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田中麗奈さん、金のおりんを盗んだ主人公に共感。コロナ禍で感じた“自分の人生じゃない閉塞感”|映画『黄金泥棒』

  • 2026.4.3
撮影=セドリック・ディラドリアン

10代で出演した清涼飲料のCMで一躍人気者になり、映画『がんばっていきまっしょい』(1998)に主演して以降、『夕凪の街 桜の国』(2007)、『幼な子われらに生まれ』(2017)など映画を中心に、テレビドラマや舞台でも活躍を続ける田中麗奈さん。

主演映画『黄金泥棒』は、『福田村事件』(2023)や『ナイトフラワー』(2025)など近年はシリアスな役どころが続いた田中さんにとって、久々のコメディ作品です。40代の主婦が出来心で数百万円もする金(きん)のおりんを盗んだことから、思いもよらぬ冒険に足を踏み入れる物語は実際に起こった事件から着想を得たもの。

自身と同世代の主人公・藤根美香子に深く共鳴したという田中さんに、作品への思いと、忙しい日々を送るいま、大切にしていることを語っていただきました。

「こんな面白い作品、私がやっていいんだろうか」

Ⓒ2025『黄金泥棒』FILM PARTNERS.

実話をもとにした作品ですが、最初に台本を読んだときの印象を教えてください。

エンタメとしてすごく面白くて、「こんな面白い作品、私がやっていいんだろうか」と。主演を務めさせていただくことも、こういう面白い映画に参加することも、本当に信じられないような嬉しい気持ちです。

実際にあった事件については知らなかったので、それについての驚きもありました。美香子のモデルとなった方は「あまりにも金のおりんの音色が美しかったから」と言っていたそうですが、当事者の心理として興味深いと思いました。

脚本自体は、監督が実話にインスピレーションを得て作られたオリジナルになっているので、笑えるところもありますし、実在の人物にこだわるというよりは、監督が描かれた美香子像を捉えていくという役どころでした。

美香子の人物像をどう解釈されましたか?

美香子はやっぱり、幼いころから野心はあった人だと思います。たくさん働いてキャリアウーマンになって、人から「すごい」と言われたい、社会に貢献したい、大学もしっかり行きたいという、とても意欲がある人。自分の力で何かを切り開いていく力強さ、強く人生を生きていくポテンシャルを持っていたと思うんです。

ただ、両親の「普通が一番」という価値観や「早く結婚しなさい」という圧力を受けたり、夫から「仕事を辞めて自分についてきてほしい」と言われたりすると、彼女はそれを真面目に捉えて流されていった。それを受け入れたことで、傍目にはすごく幸せな状況に見えても、彼女としてはどこか腑に落ちない、自分を生きていない状態だったんじゃないかなと思います。

ジャケット/53,900円(ヴェニット/ハルミ ショールーム tel.03-6433-5395)、スカート/29,700円(デ・プレ tel.0120-983-533)、ネックレス/105,600円(エンド カスタム ジェエラーズ×ハイク/ボウルズ tel.03-3719-1239)、ピアス/2,750円、リング/3,630円(シースキー/ロードス tel.03-6416-1995) 写真撮影=セドリック・ディラドリアン

金のおりんを盗む場面が物語の起点になりますが、あの瞬間の心理はどう解釈しましたか?

本当に、すっと自然におりんに惹かれてしまったというか。ファンタジーのような時間だったのではないかと思います。

彼女は靄がかかったような状態で日常を過ごしていました。そこに“金”というものが色濃く目の前に現れた時に、手に取るだけじゃなく、カバンに入れてしまった。魔が差したのかもしれないけど、彼女にとっては本当に「ただ惹かれてしまった」、それだけの気持ちだったんじゃないでしょうか。

着圧ソックス姿も披露!あえての生活感を提案

パジャマ姿の美香子。別シーンでは、パックに着圧ソックスという出で立ちで登場する。 Ⓒ2025『黄金泥棒』FILM PARTNERS.

