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「朝だけキュルキュル鳴くんですよ」突然の異音も…整備士の警告を見送った30代男性。数週間後に訪れた“悲劇”

  • 2026.6.3
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

元自動車整備技術アドバイザーの松尾です。

「朝だけ少し鳴くだけだから大丈夫だと思っていた」そんな軽い異音が、突然の走行不能につながることがあります。エンジン始動時の“キュルキュル音”は、多くの場合、補機ベルトの劣化や張力低下のサインです。普段は問題なく走れていても、内部では摩耗が進行しているケースも少なくありません。

今回は、実際に“音だけ”を軽視したことで、走行中にベルトが切断し、突然動けなくなってしまった事例を紹介します。

朝だけ鳴く“キュルキュル音”…その正体は劣化サインだった

「最近、朝だけキュルキュル鳴くんですよ」

そう相談に来たのは、30代の男性でした。車は10年以上乗っている国産コンパクトカー。走行距離も増えてきていましたが、普段は特に不調を感じていなかったそうです。整備士がエンジンルームを確認すると、補機ベルトの表面には細かなひび割れが多数入っていました。さらに、ベルトの張りも弱くなっており、指で押すと大きくたわむ状態です。

「かなり劣化していますね。早めの交換をおすすめします」

そう説明すると、男性は少し驚いた表情を見せました。

「えっ、でも走ってると音は消えるんですよ。朝だけなんで、まだ大丈夫かと思ってました」

実は、この“朝だけ鳴く”という症状は、補機ベルト劣化の典型的な初期サインでもあります。冷間時はベルトが硬くなりやすく、張力が低下していると滑りやすくなります。その結果、プーリーとの摩擦で“キュルキュル”という音が発生するのです。逆にエンジンが温まるとベルトが柔らかくなり、一時的に滑りが減るため、音が消えることがあります。つまり、「音が消えた=直った」ではありません。
むしろ、劣化が進んでいるのに症状が一時的に隠れている状態とも言えるのです。

「まだ走れる」が危険…内部では摩耗が加速していた

しかし男性は、その場では交換を見送りました。

「車検も近いですし、そのとき一緒にやろうと思います」

確かに、異音以外に目立った不具合はありませんでした。エアコンも効き、警告灯も点灯していません。ですが、補機ベルトは“突然限界を迎える部品”でもあります。ベルトが劣化すると、ゴムは徐々に硬化していきます。すると柔軟性が失われ、プーリーとの密着性が低下。滑りが増えることで摩耗も加速していきます。さらに、滑るたびに熱が発生し、ゴムの劣化はさらに進行。

表面だけでなく内部の繊維層にもダメージが蓄積していきます。補機ベルトは、単なる“回転するゴム”ではありません。エンジンの回転を利用して、オルタネーター(発電機)やウォーターポンプなどを駆動する重要な役割を担っています。

つまり、ベルトが正常に回らなければ、

・発電ができない
・冷却水を循環できない

という重大なトラブルに直結するのです。それでも、“今は普通に走れる”という状態だと、危険性を実感しにくいのが現実です。

走行中に突然ベルト切断…発電停止とオーバーヒートの危険

それから数週間後。男性から再び連絡が入りました。

「突然ハンドルが重くなって、警告灯が点いて止まっちゃいました」

確認すると、原因は補機ベルトの切断でした。走行中にベルトが破断したことで、オルタネーターが停止。バッテリーへの充電ができなくなり、パワステなどの電装系は急速に電力不足に陥っていました。さらに、ウォーターポンプも停止していたため、冷却水が循環できず、水温も急上昇していたのです。

幸い、男性は異変に気づいてすぐ停車したため、大きなエンジン損傷までは至りませんでした。しかし、もしそのまま走行を続けていれば、オーバーヒートによる深刻なエンジントラブルにつながっていた可能性もありました。レッカー搬送後、男性はこう話していました。

「ただのベルト鳴きだと思ってました。こんな大事になるとは」

補機ベルトは、切れてからでは“走れなくなる”ケースが多い部品です。しかも劣化初期は、「朝だけ鳴く」「雨の日だけ音が出る」など軽微な症状しか出ないことも珍しくありません。だからこそ、“キュルキュル音”を軽く考えないことが大切です。音が一時的に消えても、安全になったわけではありません。

むしろ、それは劣化が進行しているサインかもしれないのです。もし始動時の異音が続いているなら、「そのうち直るだろう」ではなく、一度点検を受けてみることが、突然の走行不能を防ぐ大切な一歩になるでしょう。


ライター:松尾佑人(二級ガソリン自動車整備士・二級ジーゼル自動車整備士資格保有)
新卒で自動車整備業界に入り約8年間整備に従事し、現役メカニックに向けた故障診断アドバイザーや各種講習の講師として活動。 年間約1,200件の技術相談に対応し、電気回路や配線図の読み解きを基盤とした電子制御システムの解説を得意としている。


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