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「日本の最高を作りたい」ゼブラの技術を結集した最高峰ブランド「THE ZEBRA HAMON」5万円を超える最高品質ボールペンが誕生するまで【開発者インタビュー】

  • 2026.4.23

120年以上の歴史を持つ老舗文具メーカー、ZEBRA(ゼブラ)。私たちが普段から何気なく使っているボールペンの数々を生み出してきた同社が、5万円を超える最高級の油性ボールペン「THE ZEBRA HAMON」を発売した。

なぜ今、これほどの高価格帯に挑んだのか。そこには、日本のものづくりへの尋常ではない執念と、書き手に対する深い愛情があった。開発者である研究本部のシニア・プロフェッショナル中田裕二郎さんに、その誕生秘話を伺った。

ゼブラ 研究本部 研究部 シニア・プロフェッショナルの中田裕二郎さん
ゼブラ 研究本部 研究部 シニア・プロフェッショナルの中田裕二郎さん

圧倒的な存在感を放つフラッグシップモデル「THE ZEBRA HAMON」

2026年3月4日に発売された「THE ZEBRA HAMON」は、ゼブラが社名を冠して立ち上げた最高峰ブランド「THE ZEBRA」の第1弾モデルとなる油性ボールペンだ。価格は5万9400円。これまで海外ブランドが主流だった高級筆記具市場に対し、120年以上にわたり筆記具と向き合ってきた日本メーカーならではの視点と技術で切り込む、まさにゼブラの「集大成」といえる一本である。

「THE ZEBRA HAMON」各5万9400円
「THE ZEBRA HAMON」各5万9400円

本体には軽量なアルミ軸を採用。枯山水や水面の波紋を思わせる美しい模様は、1個につき1時間以上かけて作られ仕上げられているという。作動機構にはツイスト式(回転繰り出し式)を採用。ペン先を出すとクリップが連動して沈み込むギミックや、インク残量が確認できる透明窓など、過去のヒット商品で一世を風靡した機能が洗練された形で搭載。

さらに、書き味を左右する中芯には、開発に9年半をかけた最新の油性インクを採用。黒の中に若干青みを感じる「黒墨色」のインクが充填されたこの芯は、社内のマイスター制度で認定を受けたわずか3名のスタッフが、1本1本手作りで生産するクラフトマンシップによるもの。ペン先には初めから滑らかな書き心地を味わえる「エイジングチップ(慣らし加工)」が施されており、手にした瞬間から究極の書き味を堪能できる。

往年の名機能と日本らしさを体現した「波紋」デザイン

ーーまずこの「HAMON」の特徴について伺えますでしょうか。

【中田裕二郎】日本の最高を作りたい、ということで進めてきたんです。基本的には油性のボールペンなんですけれども、回転繰り出し式になっています。ちょっと手に取ってみてください。

「すべての部分において、ゼブラの最高技術が注ぎ込まれています」と語る中田さん
「すべての部分において、ゼブラの最高技術が注ぎ込まれています」と語る中田さん

ーーあ、触ってもいいんですか?

【中田裕二郎】もちろんです、筆記具なのでぜひ触ってみてください。

ーー(触りながら)ペン先を出すとクリップが下がるんですね。すごい。

【中田裕二郎】回転繰り出し式でペン先が出ます。その時にクリップが下がって、お辞儀してくれて、書く時に邪魔にならないようになっているんです。過去に私たちが手がけた、一世を風靡したようないろいろな機能をどんどん結集したいと考えました。

クリップでしたら、後端を押すタイプの「バインダークリップ」。こちらも高級品として継承したいなと。あとは、1960年代にうちが初めて透明の軸を採用し、「インクが見えるのに書けなくなったら無償交換します」というキャンペーンで一世を風靡した「みえるみえる」というキャッチフレーズで売り出した商品があったんですよ。その機能も高級品にふさわしい形で初めて透明窓を採用したいと考え、小型の窓を設けることで、インクの減りがわかるようにしてみました。

これまでに採用してきたイノベーションを採用した、フラッグシップモデル
これまでに採用してきたイノベーションを採用した、フラッグシップモデル

ーーインクがなくなってくると、透明なところがわかってくるという形なんですね。

【中田裕二郎】1966年に透明軸でインクの残量がわかる仕組みを弊社が最初に開発しまして。その後も「シャーボ」や、バインダークリップを搭載した「サラサ」など、我々の主力となっているロングセラー商品があるんですよね。そういったいろいろな技術や経験を踏まえ、全部を集大成として形にしたのが今回の「THE ZEBRA」というわけです。

ーーこの「みえるみえる」のボディの部分はプラスチックになるんですか?

