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「券売機に落ちていた」長財布の忘れ物…→確認すると、紙幣が20枚超!?元駅員が語る、“意外と知らない”忘れ物のルール

  • 2026.5.5
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。元鉄道駅員の川里です。

今回は、私が駅員時代に経験した「落とし物に関するエピソード」をご紹介します。

財布の忘れ物をした落とし主がうろたえているころ、駅員もうろたえているかもしれません。

落とし物のルール

改札口では、毎日のように落とし物をお客さまからお預かりしています。駅や列車の中での落とし物だからといって鉄道会社が好き勝手に扱っていいわけではなく、遺失物法という法律に則って取り扱わなくてはいけません。

基本的なルールとして、まず落とし物は駅員が受け取ってから最長1週間程度、その駅で保管されます。その間に落とし主が現れなければ近くの警察署にまとめて持っていきます。

駅の判断で処分できるのは食品や飲料などの生ものや、破けたり壊れたりしていて明らかに捨てられたことがわかるような状態のものだけです。

さらにもうひとつ、もし落とし物を届けて落とし主が見つからなかったときは、拾い主がその落とし物の所有権を主張できます。

この「所有権を主張したい」と意思表示することを「権利主張」と言い、特に財布や腕時計などが落とし物として届けられたときは、必ず拾い主のお客さまに権利主張の意思があるか尋ねるよう言われていました。

財布の中には…

落とし物は、拾われた場所と日時、色や形などの特徴をすぐに社内のシステムに登録します。そうすることで、もし落とし主が他駅で落とし物に気づいたとしても、駅員が社内システムから落とし物を検索できるのです。

あるとき「券売機に落ちていた」と、お客さまが改札口まで長財布を届けてくださいました。

本来、忘れ物を届けていただくのはありがたいことのはずです。しかし、私は社内システムへの登録や権利主張の意思確認といった煩雑な業務が増えることから、忘れ物と聞くと身構えるようになってしまっていました。

身分証はないかと財布を開いて驚きました。紙幣がざっと二十枚は入っているのです。よく見ると千円札ばかりなのはすぐにわかりましたが、それでも見た目のインパクトは強烈です。硬貨もたっぷり入っていました。思わず、このような本音が頭をよぎります。

「これ、金額を確認するだけでも大変だぞ…」

一瞬にして輝く瞳

「こちら、権利主張はされますか?」

「いえ、結構です」と言ってくれ、と正直願いながら尋ねました。きょとんとするお客さまの回答はこうでした。

「なんの権利のことですか?」

「この財布の落とし主がもし見つからなければ、お客さまがこの財布の所有権を主張できます」

「マジでぇ!?」

聞いた瞬間、お客さまは瞳を輝かせて身を乗り出しました。駅を利用する方からはほかに聞いたことのないような、興奮交じりの嬉しそうな声。

「…はい。それで、その権利の主張はされますか?」

「もちろん!」

「ではお客さまのお名前や住所なども伺いますので、お時間をいただきます」

と長期戦の覚悟を決めるのでした。

手続きが長い

3カ月以内に落とし主が見つからなかったとしても保険証やクレジットカードなどは所有権を主張できないといった、細かいルールをお客さまに説明します。

細かい説明に同意していただくと、次は拾い主の氏名・住所・電話番号を用紙に記入していただかなければいけません。

その間に私は財布の中にある現金をすべて取り出し、金額を数えます。紙幣も硬貨も多いので小さなテーブルをいっぱいに使いました。

財布の中の現金についてはお客さまにも確認していただきます。確認まで終われば、ようやくお客さまとのやり取りは一段落です。しかし落とし物の対応業務としてはまだ終わっておらず、今度はできるだけ早く社内システムに登録する必要があります。

もちろん、改札口にはそうしている間にも別のお客さまが来るかもしれません。

落としてほしくない…

「忘れ物を管理するのも駅員の仕事だ。つべこべ言わずにやれ」

と言われてしまえばその通りなのですが、このようなことがあったり、忘れ物の対応と並行して別のお客さまの応対もしていたため、忘れ物対応に苦手意識を持っていました。

また、他駅では忘れ物の権利主張についてお客さまとトラブルになったそうです。私が聞いた話では、権利主張の意思確認をしようとせず、忘れ物のルールについて詳しいお客さまからご意見をいただいたとのことでした。

複雑な業務が増えてしまうとはいえ、せっかくお客さまが善意で届けてくれた忘れ物に対して「面倒だな」という感情を持つのは、やはりよくないことでしょう。自分自身を嫌いにならないためにも、財布は忘れてほしくないもののトップでした。


ライター:川里隼生

鉄道会社の駅係員として8年間、4つの駅を経験しました。コロナ禍やデジタル化を通して移り変わってきた、会社としての鉄道サービスの未来像と、お客さまそれぞれが求めている鉄道サービスのあり方の両方から学んだことを記事にしていきます。


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