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心療内科医が教える「こなすだけの毎日」から抜け出す方法3つ ─脳を“快”で満たしてやる気と幸福感を取り戻す

  • 2026.4.21

仕事も生活もきちんと回っている。トレーニングも続けている。それなのに「心が満たされない」と感じることはありませんか。以前は楽しかったことにも心が動かない。休んでも疲れが抜けない。そんな感覚を抱えている人は、実は少なくありません。それは「頑張り不足」ではなく、脳が“快”を感じる時間を失っているサインかもしれません。

心療内科医の横倉恒雄先生は、現代人の意欲低下の根本に「脳が喜ぶ“快”の不足」があると指摘します。身体は動かしていても、脳が本当に喜ぶ感覚体験が不足している——だから、やる気も幸福感も湧いてこないのです。

では、なぜ現代人は“快”を感じにくくなっているのでしょうか。 そして脳は、どうすれば本来の働きを取り戻せるのでしょうか。横倉先生に、そのメカニズムと日常でできるシンプルな習慣について話を聞きました。

意欲が出ない、無気力が続く…原因は「脳の快不足」だった

現代社会で私たちは、仕事、家庭、社会的な責任など、さまざまな役割を担って生きています。「こうあるべき」「これをやらなければ」と自分に言い聞かせながら行動するうちに、人は知らないうちに“役割の鎧”を身にまとってしまうのです(横倉先生)。

この“役割の鎧”とは、社会生活を送るうえで必要な思考や責任感のこと。仕事では責任ある立場として振る舞い、家庭では家族としての役割を果たす——どれも欠かせないものです。 しかし、この状態が長く続くと、脳は常に緊張し、休む間を失ってしまいます。

さらに現代の生活は効率重視になりがちです。 「食事を急いで済ませる」「スマートフォンを見ながら休憩する」「景色を見ずに移動する」。 こうした“ながら行動”が続くと、五感を使う機会が減り、脳にとって大切な刺激が届きにくくなります。五感からの刺激が減ると、脳は回復のタイミングをつかめません。

「脳は喜びや心地よさを感じることで回復します。ところが、感覚を使わない生活が続くと、脳は疲れたままになってしまうのです。その結果、意欲の低下や無感動、空虚感といった状態が生まれることがあります」(横倉先生)

次:“快”を感じたとき、脳の中では何が起きている

脳が”快”を感じると、やる気とパフォーマンスが変わる

では、“快”を感じたとき、脳の中では何が起きているのでしょうか。

脳は心地よさや喜びを感じると、副交感神経が優位になり、リラックスモードへと切り替わります。ストレスホルモンの分泌が抑えられ、自律神経のバランスが整うことで、脳は本来の働きを取り戻し、集中力や意欲が自然と回復していきます。

「やる気や前向きさは、努力だけで生まれるものではありません。脳が“快”を感じているときに、自然と湧き上がってくるものです」(横倉先生)

つまり、幸福感やモチベーションを高めるためには、まず脳の状態を整えることが欠かせません。トレーニングや仕事のパフォーマンスも、脳のコンディションに大きく左右されます。脳がリラックスし、感覚が整っているときほど、集中力や判断力が高まり、本来の能力が発揮されやすくなるのです。

茶の湯は「和のマインドフルネス」──五感を使って脳を整える

横倉先生が脳のケアとして実践しているのが、茶の湯です。茶道は、日本の生活文化の中から生まれた伝統であり、視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚という五感すべてを使う体験でもあります。

「茶碗の手触り」「釜の湯の音」「お茶の香り」「口に広がる味わい」。こうした一つひとつの感覚に意識を向けることで、人は自然と“今この瞬間”に心を置くようになります。これこそが「和のマインドフルネス」。五感を使って今を味わうことが、脳を整えることにつながるのです。

さらに茶道の考え方は、効率や成果を追いがちな現代人にこそ、大切な気づきを与えてくれます。忙しさの中で私たちは立ち止まる時間を失いがちです。だからこそ、五感を使いながら今を味わう「和の心」が、心と脳を整える貴重な時間になるのです。