【中田裕二郎】ボディの透明な部分には、高透明材の中でもスマートフォンのレンズカバーなどに使われるポリカーボネートを使用していまして。万が一落下させたときに一番力が加わる部分なので、強度にもこだわっています。

ーークリップのギミックについてですが、作動時にも工夫があるそうですね。

【中田裕二郎】クリップが上がるときに、通常はポコッと上がると(そのクリップが埋まっていた位置に)大穴が開いたままになってしまうものが多いんですけど、これはシャッターみたいなカバーがクリップと一緒に上がる構造になっているので、大穴が開くのを防いでくれるんです。ゴミなどが入っても影響しないように、一緒にせり出す仕組みにしていて。

「THE ZEBRA」のバインダー部のメカ機構
「THE ZEBRA」のバインダー部のメカ機構

ーーすごいこだわりですね。

【中田裕二郎】開発中はちょっとやりすぎたかなと思ったんですが、SNSなどでも「変態ギミック」なんて言っていただけていて(笑)。

ーーなぜ、この波紋模様にされたんですか?

【中田裕二郎】ゼブラらしさとは何かを考えたとき、「日本のゼブラ」として、どこかに日本らしさを出したいねという話になりまして。

そこで日本らしい自然の美を取り込もうと考えたんです。日本は水に囲まれて生活しているので、水を表現する言葉が世界中で一番多い国なんですね。その大元である水を感じる「波紋」のイメージを、禅につながるモチーフとして使ってみようと。静かな水面にポツンと滴が落ちるような、集中した状態で筆記が行えるようにという意味合いも込めています。

ーー加工面での難しかった部分はありますか?

【中田裕二郎】最終的には最新のNCマシン(プログラムされたデータに従って自動で精密加工を行う工作機械)で削っているんですけど、元となるデータは私が3D CAD(コンピュータ上で立体的な形状を設計するソフト)で作ったんです。実は今の最新式ではなく、かなり古いCADで作っています。ここまで複雑な造形だと、今主流の3D CADでは作りづらいので。 その古い3D CADを私がまだ捨てずに持っていたので、何とかできたというのがあります。

美しい波紋を生み出す切削加工は、最も苦労したポイントのひとつ
美しい波紋を生み出す切削加工は、最も苦労したポイントのひとつ

ただ、実際に切削していくと、やはり不都合がいっぱい生まれるんですね。ツールは回転しながら一筆書きのように削っていくので、どうしても刃が材料に持っていかれてしまう箇所が出てきます。できるだけそれをなくす工夫をしました。もっと時間をかけて削り込めばさらにきれいにすることはできるんですが、そうするとコストが全く合わなくなってしまうので、ちょうどいい塩梅を見つけるために、もう死ぬほどやり直しました。

ーーちなみにこの表面の手触りのよさは塗装によるものですか?

【中田裕二郎】いいえ、この波紋の造形をきれいに出したかったので、今回はアルマイト処理でやっていて。アルマイトは、表面に目に見えない無数の穴を開けて、そこに染料を流し込み、最後に蓋をするという技術なんです。そのため、金属の形状がそのまま活きるんですよね。塗装してしまうと、どうしてもこのきれいなエッジがぼやけて見えなくなってしまうので、わがままを言ってアルマイトでやらせてもらいました。アルマイトは日本発祥の技術だということもあって、この製品にぴったりだなと。

ーーもともとは一色で考えていらしたんですか?

【中田裕二郎】最初はずっと銀色にこだわって開発していたんです。ただ、高級品となるとやはり黒が人気ですので、黒はどうしてもラインナップに入れたかった。それに、水のモチーフなのでブルー系の色もやりたいということで、このカラー展開に落ち着きました。

ーーこのポリッシュな感じのやつは当初は想定してらっしゃらなかった。

【中田裕二郎】そうですね。(ポリッシュ仕上げだと)やはり安っぽく見えてしまうのと、滑りやすくなってしまうんですよね。なので、表面を荒らす処理を複数施して、握ったときにできるだけ滑りにくいように工夫して。若干の抵抗を感じるような質感に仕上げてからアルマイト処理をかけているんです。

