1. トップ
  2. コーヒーで旅する日本/関東編|オールドニューヨークの空間で日常のプラグを外す。街角のコーヒースタンド「unplugged coffee stand」で特別な時間を

コーヒーで旅する日本/関東編|オールドニューヨークの空間で日常のプラグを外す。街角のコーヒースタンド「unplugged coffee stand」で特別な時間を

  • 2026.3.25

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも関東エリアは、伝統的な喫茶店から最先端のカフェまで、さまざまなスタイルの店が共存する、まさに日本のコーヒー文化の中心地。

東京をはじめ、関東近郊にある注目店を紹介する当連載。焙煎士や店主たちが教える“今、注目すべき”ショップをつなぐ、コーヒーリレーの旅へ。

ビルの1、2階に店を構える。オールドラジオから流れるジャズに耳を傾け、非日常の癒やし時間を
ビルの1、2階に店を構える。オールドラジオから流れるジャズに耳を傾け、非日常の癒やし時間を

第19回は東京都品川区にある「unplugged coffee stand(アンプラグド コーヒー スタンド)」。表参道に店を構える美容室「unplugged(アンプラグド)」のオーナー兼美容師の前田伸一さんが、2022年に開業したコーヒースタンドだ。オールドニューヨークをテーマにしたおしゃれな空間が広がり、ゆっくりとリラックスできる“いつもの店”として人気を集めている。居心地のよさを追求した店づくりや、コーヒーへのこだわりから店の魅力を紐解く。

店主の前田伸一さん。コロンビアの農園に出向くなど、生産者の思いまで理解し、伝えることを重視している
店主の前田伸一さん。コロンビアの農園に出向くなど、生産者の思いまで理解し、伝えることを重視している

Profile|前田伸一さん(まえだ・しんいち)

1986年、愛媛県生まれ。専門学校を卒業後、美容師となり上京。都内の美容室を経て2019年に渋谷区神宮前・表参道に美容室「unplugged」を開業。美容室でコーヒーのポップアップショップを開いたことで多くの人たちと出会い、それが秘めていた開業への思いを実行へと移すきっかけに。2022年に「unplugged coffee stand」、2024年には福岡市中央区草香江(六本松エリア)に「unplugged coffee stand fukuoka」を開業し、2店のコーヒースタンドを展開している。

日常のプラグを外し、特別な時間を過ごす場所

JR大井町駅の中央東口出口からすぐの場所。犬同伴もOK
JR大井町駅の中央東口出口からすぐの場所。犬同伴もOK

20歳で上京して以来、美容師として活躍する前田さんだが、コーヒーに関しては父親が喫茶店を経営していたこともあり、昔から身近な存在だった。コーヒーのある空間で育ち、上京後もコーヒー好きは変わらず、自宅で楽しんだり、カフェ巡りをしたりしていた。自身の美容室では知り合いのバリスタを招き、コーヒーのポップアップショップを開催することも多かったそう。ちなみに本連載の第18回で登場した「テ」のヒロさんとは開業前からの知り合いであり、ポップアップショップに参加したバリスタの1人。

「バリスタを招いたコーヒーのポップアップショップが多くの人と出会うきっかけになりました。そのなかに現在お店が入っているビルのオーナーもいて、そのときに『1、2階でカフェをやってみない?』と声をかけてくれたんです。昔からコーヒーショップをやりたいという思いはありましたが、実は葛藤があったのも確か。ありがたいお話ではあったものの実は一度お断りしているんです。それは友人にバリスタが多く、その人たちをリスペクトしているからこそ、思いつきとか半端な気持ちでやりたくなかったんです。自問自答を繰り返しながら、コーヒーにとことん向き合う覚悟を持ち、このようなご縁をいただいたことに感謝して開業を決意しました」

「開業を決めてからは信頼あるバリスタ『テ』のヒロにお願いして、ひたすらコーヒーのトレーニングをしました。ヒロはこだわりが強く厳しい男。『そんなことまでするの?』と思うほど細かいところもあるけど、そんな強いこだわりの姿勢が好きで、多くを学ぶことができました」

