1. トップ
  2. 25年前、70万超の孤独を飲み込んだ“絶望” 終わりのない哀しみを肯定した「唯一無二の表現力」

25年前、70万超の孤独を飲み込んだ“絶望” 終わりのない哀しみを肯定した「唯一無二の表現力」

  • 2026.5.16

2001年5月、CDショップの店頭。ずっしりと重みを感じるマキシシングルのプラスチックケースを、期待と緊張を混ぜ合わせながら手に取った感覚を覚えているだろうか。透明なフィルムを剥がし、カチリと音を立てて蓋を開ける。円盤をプレイヤーに吸い込ませ、ヘッドフォンを耳に当てた瞬間に訪れる、あの濃密な孤独。25年前の初夏、街を包んでいたのは、そんな剥き出しの感情を詰め込んだ一枚のディスクだった。

浜崎あゆみ『Endless sorrow』(作詞:ayumi hamasaki/作曲:CREA)ーー2001年5月16日発売

通算22枚目となるこのシングルは、当時の音楽シーンにおいて圧倒的な存在感を放っていた。ヒットチャートの常連であり、時代のアイコンとして君臨していた浜崎あゆみが、自ら作曲を手がける「CREA」名義での活動を本格化させていた時期の作品である。

蒼い絶望を飲み干して生まれた、鋼の旋律

CREA名義で浜崎あゆみが自ら描いたメロディは、どこまでも内省的で、かつドラマチックな昂ぶりを見せる。TBS系ドラマ『昔の男』の主題歌としてお茶の間に流れたその音は、藤原紀香が演じた主人公の揺れる情念と共鳴し、視聴者の胸を強く締めつけた。

不倫という道ならぬ恋、そして過去の愛に囚われる男女の姿。ドロドロとした人間模様の背景で、この楽曲は決して綺麗事ではない「痛み」を肯定するように響いていた。美しく着飾った成功者の姿ではなく、誰にも見せられない欠落を抱えた一人の人間としての震えが、ピアノの冷たい旋律から伝わってくる。

undefined
2001年3月、日本ゴールドディスク大賞を受賞した浜崎あゆみ(C)SANKEI

運命に抗うための、名もなき叫びの証明

この楽曲が70万枚を超える売上を記録した背景には、当時の若者たちが抱いていた「居場所のなさ」に対する共鳴があった。歌詞に綴られたのは、翼を失い、それでも空を見上げることをやめない孤独な魂の独白である。

あゆ本人が綴ったで言葉たちは、聴き手の内面に深く沈み込む。「羽ばたき」という行為が、自由ではなく苦しみや責任を伴うものであると突きつける鋭い視点。誰もが「もっと高く」と煽られる時代の中で、傷ついた翼を抱えて立ち尽くす勇気を描いたことが、多くのリスナーにとっての救いとなった。

テレビの画面越しに映る彼女は、時に漆黒の衣装を纏い、時に悲劇的な舞台装置の中で歌った。その姿は、単なるエンターテインメントの枠を超え、一つの時代が抱えていた閉塞感を一身に背負っているようにも見えた。70万という数字は、単なる人気の指標ではない。それだけの数の孤独な心が、この一曲の中に自分自身の姿を投影したという事実の集積である。

楽曲が展開するにつれ、サウンドは激しさを増していく。ギターのディストーションが空気を切り裂き、ドラマの盛り上がりと呼応するように感情のボルテージを上げていく。しかし、どれほど音が厚くなろうとも、その中心にあるのは常に「静かな哀しみ」だ。この相反する要素の共存こそが、この名曲を唯一無二の存在へと押し上げている。

孤独の深淵で光を探し続ける、表現者の執念

作曲家としてのCREAは、この作品において自らの弱さを最大の武器へと変えてみせた。音楽を通して自らを浄化し、同時に誰かの傷を癒やす。そんな矛盾に満ちた行為を、この歌い手は執拗なまでに繰り返してきた。

『Endless sorrow』というタイトル通り、終わりのない哀しみを抱えながら、それでも歌うことを選んだ表現者の覚悟が、25年という歳月を経てもなお色褪せることはない。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

の記事をもっとみる