ーーさりげなくゼブラって入ってるんですね。上のほうにはシマウマのロゴも。

【中田裕二郎】ゼブラのロゴは、光に当てないと見えないぐらいのさりげなさがかっこいいというか、静謐でシンプルにしたいと考えまして。実際にはレーザーで刻印しているんですけど、出力の調整にはこだわりましたね。パーツができ上がってからではなく、金属の生地の段階でレーザーを入れているので、実は刻印の上にもメッキ処理が乗っているんです。完成品にレーザーを当ててしまうと、そこだけ生地が露出して品質が落ちてしまうんですが、生地の段階で当てているので、ロゴの部分もしっかりと保護されているというか。

ペンの頭部には、社章でもあるゼブラを刻印
ペンの頭部には、社章でもあるゼブラを刻印
ペン中心のリングには、さりげなくブランド名が刻印されている
ペン中心のリングには、さりげなくブランド名が刻印されている

見えない部分にこそ宿る執念。究極の「書き味」を生み出す中芯の秘密

ーー外装だけでもものすごいこだわりですが、開発の中で一番時間がかかったのは、やはりあの波紋ですか?

【中田裕二郎】もちろん波紋の造形にも時間はかかったんですけど、全体的な品質を引き上げていく工程にも時間がかかってしまって。すべての開発がパラレル(同時進行)で動いていたので。通常、これくらいの開発期間だと、新規の中芯を作るだけでもういっぱいいっぱいなんですよね。

ーーなるほど。中芯の開発にもそれだけの時間が。どれぐらい研究されてここまで行き着いたのでしょうか?

【中田裕二郎】製品自体の開発構想期間は3年半ほどなんですけど。ただ、書き味に関するアイデア自体は、もともと技術者の間で気づいてはいたんですよね。「ある程度書き込むと、書き味がよくなるぞ」と。昔、各社のボールペンのチップが真鍮製だった頃から気づいていました。それが現在のステンレスチップになっても同じようなことができるのではないかと、ずっと話には上がっていたんです。ただ、実際にはすごくコストがかかってしまうので、これまでなかなか採用できなかったんですが、今回ようやく実現できたという形ですね。

中田さんが自らペンを取って、「THE ZEBRA」の書き心地のよさについて教えてくれた
中田さんが自らペンを取って、「THE ZEBRA」の書き心地のよさについて教えてくれた

ーーそれが、ペン先に“慣らし加工”を行う「エイジングチップ」ですね。その馴染み処理の発想は、どういう思いつきで誕生したんですか?

【中田裕二郎】各部署に「究極のアイデアを提出してほしい」と呼びかけたときに出てきたアイデアの一つなんですよ。使い込むと書き味がよくなることは以前からわかっていたので、「こういう加工をすれば最初からその状態にできるかもしれない」という話から始まりまして。

通常は、粗利や原価などを計算しながら製品を作っていくのがセオリーなんですけど、今回は価格よりも「最高の品質、最高の仕上がり」を目的としたときに何がいいのかを全社で話し合って。みんなでアイデアを出し合ったんですよね。

ーー(書いてみて)めっちゃ滑らかです。本当ですね。引っかかりが全くない。その加工技術というのも、特別なものがあるんですか?

【中田裕二郎】いろいろな方法を編み出したんですけど、具体的な加工方法については企業秘密で(笑)。

ちょっと書いていただくとわかるんですが、けっこうヌラヌラとした、筆記抵抗の低い状態になっていて。普通のボールペンですと、かなり使い込まないとこの「高筆感ゾーン」と呼ばれる滑らかな状態にはたどり着かないんですが、生産工程内でその処理を済ませているので、最初から最高の書き味が楽しめるようになっているんです。

ーーインクは普通の黒じゃないんですよね。

【中田裕二郎】ゼブラの黒インクは伝統的に若干青みを帯びているんですけど、それを継承しつつ、新たな黒としてさらに突き詰めていった感じです。私としては「黒墨色」と呼べるような色にしたいとこだわって。インクに青みが入ることで、筆記線がより美しく見えるなど品質面でのメリットもあったので、この色味に決めました。

ボール径は0.7ミリ。購入してすぐ、滑らかに文字が書ける
ボール径は0.7ミリ。購入してすぐ、滑らかに文字が書ける

ーーこのインク作りもどれぐらいのときからスタートしたんですか?

【中田裕二郎】本体の開発とほぼ同時進行でしたね。むしろ、インクの方が焦ってどんどん進めた感じで。中芯という形が存在しないと、ペン本体の設計ができないですから。

ーーペンにするうえで、最も苦労した点はどこでしたか?

