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まるでレモンスカッシュ! 酸味のある焼酎が今、面白い

  • 2026.4.14
FUKUDA SATOSHI

宮崎県にある柳田酒造の柳田 正さんとクリエイティブディレクター南 貴之さんのタッグによって生まれた「酸」は、焼酎の常識を覆す酸味をまとった一本。伝統と創造がひとつに溶け合う、全く新しい焼酎の誕生秘話に迫る。

Photos SATOSHI FUKUDA

Satoshi Fukuda

焼酎の常識を覆す「酸」の衝撃

東京・参宮橋の角打ちスタンド「寄(よせ)」から、これまでの焼酎の常識を覆す「酸」と名付けられた一本が発売され、感度の高いフーディーの間で早くも話題に。

この焼酎の最大の特徴は、その名が示す通りの「酸味」。焼酎造りにおいて長年タブーとされてきたこの要素をあえて前面に引き出したのは、宮崎県都城市で伝統と革新の両軸で焼酎を造りを続ける柳田酒造の5代目柳田 正さん。そしてこの未知なるポテンシャルを見抜いたクリエイティブディレクター・南 貴之さん。

ひと口飲めば、まるでレモンサワーのような爽やかさと、さつまいも由来のナチュラルな甘みが広がる。食中酒の新たな扉を開く、ミステリアスな一本。その誕生ストーリーとは?

Satoshi Fukuda

どよめきから始まった「規格外」の出合い

「寄」で3月にリリースされた「酸」は、南さんが各業界のプロフェッショナルたちと柳田酒造を訪れた際、ある“事件”に遭遇したことから始まる。

南さん 蔵を訪れたとき、柳田さんが珍しく弱気に試飲を勧めてきたのが、この焼酎との出合いでした。

柳田さん 自分が思い描いていた味ではなかったので……。

南さん そんなこと言っても、いつもおもしろい焼酎を造る柳田さんのことだから、謙遜だろうと思って タンクのふたを開けたら、本来酸っぱくないはずの焼酎から強烈な酸っぱい香りが漂っていて。その場にいたメンバー全員「え?」って固まった。この酸味は焼酎業界的には事件ですよ(笑)

柳田さん みなさんの反応を見て、あぁ、これは他の焼酎とブレンドして、別商品にするしかないと覚悟を決めましたね。

南さん でも、僕は直感的に「それはもったいない」と思った。その場でお湯割りや水割りを試してみたけど……正直、どれもおいしくない(笑)。「ソーダ割りならいけるんじゃないか」と試した瞬間、全員が「うまっ!」って。そこから空気が動揺から期待に変わりました。

Satoshi Fukuda

偶然から生まれた、レモンスカッシュのような香り

本来、蒸留酒である焼酎は、蒸留の過程で酸味や糖分が削ぎ落とされるため「酸っぱくない」のが常識。一体なぜ、この焼酎には豊かな酸が残ったのだろう。

柳田さん 原料の「紅はるか」というさつまいもが持つ甘さと華やかさを引き立てるつもりでワイン酵母と掛け合わせました。黄金千貫やハマコマチにワイン酵母を使うことはあったのですが、紅はるかは初めて。でも「絶対うまくいく」と自信満々で挑んだら……大変なことになっちゃいました。

南さん(写真) まさに「やらかした」(笑)。

柳田さん はい。実は芋が普通じゃなかったんです。うちの蔵では農家から届いた芋をすぐに使わず、一度寝かせて糖を上げるんですが、今回届いた芋は農家で1年寝かしていた。つまり甘さを蓄えた「蜜芋」状態の紅はるかをさらに熟成させてしまったんです。

南さん 糖分が最高の状態のところに酵母を入れた。

柳田さん そうです。酵母にとっては「大フィーバー」状態です。発酵の勢いが凄まじすぎて、温度が制御不能になりました。あまりの勢いに、通常なら蒸留器に残るはずの「酸」の成分までが、一緒に抽出されてしまったんです。

南さん 焼酎業界では「酸」が出るのはタブーなんですよね?

柳田さん 酢酸のツーンとくる感じは「オフフレーバー(異臭)」として避けるべきものです。改めて「酸」の香りを嗅ぐと、何も入れていないのにレモンスカッシュのように感じられた。

南さん 欠点も視点を変えれば魅力になるんですよね。

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「酸」が残留した、蒸留のミステリー

ここで、一般的な本格焼酎の製造工程を振り返えってみよう。造り方を理解することで「酸」が伝統を極めた先の、規格外であるかがわかる。焼酎の原料はさつまいも・麦・米・黒糖などの穀物に、こうじ・酵母・水の4つのみ。蔵元ごとのこだわりは多岐にわたるが、スタンダードな「本格芋焼酎」が完成するまでの主なプロセスは以下の5つに分けられる。

Step 1:こうじ造り
蒸した米などにこうじ菌を繁殖させ、でんぷんを糖分に変える。ここで使うこうじの種類(白・黒・黄)によって、キレやコクなど、仕上がりの個性が決まる重要な工程。

Step 2:1次仕込み
こうじに水と酵母を加え、元気な酵母を大量に増殖させて、ベースとなる「1次もろみ」が完成する。

Step 3:2次仕込み
主役となるさつまいもを投入。「1次もろみ」にさつまいもと水を加え、さらに発酵を深める。今回はここで「密芋」の糖分による爆発的な熱量の上昇が起きた。

