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訪問看護で…看護師「最近変わったことありました?」→直後、患者の表情が凍りついたワケ

  • 2026.4.10
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出典:photoAC ※画像はイメージです。

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

訪問看護では、アルコール依存症のある利用者さんと関わる機会も少なくありません。断酒を目標にしながらも、生活環境やストレスの影響を受けやすく、状態が揺れ動くことも多い領域です。

今回お話しするのは、訪問看護を利用していたAさんとの関わりの中で起きた出来事です。

一見安定しているように見えた中で、わずかな違和感が積み重なり、関わり方を考えさせられた出来事でした。

「飲んでいません」と言い続けるアルコール依存症の方

Aさんは、訪問看護を利用している中年の女性で、アルコール依存症の既往があります。

これまで入退院を繰り返しながらも、ここ最近は断酒を継続できており、生活も比較的安定している状態でした。

「最近どうですか?」

訪問時いつものように声をかけると、Aさんは少し間を置いてから答えました。

「大丈夫です。飲んでませんよ」

「もう、飲みたいとも思わなくなりました」

穏やかな口調で、表情も落ち着いています。これまでと変わらないやり取りでした。

しかし訪問を重ねる中で、私は小さな違和感を覚えるようになっていました。

コップを持つ手のわずかな震え。視線が合いきらない瞬間。会話のテンポの微妙なズレ。そして、室内に入ったときに感じるかすかな匂い。

どれも決定的なものではありません。

「気のせい」と言えば、それで済んでしまう程度の変化です。

それでも、「何かがおかしい」という感覚だけが残り続けていました。

ベッド下の奥で見つけた「確信」

その日も、いつも通り訪問は進んでいました。バイタルに大きな変化はなく、会話も普段通り。問題のない時間が流れていました。

環境整備のため、ベッド周辺を片付けているとき、ベッド下の奥に何かが落ちているのを発見したのです。

それはウイスキーのボトルでした。しかも1本ではなく、隣にはもう1本見えます。

その瞬間、これまでの違和感が一気につながりました。

「やっぱり…」

そう思いながらも、私はすぐに言葉にすることができませんでした。

「飲んでますよね」

その一言は簡単に出せます。しかし、それを言った瞬間に関係がどう変わるかが頭をよぎりました。

Aさんはこれまで、「飲んでいない」と言い続けてきました。その言葉の裏には、何か理由があるはずです。

私はAさんの元へ戻り、何も見なかったかのように会話を続けました。

「しんどいことありませんか?」のあとに続いた沈黙

「最近、何か変わったことありましたか?」

「…特には」

いつもと同じ返答でしたが、どこか歯切れが悪い。私は少しだけ踏み込みました。

「しんどいこととか、ありませんか?悲しい気持ちになったり、もう嫌だなって感じたときはありませんでしたか?」

その言葉のあと、部屋に沈黙が落ちました。

Aさんはしばらくテーブルを見つめたまま、何も言いませんでした。やがて、小さく口を開きました。

「…ちょっとだけです」

そして続けます。

「本当は、飲んでます」

その声は小さく、それでもはっきりとしていました。

「やっぱりダメですよね」

苦笑いを浮かべながら、Aさんはそう言いました。私はすぐに否定せず、静かに尋ねました。

「いつ頃からですか?」

Aさんはゆっくりと話し始めました。

「母親が体調を崩してからです」「入院して、一人の時間が増えて…夜が静かすぎて、落ち着かなくて」

言葉は途切れながらも続いていきます。

「最初は少しだけだったんです。でも、言えなくて…」「せっかくやめられてたのにって思われるのが嫌で」

Aさんは視線を落としたまま、そう話しました。

見えていたのは飲酒ではなく「言えなさ」

あのとき、「飲んでますよね」と問い詰めていたら、どうなっていたでしょうか。

おそらくAさんは、本音を話さなかったと思います。関係そのものが遠ざかっていた可能性もあります。

Aさんにとって大事だったのは、「バレているかどうか」ではありませんでした。

「言えるかどうか」だったのだと思います。

ベッド下にあったウイスキーのボトルは、単なる飲酒の証拠ではなく、誰にも言えなかった時間や、抱えていたしんどさの表れでした。

私たちは、違和感から事実に気づくことができます。しかし、その事実をどう扱うのかが、関わりの質を大きく左右します。

見抜くことよりも、その先でどう関わるのか。

あの日、私が向き合っていたのは、アルコールの問題だけではありませんでした。Aさんの「言えなさ」と、その奥にあった孤独だったのだと思います。



ライター:こてゆき

精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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