「COLOMBIA JONA THAN GASCA」(1CUP1100円)。「pyrex(パイレックス)」を使うなど、コーヒーカップまでアメリカスタイル
「COLOMBIA JONA THAN GASCA」(1CUP1100円)。「pyrex(パイレックス)」を使うなど、コーヒーカップまでアメリカスタイル

開業するにあたって、「特別ではないけれど、自然と人が集まって、そこにすてきなコミュニティがあるような、“いつもの店”」をつくりたいと考えた前田さん。店内を見てみるとアメリカ製のインテリアに囲まれた、レトロな空間が広がっているのも特徴だ。そこには自身がアメリカの旅で出合ったオールドニューヨークの文化や雰囲気が再現されている。

「アメリカに友人がいてよく遊びに行っているんですが、そこで触れた文化や雰囲気が気に入って美容室とコーヒースタンドの空間づくりに取り入れています。特によく行っていたのはニューヨーク・ブルックリン。定番の観光地ではなく、裏道や街角の“なんでもない”場所やお店が好きで、ローカルなところばかりに行ってました。現地の人たちが何気なく集まってコミュニティをつくる場所、そんなお店のほうが居心地のよさを感じるんですよね」

インテリアや装飾品のなかには、前田さんがアメリカで買い集めたものも多数
インテリアや装飾品のなかには、前田さんがアメリカで買い集めたものも多数

店内にはレトロで珍しい、前田さんのコレクションがずらり。特にアメリカ製のオールドラジオは製造から80年近く経過している逸品だが、今でも現役だ。音楽もジャズを中心にアメリカンミュージックを流し、オールドラジオにしか出せないくぐもった音質がなんとも温かみがあり、魅力を感じる。

訪れた人からは「部屋にいるように落ち着く」という声も上がるなど、こじんまりとした空間も魅力のひとつとなっている
訪れた人からは「部屋にいるように落ち着く」という声も上がるなど、こじんまりとした空間も魅力のひとつとなっている

「インテリアや装飾品などおもに1940〜50年代の製品をそろえ、オールドアメリカの雰囲気を再現。この空間に懐かしさや居心地のよさを感じてもらえているのか、外国人の方も多く来てくれています。自分がカフェに通うのも、コーヒーが好きというのもありますが、いろんな人とのつながりが生まれることに大きな魅力を感じているから。このお店も人々が集い、“何か”が生まれるコーヒー屋にしたいですね」

確かな抽出技術で名ロースターの豆の風味が花ひらく

豆は約2〜3カ月ごとに入れ替わる。「深煎り派の人にも浅煎りのよさを伝え、選択肢の一つにしてもらえたら」と浅煎りをメインにラインナップ
豆は約2〜3カ月ごとに入れ替わる。「深煎り派の人にも浅煎りのよさを伝え、選択肢の一つにしてもらえたら」と浅煎りをメインにラインナップ

コーヒーは定番の2種類に加え、時期ごとに変わる豆が18種類ほどあり、常時約20種類がそろっている。そして豆はすべて「Standout coffee(スタンドアウトコーヒー)」から仕入れているのが特徴だ。

「『Stand out coffee』はスウェーデン・ストックホルムにあり、今、ヨーロッパで勢いのある人気ロースターです。『Standout coffee』がまだ開業間もないころ、友人を介して同店スタッフとやり取りを重ねましたが、その中でコーヒーに対する方向性やショップとしてのスタイルに共感し、取り扱いを決めました。日本で扱っているのは珍しいので、特にコーヒーに詳しい方には喜ばれています」

【写真】「NEO」をはじめ、4、5種類の「ハリオ」シリーズを用意。豆によって最適な器具をセレクトする
【写真】「NEO」をはじめ、4、5種類の「ハリオ」シリーズを用意。豆によって最適な器具をセレクトする

「豆の産地にこだわりはなく、まず重視しているおいしさで選んでいます。それを踏まえてフレーバー感、飲んだときに丸みのある質感、口に残る甘さも基準です」

豆は定番で2種類の深煎りもあるが、メインは浅煎り。これは、豆のポテンシャルが一番表現されていて、豆による味の違いが大きく伝わりやすい、そのおもしろさを伝えたいという前田さんの思いが反映されたセレクトだ。