【中田裕二郎】単純に中身のインク残量を見せればいいと思っていたんですが、これがすごく難しくて。中芯も新規開発なんですけど、最近のインクは性能が上がっている分、芯の内壁にこびりついてしまうんですよね。樹脂を侵して着色してしまう問題があって、インク自体にも工夫が必要になってしまって。

新開発された中芯。「みえるみえる」機能を具現化するため、特殊樹脂を採用して改良を重ねた
新開発された中芯。「みえるみえる」機能を具現化するため、特殊樹脂を採用して改良を重ねた

ーー「みえるみえる」の部分で消費量がわからないといけないからですね。

【中田裕二郎】そうなんですよ。通常、高価格帯のボールペンの替芯は金属製が一般的なんですけど、今回はどうしても「みえるみえる」の機能を搭載したくて。ボディに小窓を作っても、中の芯が金属製だとインクの残量が見えませんよね。そこでいろいろな工夫をして、医療系などで使われる非常に透明度の高い樹脂を採用しました。インク側も改良を重ねて、ようやく残量が見える仕組みを達成できたというわけです。

ーー手作りで製作されているそうですが、3名のマイスターの方はどういった工程を手作りでやられているんですか?

【中田裕二郎】インクの充填(インキング)から組み立てまでを手作業で行っているんです。この中芯、一本のパーツに見えますけど、実は7つくらいのパーツから構成されていて。透明のチューブの中にインクを入れ、組み立てていく一連の緻密な作業になります。

社内でもこれができるのは3名しかいないんですよね。普段は別の業務をしているベテラン社員で、必要な時に作業に入ってもらっています。社内のインク開発のメンバーでも失敗することがあるくらい、非常に難しいインキング方法なんですよ。

 3人しかいないマイスターの手作業により、1本1本中芯にインクが注入されている
3人しかいないマイスターの手作業により、1本1本中芯にインクが注入されている

ーーあえて手作りにこだわった理由は?

【中田裕二郎】これだけの最高級品なので、1本1本手作業で作るということが、逆に製品の価値につながるかなと思いまして。機械で大量生産すると、どうしても普通のボールペンと同じような作り方になってしまいますから。手作業であれば全数検査で隅々まで確認できるので、品質面でも一番安心できるというか。こういった生産体制をとるのは初めてのことですね。

ーーあと、作動感や重心バランスにもかなりこだわって作っていらっしゃるとか。

【中田裕二郎】通常、ツイスト式(回転繰り出し式)のボールペンは、内部メカの構造上、どうしても最後に「カクッ」とした感触が伝わってしまうんですよね。ペン先をロックするときに「カクッ」となるんですけど、それがどうしても気に入らなくて。そこで、メカの別の場所に潤滑剤を封入する部屋を作り、常に潤滑剤が塗布される仕組みをわざわざ作ったんです。本来の作動メカとは別に、上質な作動感を作り出しました。

また、中芯の中央付近に滑りのいい樹脂パーツを使っていて。本来ここにはスプリングを配置するんですが、今回は構造上置けないため、スプリング留めの代わりにこの樹脂パーツをつけているんです。この部分が中芯の中で一番太くなるので、もし金属パーツ同士が擦れると「シャリシャリ」とした嫌な感触が生まれてしまいがちなんですが、そこを滑りのいい樹脂にすることで、不快な作動感が起きにくいようにしています。

ーー重量バランスについてはいかがですか?

【中田裕二郎】高級なボールペンって、どうしても上軸側が重くなってしまうものが多いんですけど、この製品は外装の軸をアルミにして軽くしつつ、その分肉厚にして剛性感を持たせているんです。内部のメカ部分には真鍮パーツを使っていますが、真鍮は重いのでできるだけ肉薄に設計して軽量化し、代わりにペンを握る位置に重りを入れていて。これで最適な重量バランスを取っています。

一般的に高級品は、全体を重くすることで高級感を演出する傾向が強いんですが、私たちは実用文具をずっと作ってきたメーカーですので、高級品であってもあくまで「使いやすいもの」を目指しました。全体の重量も、金属軸のペンとしては比較的軽い30グラムを達成しています。

なぜ今、5万円超えなのか?ゼブラが最高峰ブランドに込めた覚悟

ーーもう3年半前から、ここまで高価格帯で品質にこだわったアイテムを発売しようというプランは練られていたんですか?

