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「イヤだと思ったら、やめてもいい」NHK夜ドラ「ひらやすみ」で衝撃を受けて考えたこととは?【一田憲子さん】

  • 2026.3.29

「イヤだと思ったら、やめてもいい」NHK夜ドラ「ひらやすみ」で衝撃を受けて考えたこととは?【一田憲子さん】

私たちは日々誰かの目にさらされながら生きています。「認められたい」「褒められたい」——そんな思いに知らず知らずに縛られてはいないでしょうか。エッセイスト・一田憲子(いちだのりこ)さんが、自身の葛藤や気づきをもとに、自分軸で生きるヒントを綴った新刊『褒められなくても、生きられるようになりましょう』が話題です。一部抜粋してお届けする第3回は、「褒められたい」を抜け出すためには?

「売れなかったら負け」の世界から抜ける

NHKで『ひらやすみ』という夜ドラが放送されていました。月曜日から木曜日までの夜10時45分〜11時の15分間だけ。その短い時間での展開が、ちょっと見るのにちょうどよく、私はその時間はもう寝ているので、NHK ONEの見逃し配信で毎日昼間に見ていました。

岡山天音さん演じるヒロトは、たまたま知り合ったおばあちゃんが住んでいた、阿佐ヶ谷の平屋を譲られます。田舎から芸大に入学するため上京した従姉妹、森七菜さん演じるなつみちゃんと、その家で暮らす日常を切り取ったゆる〜い感じの物語です。

実はこのヒロトくん、かつては役者を目指していました。でも、自分には向いていないとやめ、今は釣り堀でアルバイトをしながら、毎日自分となつみちゃんのためにごはんを作り、ときには庭でラジオ体操をしたり、花火をしたりと、淡々となんだか愉快そうに暮らしています。

おばあさんが亡くなる前、「どうして役者を辞めたの?」と聞くと、ヒロトくんはこんなふうに答えました。「売れなかったら負け、っていう世界が、俺には合っていなかったんだ」。

ぼそりとつぶやいたこの言葉を聞いたとき、りんごを齧(かじ)りながら見ていた私は、思わずスマホを手に取って、この一言をメモアプリに打ち込んでいました。そっか。自分に合っていないと感じたら、イヤだと思ったら、やめてもいいんだって……。

今の世の中は、ほとんどこの「売れなかったら負け」で成り立っているような気がします。レストランも、洋服のセレクトショップも、儲からなくては成り立ちません。本を出しても売れなくちゃダメだし、音楽を作って歌っても、ヒットしなければならない……。その事実は確かに存在するけれど、そんな世界から「降りる」と自分で選択することはできる。それを決めるのは自分自身なのです。

「降りたあと」はどうするの?

ただし、「降りたあと」はどうするの?ということも自分で考えなくてはいけません。ヒロトくんは料理がとても上手です。アクアパッツァをカレーに変身させたり、朝ごはん用の目玉焼きをカリッと焼いたり。ああ、「降りたあと」はこれだけでめちゃ幸せそうじゃん!と思いました。

もっとも東京に平屋を一軒持っている、ということだけで、住む場所があるのですから、すでに「問題」はひとつクリアしています。私たちが「降りる」ことができないのは、家賃を払ったり、食費を稼いだり、「生きるため」のお金が必要だからです。

私も若いころから絶えずお金の心配をしてきました。仕事がなくなったらどうしよう? 家賃が払えなくなったら、食べられなくなったらどうしよう?と不安と背中合わせで生きてきました。安心したいから「もっと、もっと」と稼ごうとして、稼ぐために、誰かに認められ、評価をもらうことを望んできた気がします。

北海道で「たべるとくらしの研究所」を主宰する安斎伸也さんと明子さんは、福島の「あんざい果樹園」を継いで働いてきました。ところが震災を機に北海道に移住。札幌でカフェを10年間営んだあと、2018年に、札幌から車で2時間ほどのスーパーもコンビニもない田舎町に引っ越されました。理由は「消費経済からちょっと距離を取るため」なのだとか。「近くにいると、どうしても流されてしまう。物理的に距離をとったほうが本当にやりたいことに集中できるから」と。

今、彼らは生産者が作った果物や野菜をジャムや瓶詰めにして販売し、月に一度札幌のカフェでお弁当を販売しています。一番の楽しみは、庭に作った薪風呂に家族で順番に入ること。「く〜〜! 気持ちいい〜」。湯気の立ち上る湯船に浸かる伸也さんの姿を見ていると、やればできるのかも……と思えてきます。

「褒められること」を本当の意味で手放すためには、この「お金」との付き合い方の意識を変えなくてはいけないのかなあと感じています。いい服を着ていなくたって、高い調味料を買えなくなって、もうこれ以上器を買わなくたって、今あるもので楽しめればいい……。

もしかして、必要なのは順番を変えることなのかもしれません。決心してから降りるのではなく、降りてから考える。「なくても大丈夫だったじゃん」という実感こそが「売れなかったら負け」という世界から外に出る確かな方法のような気がします。

※この記事は、『褒められなくても、生きられるようになりましょう』一田憲子著(主婦の友社刊)の内容を、ウェブ記事用に再編集したものです。

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