日常生活のリアルさがとても印象的でした。美香子が着圧ソックスをつけた脚をむき出しでソファに寝ていたり、お惣菜をパックのままテーブルに出したり、気を抜いた暮らしの描写にリアリティがあります。

最初のシーンで美香子は着圧ソックスを着けたまま登場するのですが、これは打ち合わせの時に私の方から提案させていただいたところ、監督が「それいい!」とおっしゃって採用されました(笑)

ぼーっと寝ている美香子の姿に、さらに無防備さを加えたら面白いんじゃないか、お家の中で誰にも見られていない時間を表現できたらいいなと思いました。

生活感というところでいうと、夫役の阿諏訪泰義(あすわたいぎ)さんとリビングで食事をするシーンもありますね。監督が「映画って綺麗にお皿を並べた食卓のシーンが多いけど、買ったお惣菜をパックのまま出して生活感を入れたい」とおっしゃって、実際にお惣菜のパックから直接食べるシーンになりました。

田中さんも監督・脚本の萱野孝幸さんも福岡県出身で、映画も福岡が舞台ですね。

福岡や九州の人には強い地元愛と結束力があります。私は福岡県久留米市出身で、福岡市内は「都会に来た!」と感じる憧れの場所でした。

撮影中は、この年齢になって10代のころに歩いていた場所で映画を撮っているのが不思議で夢のようで……。「人生って面白いな」としみじみ思いました。

俳優になれなかったら…と思い詰めた学生時代

撮影=セドリック・ディラドリアン

美香子への共感はありましたか?

共感はすごくありますね。2つあって、1つは、自分も5歳のころから俳優になりたいと考えていたことです。学生時代に「なれなかったら生きている意味がない」と思いつめたこともありました。いま、こうしてお仕事させていただけてありがたいことですが、もし俳優になれていなかったら本当に自分はどうなっていただろうと思います。

生きる術がない、精神的に耐えられないという状態になっていたのかなと。そういった意味で、幼いころから夢や野心を持っていたのに、それが叶わなかった美香子が行動を起こすという心情には、どこか共感できる部分があります。

もう1つは、子どもが生まれたあとで、現場になかなか立てない時期がありました。子どもと毎日過ごすのはすごく楽しいし、充実しているけれども、「これがずっと続いてしまうのか」という恐怖に陥ったことがあって。生きているけれど自分の人生じゃないような感覚になったんです。

子どもと一緒にいる時間はとっても楽しい。ただ、急に人生が変わってしまったことの戸惑いだったのかもしれません。ちょうどコロナ禍で人にも会えず、仕事がとても遠く感じてしまったあのころの閉塞感が、映画の導入部の美香子の状態とすごく重なりました。

今回、40代の女性が主人公というのは日本映画では珍しいとも感じました。

そうですね。美香子が自分の人生を取り戻すという物語です。金のおりんを盗んだ後、さらに無謀な計画に挑むのも、「自分にしかできないことって何だろう」と幼いころからずっと考えてきたことがああいう形に結実したんだと思います。

その計画も実際は“悪いこと”なんですが、そのために邁進する彼女を不思議と応援したくなるし、40代は「本当の自分はどう考えているんだろう、これからどう生きたいんだろう」と自分で考えて行動できる年齢だからこそ、するかしないかで大きく変わる。40代ってまた面白い年代だなと改めて考えました。

子どもを産んだ直後はお仕事が減った時期もありました。また、いつかは映画で主演できるようになりたい、50歳くらいのころかな?と思っていたので、今回の思いがけないお話に本当に驚きました。「いいの?」って感じでしたね(笑)

「平凡」という言葉に、美香子は強いコンプレックスを持っていますが、田中さんご自身はどう受け止めていますか?

