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元宅配員が語る、犬がいる家ならではの“困りごと”にほっこり

  • 2026.4.10
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

皆さまこんにちは。元宅配員のmiakoです。

住宅街を回っていると、さまざまな「お宅の顔」に出会います。表札、植木、玄関先の小物。どの家にも、そこに住む人の暮らしが滲み出ています。

今回は、そんな住宅街での配達中に出会った、ある一匹の犬とのちょっとした話をご紹介します。

番犬という存在

子どものころ、犬を飼うというのは、外に犬用の小屋を置き、鎖でつないで不審者や泥棒から家を守る「番犬」としてのスタイルが当たり前の光景でした。

今では家族の一員として室内に迎え入れられ、庭先で飼われている犬は少なくなりつつあります。
それでも、まだ番犬が活躍しているお宅も何軒かあります。

そんな小さくも心強いガードマンが「お仕事」をしていた場面を、宅配員として何度か間近で見ることがありました。

庭先から聞こえる声

それは、住宅街の一軒家への配達でのことです。
車を止めた瞬間から、犬の鳴き声が聞こえてきました。

荷物を手に玄関へ向かうと、庭先から声が続きます。

それは、茶色い毛並みに、柴犬のような凛々しい顔立ちの中型犬でした。
鎖でつながれてはいるものの、飛びかかるわけでもなく、走り回るわけでもなく。

庭先にある屋根が平らな犬小屋の上に乗り、こちらをまっすぐ見ながら低い声で吠えるだけでした。

私は個人的に犬が好きですが、攻撃本能を露わにした犬は怖いものです。
宅配の仕事をしていると、過去に足を噛まれたり、爪で引っかかれたりした経験もあるため、犬のいる家には常に注意を払っていました。

しかしこの犬は、ただ「誰か来たよ」と知らせているだけのようでした。

犬の鳴き声という壁

犬の鳴き声には、宅配員として少し困ることもあります。
その声がインターホンの音を打ち消してしまうことがあるのです。

チャイムを押しても返事がないとき、犬の息継ぎのタイミングを見計らって再度鳴らしてみたり、声をかけてみたりします。
たとえば「ワンワン」の「ン」になる瞬間を狙うのです。

この日もなかなか返事がなく、不在票を書こうとしていた矢先のことでした。

「こら!いつまで吠えてるの!」

突然、庭先の窓が開き、70代くらいの女性が顔を出しました。目が合うと、少し驚いた様子で言います。

「あら、うちに?」
「はい、宅配便です」
「ごめんなさいね、気づかなかったわ。今玄関の方に行くから待っててね」

そうして玄関まで来てくださった女性に、荷物を無事にお渡しすることができました。

その時はまだ気づいていなかったのですが、飼い主の姿が見えた途端、あの犬はぴたりと吠えるのをやめていたのです。

鳴かないパターンに気づく

その家は週に1〜2回ほど配達のある「常連」のお客様でした。
近隣の家への配達のついでに車を止めただけでも、あの鳴き声が聞こえてくるようになりました。

何度か通ううちに、犬が鳴かないパターンがふたつあることに気づきました。

ひとつは、散歩で外に出ている時、
もうひとつは、家族が誰もいない時です。

ある昼過ぎ、配達に向かうとやけに静かでした。
不在票を投函しようと庭先に目を向けると、定位置の犬小屋の屋根の上でごろんと寝転がる犬と目が合いました。

犬はいるのに、吠えないことに違和感を覚えました。
視線だけでこちらを認めると、さして興味なさげに視線を逸らします。

つい数日前も吠えられたばかりなのに、なんで今日は吠えないんだろうと思いながらその場を後にしました。

数時間後。
再配達の連絡を受けてお伺いすると、車を止めた瞬間にまたあの声が聞こえてきました。
昼間のあの静けさは何だったのだろうと思っていたのですが、これが何度か経験するうちに、その理由がわかったのです。

あの静けさは家族が留守だったから。
家族の誰かがいる時は、必ずあの犬の声がするのでした。

吠える=家族がいる
吠えない=お留守番、または散歩中。
(※あくまで、このワンちゃんならではの個性です)

いつの間にか、私の中にこの家限定の在宅の法則ができていました。

そのうち、車を止めた瞬間に声が聞こえるかどうかで、その家の在宅判定がほぼできるようになったのです。
まるで「家に誰もいないなら、わざわざ吠える必要はない」と言いたげな、堂々たるサボりぶり…いいえ、仕事ぶりでした。

ある日、声が聞こえなくなった

そのエリアを担当するようになって5年ほど経った頃でしょうか。
その家に向かっても、声が聞こえない日が続くようになりました。

チャイムを押すと家の中から返事はある。
でも、犬の声がしない。

はじめは散歩に出かけているタイミングだったのだと思っていましたが、その後、何度通っても同じでした。

もしかしたら天寿を全うしたのか、どこかへ引き取られたのか。
ただ、それをご家族に確認することはできませんでした。

ほんの数分の関わりでも重なっていくと、自然と情が移るものです。
それは犬相手でも同じでした。

言葉のいらないやり取り、そして

配達という仕事は、お客様と玄関先で数十秒、長くても数分のやり取りが基本です。
それでも毎週顔を合わせていると、知らず知らずのうちに、心になじみのある場所ができてくるものです。

犬は言葉を話しません。
しかし、その鳴き声や仕草は、確かに何かを伝えていました。

言葉がなくとも伝わるものがある。
そう改めて感じさせてくれた、小さな思い出です。

配達を受け取る側ができること

犬を飼われているご家庭では、インターホンの音が犬の声にかき消されてしまうことが少なくありません。

逆に、犬の鳴き声をインターホン代わりにしているお客様もいらっしゃいます。しかし、「外を通る人の気配ですぐに吠えるから」と気にとめなくなってしまうと、家にいるのに不在票が入っていた、という事態も起きてしまうのです。

再配達が続いている場合は、インターホンの音量を上げたり、玄関から離れた部屋でも音が聞こえる設定に変えたりしてみてください。念のためインターホンや玄関先を確認するようにすれば、すれ違いが減り、お互いにとってスムーズなやり取りにつながります。

宅配員とお客様が、荷物と一緒に小さな温かさを交わせる日常が、これからも続いていってほしいと願っています。



ライター:miako

宅配ドライバーとして10年以上勤務した経験を生かし、現場で出会った人々の温かさや、働く中で積み重ねてきた"宅配のリアル"を、経験者ならではの視点で綴っています。荷物と一緒に交わされてきた小さなエピソードを、今は文章としてお届けしています。


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