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オスのタコには「メスを感知するための腕」があった

  • 2026.4.8
※ 画像はイメージです/ Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

海の中で静かに暮らすタコたち。

彼らは基本的に単独で行動し、他の個体と出会う機会は決して多くありません。

では、そんな孤独な生き物はどうやって交尾相手を見つけているのでしょうか。

この素朴な疑問に対し、米ハーバード大学(Harvard University)を中心として国際研究チームは、驚くべき答えを示しました。

それはオスのタコには「メスを感知するための1本の腕」が存在したというものです。

しかも、メスの姿が見えていなくても、その腕を伸ばして交尾することさえ可能であったのです。

研究の詳細は2026年4月2日付で科学誌『Science』に掲載されています。

目次

  • 見えなくても交尾できる?タコの不思議な行動
  • 「腕そのものがメス探知センサー」だった

見えなくても交尾できる?タコの不思議な行動

タコのオスは、8本ある腕のうち1本を「交接腕(こうせつわん)」として使います。

この腕は、精子を包んだ精包をメスの体内へ送り込むための、生殖に特化した器官です。

しかし今回の研究では、この交接腕が単なる「受け渡し装置」ではないことが明らかになりました。

研究チームは、カリフォルニア・ツースポットタコ(Octopus bimaculoides)を対象に、オスとメスを黒い仕切りで隔てた水槽に入れる実験を実施。

仕切りには、腕だけが通る小さな穴が開けられています。

するとオスは、相手の姿が見えないにもかかわらず、その穴から腕を伸ばし、メスを探し当てて交接腕を外套腔(がいとうくう、内臓を収めた空間)に挿入し、交尾を始めたのです。

実際の映像がこちら。

オス(右)が交接腕をメス(左)に伸ばす映像/ Credit: Pablo Villar, Harvard University

さらにこの行動は、完全な暗闇でも同様に観察されました。

一方で、オス同士の組み合わせでは、このような行動は起こりませんでした。

これらの結果は、タコが視覚ではなく、別の手がかりを使って相手を識別していることを示しています。

チームは、この仕組みを「触って味わうような感覚」と表現しています。

つまりオスのタコは、腕を使って相手を“触覚的に味わい”、交尾相手かどうかを判断しているのです。

このような能力は、単独生活を送るタコにとって非常に合理的です。

偶然出会った相手を、短時間で確実に見極める必要があるからです。

「腕そのものがメス探知センサー」だった

では、交接腕は具体的に何を感じ取っているのでしょうか。

チームは、メスの体内や皮膚から分泌される化学物質を調べた結果、プロゲステロンという性ステロイドホルモンに注目しました。

このホルモンが鍵であることは、2つの実験によって裏付けられています。

まず1つ目の実験では、オスの交接腕を切り離し、さまざまな物質に触れさせました。

すると、プロゲステロンに触れたときだけ、腕は活発に動いたのです。

つまりこの腕は、体から切り離された後でも、特定の化学物質に反応する感覚器官として機能していたことになります。

2つ目の実験では、メスの代わりにプロゲステロンを塗布したチューブを設置しました。

するとオスは、そのチューブを盛んに探り、まるで交尾しようとするかのような行動を見せました。

他の物質ではこのような反応は見られませんでした。

※ 画像はイメージです/ Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

さらに詳しい解析から、交接腕の先端には神経と感覚細胞が高密度で存在し、CRT1と呼ばれる受容体がプロゲステロンを検知していることが分かりました。

興味深いのは、この受容体がもともと「獲物を探すためのセンサー」として知られていた点です。

つまりタコは、餌を見つけるための仕組みを、交尾にも転用している可能性があります。

また、この受容体は種ごとに異なる進化を遂げており、タコが同種と他種を見分けるための仕組みにも関わっていると考えられています。

実際、沖縄の海に生息するウデナガカクレダコ(学名:Abdopus aculeatus)でも、視覚に頼らず交尾できることが確認されており、この仕組みは広い範囲のタコ類に共通する可能性があります。

タコの恋は「触れて味わう」

今回の研究が面白いのは、単に「タコの交尾が変わっている」と示しただけではない点です。

オスの交接腕は、精包を運ぶ器官であると同時に、相手を探し、メスの化学的サインを感じ取り、正しい場所を見つけるための感覚器官でもありました。

つまりこの腕は、生殖器官とセンサーが一体化した多機能な腕だったのです。

言い換えれば、タコの恋は「触れて味わう」ことで始まるのかもしれません。

参考文献

この腕は、愛のためにある タコが「触って味わう」感覚で 交尾相手を見分ける仕組みを解明
https://www.oist.jp/ja/news-center/news/2026/4/3/these-arms-are-made-loving

Sex at arm’s length? Male octopuses use specialised arm to mate, scientists find
https://www.theguardian.com/environment/2026/apr/02/sex-octopus-specialist-arm-mating-science

元論文

A sensory system for mating in octopus
https://www.science.org/doi/10.1126/science.aec9652

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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