品、あるいは持ち込まれた食品など、電車という狭い密閉空間におけるにおいの問題は非常に多岐にわたります。混雑する時間帯には不特定多数の人が密着して利用する車内環境において、においに関するお悩みは尽きることがなく、私たち鉄道会社も日々その対策に頭を悩ませています。

今回は、車内でついやってしまいがちな行為によるにおいの現状や、鉄道会社が進めている最新の対策、そして鉄道を利用する皆さまと一緒に考えたい車内での配慮についてご紹介します。

「豚まん論争」から考える規則とマナーの境界線

新幹線の車内で豚まんを食べることがマナー違反にあたるかどうかは、SNSを中心として、頻繁に大きな話題となります。

日本の鉄道営業における基本的なルールを定めた「鉄道運輸規程」の第二十三条には、不潔であったり、臭気のために他の旅客に迷惑をかけるおそれがあるものの持ち込みを制限できる、という旨の規則が存在します。しかし、一般に販売されている豚まんなどの食品がこの規則による強制的な持ち込み制限の対象に該当するかといえば、基本的には当たらないと解釈されます。つまり、規則上は車内に持ち込んで食べても問題はありません。

しかし、規則で禁止されていないからといって、周囲への影響がないわけではありません。豚まんやファストフード、あるいはアルコール類などは、周囲に強いにおいが広がりやすい食品であることは間違いありません。

車内に限らず、公共の場所においては規則に書いていないからといって自分のルールを押し通すのではなく、もしかしたら周囲にこのにおいを負担に感じる人がいるかもしれないという視点を持つことが大切です。周りへの配慮を少しだけ意識していただくことが、一人の鉄道会社社員としての切実な本音でもあります。

日本の車内飲食文化と線引きの難しさ

電車内での飲食に対する意識はにおい問題に大きく影響しています。海外の鉄道、特に都市部の地下鉄などでは、車内での飲食行為そのものが法律や規則で厳しく禁止され、罰金の対象となっている国も珍しくありません。

一方で、日本には古くから「駅弁」という旅の文化があることからわかるように、特に長距離を移動する列車の中で景色を眺めながら食事を楽しむことは、鉄道旅行の醍醐味の一つとしてある程度容認されてきました。そのため、どこまでの食品のにおいなら許容されるべきか、どこからを注意・制限すべきかという明確な線引きを行うことは極めて困難です。

デリケートな体臭の問題と多様化する「香り」の感じ方

暑い時期になると、食品だけでなく体臭に関する話題も多く聞かれます。しかし、これらは非常にデリケートな問題で、鉄道会社としても対応が極めて難しい案件です。車内を著しく汚損したり、他の利用者に直接的な実害を与えたりする場合を除けば、においだけを理由に列車の利用をお断りすることは原則としてありません。個人の体質や健康状態に起因するものであり、誰しもが当事者になり得る問題だからです。

さらに近年、対応の難しさが増しているのが、衣類の洗剤や柔軟剤、香水などから発せられる香りをめぐる問題です。これらは決して悪臭として作られたものではなく、本人は良かれと思って身にまとっているケースがほとんどです。

ここで重要なのは、香りの感じ方には大きな個人差があるという点です。ある人にとっては心地よいと感じられる香りであっても、別の人にとっては不快に感じられることがあります。

特に近年では、特定の化学物質や香料によって頭痛、めまい、吐き気などの体調不良を引き起こす「化学物質過敏症」などの症状を持つ方もいらっしゃいます。また、その日の体調が優れないときや、食品のにおいが引き金となって、乗り物酔いがひどくなってしまうケースも少なくありません。

この問題は、決して「においを発する非常識な人」と「過敏すぎるクレーマー」というような単純な対立構造で片付けられるものではありません。お互いの特性や体調への理解が不足していることから生じる、根の深い課題と言えます。

鉄道各社が進める「におい対策」

こうした目に見えないにおいの問題に対し、鉄道各社もただ手をこまねいているわけではありません。近年では技術の進歩を取り入れ、車両の設備面からのアプローチを積極的に進めています。

たとえばJR西日本をはじめとするいくつかの鉄道会社では、新型コロナウイルス感染症の対策をきっかけとして、車内の壁や手すり、天井などに「セルフィール」と呼ばれる空気触媒などの抗ウイルス・抗菌・消臭素材を吹き付けるコーティング加工を実施しています。これにより、車内に付着あるいは浮遊するにおい成分を分解・軽減する試みが行われています。また、多くの人が腰掛ける座席のシート自体に、あらかじめ消臭機能を持たせた特殊な繊維やシートを採用している鉄道会社もあります。

さらに、小田急電鉄をはじめとする各社では、一部の車両の車内にパナソニックの「ナノイー」などの技術を搭載した空気清浄機や空気清浄装置を設置する動きを広げています。こちらも感染症対策としての車内環境浄化が主な目的ではありましたが、同時に車内の不快なにおいを効率的に脱臭し、空気環境を常に清浄に保つという点においても大きな効果を発揮しています。

お互いが気持ちよく過ごせる空間を目指して

鉄道会社による最新テクノロジーを用いたハード面の対策は着実に進化していますが、完全にすべてのにおいを瞬時に消し去ることは技術的にも空間の構造上も不可能です。

だからこそ、最終的には利用者の皆さまのソフト面でのマナー、つまり、周囲への少しずつの配慮が不可欠です。電車という空間は、年齢や体質、健康状態も異なる多様な人々が限られた時間を共有する公共の場所です。

自分の好みや都合だけを優先するのではなく、一歩立ち止まって周りを見渡してみるという一人ひとりの優しい心がけが、結果として誰もが不快な思いをせず、体調を崩すこともない、スマートで快適な車内環境をつくり出します。

一人ひとりの少しの配慮を通して、過ごしやすい車内環境を目指していきましょう。


参考:
鉄道運輸規程 第二十三条
セルフィール(ニチリンケミカル)
車輛グループ(日本シール)
導入実績 小田急電鉄様(パナソニック)


ライター:福本明文
大学卒業後、鉄道会社に総合職として入社し、鉄道業界を15年以上経験。鉄道部門だけでなく、関連事業部門のタクシーやバス、小売りなどを幅広く経験。現在はWebライターとしても活躍し、広報を担当した経験からコラム記事の執筆からSNSへのコンテンツ提供まで幅広く活躍中。


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