Step 4:蒸留(じょうりゅう)
熟成したもろみを蒸留器へ。加熱して出た蒸気を冷やし、液体として抽出する。ここで「常圧」や「減圧」といった圧のかけ方を変えることで、風味の力強さや軽やかさをコントロールする。通常、酸味成分はアルコールや水よりも沸点が高いため、蒸気には混ざらず蒸留器のなかに残る。「酸」は酸が多く発生して一緒に蒸留された。

Step 5:貯蔵・熟成 〜 瓶詰め
原酒をタンクへ移し、一定期間眠らせる。角が取れてまろやかになったところで、ボトリング。

Satoshi Fukuda

蒸留器をカスタマイズする異色の蔵元

看板商品の芋焼酎「千本桜」を筆頭に、麦焼酎の「青鹿毛」や「赤鹿毛」、酒販店や他蔵とのコラボレーションなど、常に多彩な味わいでファンを魅了する柳田酒造。これほど豊かなラインナップを誇るのだから、さぞかし多くの蒸留器を使い分けているのかと思いきや、蔵にある蒸留器は意外にも1台だけ。

この常識を覆すモノづくりの裏側にあるのが、蔵元・柳田さんの「元エンジニア」という異色の経歴。柳田さんは目指す味わいや焼酎ごとに自ら蒸留器をカスタマイズして改造する。

柳田さん 蒸留釜に自分で穴をあけたり、芋に当てる蒸気の角度を変えるために部品をオリジナルで作ったり、酒質を変えるコントロールすることで、一つの機械から無限の香りを引き出しているんです。道具に合わせて造るのではなく、理想の香りやテイストを引き出すために道具を作り変えてます。

そんなエンジニアならではの変態的ともいえるこだわりが1台の蒸留器から無限の味わいを生み出す、柳田酒造の魔法の正体なのだ。

Satoshi Fukuda

飲み方は、問答無用のソーダ割り一択!

かつて豚骨ラーメンのスープが煮出しすぎた失敗から偶然生まれたように、この「酸」という新ジャンルは、焼酎の歴史を変える可能性を秘めている。

南さん これまでの焼酎は、酸がないからこそ万能でしたが、逆に合わせづらい料理もあった。でも、酸が加わることで、香りの輪郭もより鮮明になりますよね。ハッキリ言いますが、飲み方はソーダ割り一択です。炭酸の刺激と重なった瞬間、この酸が口の中でふわっと花開く。このマリアージュはちょっと体験したことがないレベルで、完全にクセになります。 夏に飲むのは最高だし、揚げ物やスパイスを使った食事にもこれ以上ないほど合いますね。

柳田さん 海外で「焼酎には酸がないから食中酒になりにくい」と言われるんです。もしこの一本が世界に出たらどう評価されるのか、非常に興味深いですね。

南さん ここ5年ほどでライチやグレープフルーツのような香りの焼酎が市民権を得たように、かつての禁じ手だった「酸」もひとつの個性として受け入れられていくはず。

柳田さん 焼酎はアルコールと水がほとんどで、いわば「香りを飲んでいる」ようなもの。感じる甘みも脳の錯覚です。そこに物理的な酸味という刺激が加わることで、食中酒としてのポテンシャルは飛躍的に高まる。

Satoshi Fukuda

伝統とは、創造を積み重ねること

熟成された芋、暴走した酵母、想像を超えた発酵、そして元エンジニアが作り上げた独自の蒸留器。狙って造ったものではなく、偶然が重なって辿り着いた、極めて稀有な到達点といえる。

南さん 僕が惹かれたのは、これが計算してできたものじゃないから。もう二度と再現できないかもしれない、その刹那的な個性に強く心をつかまれたんです。

柳田さん 実はこの味をどうやったら再現できるか、そのプロセスを解析して再挑戦しようと思っているんです。それも楽しみでもあるんですよ。

南さん また蒸留器を改造しちゃうんですか?(笑)

柳田さん はい(笑)。蔵のモットーは「伝統とは創造を重ねること、創造とは伝統を重んじること」。この「酸」も、これまで受け継いできた柳田酒造の伝統を重んじ、その本質を大切に守り抜こうとしてきたからこそ出来た、一つの形だと思っています。 焼酎造りの自由度が高まっている今、この「酸」を新たな起点として、伝統を繋ぐための挑戦を続けていきたいですね。

南さん 蔵で初めて試飲してから数日経っても、あの味が脳裏をよぎるほど、強烈に印象に残っています。伝統的な焼酎ファンは、あまりの規格外さに最初は驚くかもしれません。でも、柳田さんが“酸”という新境地を打ち出したことで、焼酎業界の新しい扉がまた一つ開いたという確かな手応えを感じますね。

Satoshi Fukuda

気になる味は「寄」でチェック!

「酸」の衝撃を体感したいなら、東京・代々木にある「寄(よせ)」へ。“寄り合い”をコンセプトに、南 貴之さんが全国各地で出合った“おいしい”を集めた場所だ。

店中央のコの字カウンターでは富山の餃子や京都のそば、沖縄のソーセージなど、各地の名店の一皿を“あて”に楽しめる。焼酎のほか、クラフトビールやナチュラルワインもそろう。「酸」はその場でボトル購入も可能。焼酎の未来を切り拓く一杯を楽しんでみては?

「酸」

度数25%
原料ワイン酵母使用熟成紅はるか
720㎖ ¥2,420 /1800㎖ ¥3,960

寄(yose)
住所/東京都渋谷区代々木3-38-10 1F
営業時間/11:30~23:00
定休日/水曜
Instagram/@yose_tokyo


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