【中田裕二郎】 まず、「超高級なボールペンをやりたいね」という話が社内で持ち上がりまして。通常であれば、段階的に価格帯を上げていくのが普通だと思うんですけど、いきなりフラッグシップモデルを作ろうということになって。最初はノウハウがなかったので、販売店さんなどにヒアリングを行いました。

一般的に高級筆記具の世界では、万年筆をフラッグシップに据えて、それと同じデザインのボールペンを少し下のランクとして展開するパターンが非常に多いんですが、ボールペンメーカーとしてはなんか悔しくて。「万年筆に匹敵するような、最高のボールペンって作れないんだろうか」という思いからスタートしたんです。

「高級なボールペンを!」情熱をすべて注ぎこんで「THE ZEBRA」が完成した
「高級なボールペンを!」情熱をすべて注ぎこんで「THE ZEBRA」が完成した

ーーボールペンは一般的に100円から150円という価格帯だと思いますが、このタイミングで5万円超えという高価格帯に参入された最大の理由を教えてください。

【中田裕二郎】お客様や販売店さんから「ゼブラからもっと高いボールペンを出してよ」という声が多く寄せられていたんです。どうせやるなら最高のフラッグシップを作って、そこから逆にラインナップを広げていくのも手だなと。経営陣からも「お金がかかってもいいから、万年筆に負けないボールペンを一回作ってみたい」という意見もありまして。

気がつくと、国内メーカーのラインナップからそういった高価格帯のボールペンがすっかり減ってしまっていて。うちにも昔は高級ラインがあったんですけど、廃盤になっていましたし。いざ、ギフトとして誰かにボールペンを贈りたいと思ったときに、選択肢がないんですよね。「じゃあ、自分たちで究極のボールペンを作ろう」という機運がだんだん高まっていった感じです。

ーー作るうえで勝算的なものもあったんですか?

【中田裕二郎】いや、もう「売れる、売れない」という基準で考えていると、こういう企画は続かなくなってしまうので。まずは確固たる高級ブランドを成立させよう、「渾身の一本」を作ればいい、という思いが先行しましたね。販売店さんにもヒアリングに行き、高級筆記具市場では後発になるのだから、中途半端にせず「ゼブラらしさ」に完全に振り切っちゃおうと決めました。

一本のアルミ芯から、切削されてボディが完成する
一本のアルミ芯から、切削されてボディが完成する

そうやって必要な素材や技術を積み上げていった結果、価格が5万円を超えてしまったという形です。最初は高級品の作り方がわからなかったので、実は高級時計のメーカーさんにお話を伺いに行ったりもしたんですよ。ものづくりの姿勢やコンセプトの組み立て方など、すごく丁寧に教えていただきました。このペンの内部メカも複雑に見えるかもしれませんが、耐久性を持たせるためには、できるだけシンプルな構造にしたほうが壊れにくいといった哲学も参考にしています。

ーー仮にこのメカに不具合があった場合も、修理は可能な仕組みになっていますか?

【中田裕二郎】万が一の際も、私どものほうで修理対応が可能です。10年保証という形と、オーナー登録制なんですが、将来的に「THE ZEBRA」の新しい替芯(リフィル)が発売された際には、お試しとして1本無料でお届けするというサービスも用意していまして。これは業界でも珍しい試みとして、けっこう波紋を呼んでいるような部分にはなっていますね。

ーー発売後の反響はいかがですか?

【中田裕二郎】おかげさまで、生産が追いつかずにご迷惑をおかけしている状態で。店舗でも「入荷未定」という表示が多く、次回入荷に関するお問い合わせも多数いただいています。組み立て工程は人員を増やせば対応できる部分もあるので、今後はもう少し安定して供給できるようになると思います。

製造に非常に時間がかかるという点と、この製品のこだわりは見た目だけではなかなか伝わりにくいという事情もありまして。そのため、現在は高級筆記具の知識が豊富で、お客様にしっかりとご説明いただけるスタッフがいらっしゃる販売店様に絞ってお取り扱いいただいている状況です。

ーー実際の購入者はどういう層が多いんですか?

【中田裕二郎】やはり男性のお客様が多いですね。年代としては30代から40代くらいで、ビジネスの第一線でご活躍されているような方が多い印象です。ただ、販売店さん主催で試筆会をやらせていただいた際には、50代から60代くらいの方もけっこういらっしゃったので、幅広い層に興味を持っていただけているのかなと。

ーーボールペンってしばらく書かないと出なくなってしまうことがありますけど、この商品はそういうことはあまり起きないのでしょうか?インクの使用期限などはあったりするんですか?

