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30年前、日本中を震わせた“奇跡の5月”。去りゆく友と残る5人が誓った、シブトクつよい生き様

  • 2026.5.16

1996年5月。アトランタ五輪を数か月後に控え、社会全体がどこか「次のステージ」への期待と不安を抱えていた時期である。テレビの中では、後に伝説となる冠番組『SMAP×SMAP』が前月からはじまり、従来のアイドルの定義を塗り替え、お茶の間の空気を劇的に変えつつあった。そんな時代の転換点、ある一つの決断とともに、一陣の熱風のような楽曲が放たれた。

SMAP『はだかの王様 〜シブトクつよく〜』(作詞:森浩美/作曲:庄野賢一)ーー1996年5月5日発売

当時、絶頂期に向かっていたグループが提示したのは、煌びやかな衣装で着飾った王子様の姿ではなかった。むしろ、自分たちの未熟さや弱さを剥き出しにし、それでも地を這って生きていくという、泥臭い「人間」の宣言であった。

夢を追う一人の背中と、五人が見せた矜持

この楽曲を語る上で避けて通れないのは、メンバーである森且行が、夢であったオートレーサーへの転身を表明し、グループを離れる直前のリリースであったという事実だ。1996年5月31日をもって脱退した森且行にとって、この21枚目のシングルは、6人体制での最後の作品となった。

発表当時、日本中に衝撃が走った。国民的スターの地位を捨て、全く異なる勝負の世界へ身を投じるという一人の若者の覚悟。そして、それを笑顔で送り出そうとする残されたメンバーたちの複雑な心境。そうした重厚な背景が、楽曲の持つエネルギーをより強固なものにしていた。

『はだかの王様 〜シブトクつよく〜』は、単なる別れの曲ではない。歌詞を担当した森浩美は、当時の彼らが置かれていた状況や、若者たちが抱える「格好つけきれない現実」を容赦なく言葉にした。

タイトルにある「はだかの王様」という言葉は、虚飾を剥ぎ取られた素顔の自分たちを象徴している。理想と現実のギャップに喘ぎながらも、「シブトクつよく」生き抜くというフレーズには、去り行く者へのエールと、新境地を切り拓こうとする5人の決意が同時に宿っていた

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1997年8月、オートレーサー転向後の森且行。埼玉県・川口オートにて撮影(C)SANKEI

躍動するブラスと、汗の匂いがするリズム

作曲と編曲を手がけたのは、『Hey Hey おおきに毎度あり』などでも初期の彼らの音楽性を支えた庄野賢一である。楽曲の屋台骨を支えるのは、地を這うような重厚なベースラインと、空気を切り裂く鋭いブラスセクションだ。1990年代半ば、日本のポップスシーンでファンクやブラックミュージックの要素をこれほどまでに大衆的な強度で提示できたのは、庄野賢一の編曲の妙があったからに他ならない。

イントロが鳴り響いた瞬間、聴き手は一気に熱を帯びたダンスフロアへと引き込まれる。デジタルな質感を持ちつつも、演奏には確かな肉体性が宿っている。サビに向かって徐々に熱量を増していく構成は、聴く者の感情を無理やり揺さぶるのではなく、腹の底から湧き上がるような活力を引き出していく。

特に印象的なのは、6人の歌声の重なりだ。初期の初々しさを残しながらも、一歩ずつキャリアを積み上げてきた厚みが、ユニゾンの響きに説得力を与えている。森且行の安定した歌唱が土台となり、そこに木村拓哉の華やかな響き、稲垣吾郎、草なぎ剛、香取慎吾それぞれの個性が混ざり合う。中居正広含め、この6人だからこそ出せた絶妙なバランス。その奇跡的な調和が、この楽曲の最大の魅力となっている

表現者が選んだ、退路を断つための儀式

5月末。森且行の最後を飾る『SMAP×SMAP』の放送は、伝説的な一夜となった。そこで披露されたこの楽曲は、リリース時とはまた異なる響きを持って届いた。去り行く者と残る者。互いの目を見つめ合いながら声を重ねるその瞬間、音楽は単なる娯楽であることをやめ、彼らの人生そのものを証明する神聖な儀式へと昇華されていた。

この楽曲に込められた熱量は、森且行というピースを失った後も、5人が歩む険しい道のりを照らすたいまつとなった。完成された強さではなく、傷だらけでも立ち上がり続ける「シブトクつよく」という哲学。それが日本のエンターテインメントの頂点に立つ者たちの指針として、この時、明確に刻み込まれたのである。

あれほど熱く、切なく、そして誇り高い別れがあっただろうか。6人が最後に鳴らしたこのファンクは、夢を追い続けるすべての人々の背中を、今もなお熱い掌で押し続けている。表現者としての執念が、音の一つひとつに宿っているからこそ、この曲は時代が変わっても決して熱を失うことはない。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

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