「茶室では、人は社会的な立場や役割をいったん手放します。いわば“鎧を脱ぐ”ような状態です。茶室に入るとき、人は役職や肩書きではなく、ひとりの人間としてそこに座ります。そして一碗のお茶を静かに味わう。この時間が、脳を深いリラックス状態へ導き、本来の自分に戻る感覚をもたらします」(横倉先生)

横倉先生のクリニックでは、月に一度、誰でも参加できる茶会が開かれています。参加者の年齢や性別はさまざま。ある男性は体験後にこう語りました。 「普段は使っていない五感を使っている感覚がありました。“人”に戻ったような気がしました」

五感を使って一つの体験をゆっくり味わう時間は、忙しい日常の中で忘れがちな「人としての感覚」を取り戻すきっかけになるのかもしれません。

次:脳を快に導くシンプルな習慣

「こなす」から「味わう」へ──今日からできる脳の”快”習慣

私たちの毎日は、「仕事を終わらせる」「タスクを処理する」「予定を消化する」といった“こなすこと”の連続です。気づけば、体験そのものを味わう余裕がなくなってしまいます。 しかし横倉先生は、“味わう時間”こそが脳を整える鍵になると話します。

「人は何かを味わう時間があると、自然と心が落ち着きます。逆に、すべてをこなすだけの生活では、脳は休まることがありません。茶の湯の考え方は、特別な場所だけのものではありません。日常の中で“味わう時間”を取り戻すヒントが、そこにあります」(横倉先生)

そこで取り入れたいのが、忙しい人でも無理なく続けられる“脳を快に導くシンプルな習慣”です。

美味しいお茶をゆっくり味わって飲む

香り・温度・味わいに意識を向けるだけで、五感が働き、脳がふっと緩みます。

空や木々に目を向ける

信号待ちや電車の中でも、スマホをしまってひと息。空の色、木々の揺れ、光の変化に目を向けるだけで、脳は自然と緊張をほどきます。

“吐く”を意識した深呼吸を

気づいたときに、ゆっくりと深く息を吐いてみましょう。副交感神経が働き、心と体が静かに落ち着いていきます。

「特別なことをする必要はありません。五感を使いながら、自分をもてなす時間を持つことが大切です」(横倉先生)

“快を感じる力”は、現代を生き抜くセルフケアスキル

これからの時代に必要なのは、「快を感じる力」だと横倉先生は言います。

「忙しい現代社会では、意識しなければ“快”を感じる時間はどんどん減ってしまいます。だからこそ、自分の心と体を整える時間を意識的に持つことが大切です。こなすだけの毎日から、味わう毎日へ。ほんの少し立ち止まるだけでも、脳は変わります」(横倉先生)

脳が快を感じると、心は前向きになり、仕事や運動のパフォーマンスも自然と高まります。忙しい日々の中で、ほんの数分でも五感を使いながら自分をもてなす時間を持つこと。それは、現代をポジティブに生き抜くための“セルフケアの基礎体力”と言えるのかもしれません。

「健康という言葉は、病気がない状態を指すことが多いですが、人が本当に生き生きと暮らせているかどうかは、それだけでは測れません。忙しい生活の中にあっても、五感で喜びを感じながら前向きに生きている状態こそ、“健幸”と言えるのです」(横倉先生)

つまり健幸とは、単に病気がないことではなく、心と体がともに前向きに働いている状態のこと。忙しい日常の中で、自分を整える時間をほんの少しだけ持つこと。 その小さな積み重ねが、心も体も前向きに生きる“健幸”へとつながっていくのかもしれません。

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プロフィール

婦人科・心療内科医 横倉恒雄先生

医学博士。茶道家・表千家准教授。横倉クリニック(東京.田町)院長。慶應義塾大学医学部産婦人科入局。東京都済生会中央病院産婦人科に勤務、同病院にて日本初の「健康外来」を創設。病名がない不調を抱える患者さんにも常に寄り添った診察を心がけている。クリニックで行っている講座も好評。著書に『脳疲労に克つ』『心と体が軽くなる本物のダイエット』『今朝の院長の独り言』他。https://yokokura-clinic.com/

取材・文 入江由記

<Edit:編集部>

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