【中田裕二郎】実は、インクには使用期限がありまして。何十年もそのまま使えるわけではないので、定期的に替芯を交換しながら使っていただくのがおすすめなんです。今回、新しい替芯の無償提供サービスを始めたのも、お客様に常に最新の最高の書き心地をご提供したいという想いからなんです。

 桐製の専用ボックスに収納されて手元に届く
桐製の専用ボックスに収納されて手元に届く

親から子へ、子から孫へと、外側の軸はずっと受け継いでいただきながら、中身の芯は最新のものに替えて使い続けてもらえるような存在になれたらなと。ちなみに、油性インクの寿命は一般的に3年程度とお考えいただければと思いますね。

ーー社名の「ゼブラ」をブランド名として出されましたが、その意図についてもう少し伺えますか?

【中田裕二郎】ゼブラの集大成を作ろうというプロジェクトだったので、いろいろなネーミング案をみんなで出し合ったんですけど、結局プロジェクトの最初に付けた「THE ZEBRA」という仮称を超えるネーミングが出てこなくて。社名をそのまま冠するのは、おこがましいというか、最初は少し恥ずかしい気もしたんですが、「まあこれ以上のネーミングはないな」ということで覚悟を決めてこの名前にしました。

ーー今後シリーズ展開の予定をされていますか?

【中田裕二郎】はい。まずは、検討候補の1つですが、カラーバリエーションの追加など、色味的な部分で新しい展開などがアイデアとしてあがっています。とにかく「最高峰のボールペンブランド」として育てていきたいですね。

ーーあえてアナログなボールペンでの最高峰モデルへの挑戦。今後、どうユーザーに届けていきたいとお考えですか?

【中田裕二郎】これからさらにデジタル化が進んでも、手書きという行為自体はなくならないので。むしろデジタル化が進むほど、手書きの再認識というか、その価値があらためて広く伝わってきていると感じていて。筆記具の役割も、単なる「実用的な道具」から、所有欲を満たしてくれたり、使うと気分が上がったりする「特別なアイテム」へとちょっと変わってきていると実感しているんです。

そうした「書くことの喜び」や「手書きの価値」を、今回の「THE ZEBRA」を通してあらためて皆様にお伝えしていきたいですね。よほどのことがない限り「ダメだ」とは言われない自信作に仕上がっているので、ぜひ一度、実際に手に取って触ってみていただきたいなと思っています。

ーーありがとうございました。お話を伺って、無性に手書きで文字を綴ってみたくなりました。

3色並んだ「THE ZEBRA HAMON」。手前から、鋼色(はがねいろ)、水藍色(みずあいいろ)、銀色(しろがねいろ)
3色並んだ「THE ZEBRA HAMON」。手前から、鋼色(はがねいろ)、水藍色(みずあいいろ)、銀色(しろがねいろ)

5万円超えという価格だけを聞くと、驚く人も多いかもしれない。しかし、中田さんの熱を帯びた言葉の数々と、妥協を許さないものづくりへの執念に触れると、その価値に深くうなずいてしまう。それはまさに、ボールペン界のロールスロイス、あるいはロレックスと言っても過言ではないだろう。親が大切に身につけていた高級時計を、いつしか子どもが譲り受けて時を刻み続ける。そんな美しい光景が、このボールペンなら実現できる。外側の軸は手にした人の歴史として受け継ぎながら、中身の芯は常に最新のものへと入れ替えて書き続けることができるのだから。

効率化やデジタル化が進む今の時代だからこそ、「書く」という行為そのものを特別な時間に変えてくれる道具。ゼブラが社名を冠してまで世に送り出したこの一本は、世代を超えて受け継ぎたくなるような、確かな温もりと気配をまとっていた。

「SARASA Grand」からも新商品が登場

ゼブラの人気ジェルボールペンシリーズ「SARASA」からも、金属軸を採用した高級志向の「SARASA Grand(サラサグランド)」(1650円)が登場しており、累計250万本以上(※2026年2月時点のゼブラ出荷実績)を販売。3月19日より、よりビジネスシーンに調和する色合いの新軸色が仲間入りした。新たに販売がスタートしたのはアッシュブラウン、クラウドグレー、チャコールグレー、ディープブルーの4色。

「サラサグランド」(各1650円)の新軸色。左からアッシュブラウン、クラウドグレー、チャコールグレー、ディープブルー。ボール径は0.5ミリ、インク色はすべて黒
「サラサグランド」(各1650円)の新軸色。左からアッシュブラウン、クラウドグレー、チャコールグレー、ディープブルー。ボール径は0.5ミリ、インク色はすべて黒

※記事内に価格表示がある場合、特に注記等がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。

取材・文・撮影=北村康行

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