「普通が幸せ」と言うけれど、ずっと同じだとやっぱり苦痛になってしまうんじゃないかな。人ってやっぱり刺激が必要で、映画を観たり本を読んだり、そういう栄養を求めているんじゃないかと思います。私は変化を求める人間だと思うし、違う場所に出かけたり、違う環境に身を置くことが好きなので、ずっと同じところに自分を置かないようにしているのかもしれないですね。

美香子には「特別な人になりたかった」という思いもあります。10代からお仕事をされてきた田中さんご自身は、美香子の夢見た理想像そのものと言えそうですが、田中さんにとっての「特別」とは、どんなことでしょう?

「特別な人」になるために、考えていることはあります。どんどん更新していきたいということです。

たとえば、海外の作品に出演したいという以前からの夢があります。日本と合作の作品も増えていますし、日本と海外のチームが協力し合って1つの作品を作り上げていくその場に自分もいたいし、刺激を受けたい。

そのうえで子どもに愛情を伝えていくことも大切にしたい。そういう特別な人になるために、自分を更新していくことを意識しています。

仕事と家庭、両方あるから“楽しい”

Ⓒ2025『黄金泥棒』FILM PARTNERS.

美香子と夫の関係についてはどう見ましたか?

旦那さんは、本当の美香子を見ていないんじゃないでしょうか。いつまでも可愛くて何もできなくて、ちょっととぼけた女の子というイメージを抱いたままな気がします。

そういう部分ももちろん美香子には残ってはいるけれど、彼女自身も本音を話してこなかったのかもしれません。話す隙を与えられなかったのかもしれないし、本当の彼女の生き方であったり、どういう時に笑っているかに興味を持ってもらえていたのかな、とは思いますね。

美香子自身は寂しかったと思うし、「こっちを見てほしい」という気持ちもあったんじゃないかな。おりん盗難を機に夫婦で一緒にいる時間は増えたし、協力して作戦を組む場面では美香子の目がキラキラしています。美香子は楽しかったんじゃないかな。夫婦で何かを共有して一緒にやっていくことを、本当はずっと求めていたのではと感じました。

一緒に考えて行動するのは、夫婦にとって大切なことですね。

子育てをしていると、そういうことになりますね。美香子たちの生活はそうではなかったので、余計すれ違いはあったかもしれません。

近年、多くの作品に出演されていますが、仕事と家庭の両立について心がけていることはありますか?

「両立は大変」というイメージがありますよね。大変というキーワードができていますが、私にとって両立は「楽しい」なんです。両方あるから楽しい。子育てだけだとちょっと行き詰まることもあるし、お仕事も、子育てがあるからこそ頑張れるし、余計に力が湧いてくる。

忙しいのも元々好きなので、「忙しい、最高!」と思ってやっています(笑)。子どもはすごく可愛いし、キュンとすることもいっぱい言ってくれる。愛情もすごく伝えてくれるので、一緒に過ごす時間は本当に幸せです。一方で、撮影で役にグッと入って、何もかも全て忘れて没頭している時間があります。違う人生を経験しているその時間は、自分の世界だし、どちらも大事です。

ご自身の世界というものをとても大切にされているのですね。

はい。お芝居をしていないと体が悪くなってしまうくらいなので、生きるために仕事をしていると言えます。それがないと自分ではないと感じるので、これが私にとっての“自分らしい生き方”だと思っています。

【インタビューを終えて】

どんな話題にも同じ熱量で向き合い、自分の言葉で語る田中さん。仕事と家庭のどちらかを選ぶのではなく、両立することを「楽しい」という晴れやかな表情が印象的でした。

自らを大切にできる人は、愛する人たちのことはもちろん他者に対して誠実でいられるのだと感じさせられます。

黄金に魅せられ大胆な計画を実行に移す美香子は、忘れていた活気を取り戻し、いきいきと輝き始めます。仕事に打ち込み、母として子どもとの時間も慈しむ田中さんは、美香子が無意識に望んでいたものを深いところで理解していたのでしょう。

そんな田中さんだからこそ、無謀さの裏に寂しさを抱えたヒロインを、重く見せることなくチャーミングに演じています。

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撮影=セドリック・ディラドリアン 取材・文=冨永由紀 編集=井本茜(婦人画報編集部)

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