豆の香りをテイスティングできる。700円からの気軽な一杯から3000円台のリッチなものまで幅広くそろう
豆の香りをテイスティングできる。700円からの気軽な一杯から3000円台のリッチなものまで幅広くそろう

「なかには価格帯が高めの豆があって慣れない方も多いですが、大会仕様の本格的な豆でもあるので味は確か。上質な豆は日常的というより、特別な日の一杯としておすすめしたいと思っています」

よりクオリティの高いものを出すため、開業前には「テ」のヒロさん指導のもとドリップやエスプレッソを学んだ
よりクオリティの高いものを出すため、開業前には「テ」のヒロさん指導のもとドリップやエスプレッソを学んだ

「『Paragon(パラゴン)』というドリッパーホルダーに、『ハリオV60 NEO』を装着して抽出しています。円錐型のハリオシリーズを使用していますが、なかでも『NEO』はリブ(内側の溝の部分)が多いのでお湯の抜けが早い。お湯の回りがきれいで、ブレずに安定した味に抽出できるのがいいですね。特に浅煎りの抽出に向いていると思います」

「Paragon」の中段には凍った玉が設置され、抽出したコーヒーをすぐに冷ます役割を果たす。通常だと揮発してしまうフレーバーまで逃さずに閉じ込め、質感もいっそうよくなるなど、前田さんが思い描く味わいを出すために重要なアイテムだ。冷ます工程が入るため、お湯の温度を若干高めに調整し、適切な温度で提供するための工夫も。

スイーツのなかでも人気の高い「ヴィーガンティラミス」(600円)。ヴィーガンメニューでも味わいはしっかり濃厚
スイーツのなかでも人気の高い「ヴィーガンティラミス」(600円)。ヴィーガンメニューでも味わいはしっかり濃厚

開業時から8時(土日祝は9時から)スタートの朝営業を続けており、店主自慢のコーヒーを片手にモーニングが楽しめる店として定着している。メニューには手づくりのスイーツや軽食がそろっているので朝・昼問わず、コーヒーとのペアリングを楽しむのもおすすめ。なかでも「ヴィーガンティラミス」はチーズの代わりに豆乳を使い、濃厚な風味を出した一品で、ラムレーズンの芳醇な味わいがクセになるイチオシのスイーツだ。

豆に対するこだわりも強く、コーヒーライクな人にも自信を持っておすすめできる「unplugged coffee stand」。店内は広すぎず、狭すぎず、この絶妙な空間がスタッフやお客さん同士のコミュニケーションを、ちょうどいい距離感で楽しませてくれる。同店でコーヒー屋から生まれるそれぞれの“何か”を探してみるのもいい。

「unplugged」という店名には、(日常から)プラグを外して特別な時間を過ごしてほしいという意味が込められている
「unplugged」という店名には、(日常から)プラグを外して特別な時間を過ごしてほしいという意味が込められている

【前田さんレコメンドのコーヒーショップは「Raw Sugar Roast」】

「東京都世田谷区にある『Raw Sugar Roast(ローシュガーロースト)』。店主の小坂田さんは私が通っていたコーヒーショップのバリスタで、そこからの知り合いです。その後、独立し開業されたのがこのお店。バリスタ、ロースターとして確かな技術を持ち、抽出の所作や接客の佇まいまで美しく、コーヒーに向き合う姿勢がとても印象的。また音楽への造詣が深く、店内ではレコードから流れる心地よい音楽が程よい音量で流れ、空間づくりにも強いこだわりを感じます。コーヒーの味はもちろん、その一杯を飲む時間そのものや空気感まで大切にしていると思います。私自身、コーヒーへの向き合い方や空間づくりの姿勢に共感する部分が多く、尊敬するバリスタの1人です」(前田さん)

【「unplugged coffee stand」のコーヒーデータ】

●抽出/ハンドドリップ(ハリオV60 NEOほか)、エスプレッソ(マルゾッコ)

●焙煎度合い/浅煎り、深煎り

●テイクアウト/あり(700円〜)

●豆の販売/100グラム2100円〜

取材・文=GAKU(のららいと)

撮影=大野博之(FAKE.)

※記事内に価格表示がある場合、特に注記等がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。

元記事で読む
の記事をもっとみる