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「どこでもいいから病院へ」歩くのも辛そうな乗客。病院到着後、タクシー運転手が“目を疑った光景”とは…

  • 2026.5.5
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出典:photoAC ※画像はイメージです。

こんにちは。現役タクシードライバーのけんしろです。

実は私、一度だけお客さまから料金をいただけなかったことがあります。

道を間違えたわけでも、失礼な対応をしたわけでもありません。

むしろ、そのときの私は「助けなければ」と思って動いていました。

今日は、善意で病院へお連れしたのに、最後は少し拍子抜けした日の話です。

とても体調が悪そうなお客さま

ある日、40代くらいの女性をお乗せしました。

見た目にもかなり体調が悪そうで、歩くのもつらそうな様子でした。
私が手を貸して、ようやく車に乗っていただけたほどです。

「どちらへ向かいますか」とお聞きすると、返ってきたのは、

「どこでもいいから、病院へ……」

という言葉でした。

かなり緊急性が高いと感じた私は、すぐ近くの市民病院へ向かいました。

道中も「大丈夫だろうか」と気になりながら、いつも以上に慎重に、でも急いで運転したのを覚えています。

病院に着いても、そのまま降ろすだけでは危ない気がしました。
診察時間外だったので、インターホンで事情を伝え、車椅子をお願いしました。

運賃は800円ほどでしたが、その場で料金をいただくより、まずは病院に入ってもらうことが先だと思いました。

そこで私は領収書だけをお渡しし、

「住所が書いてありますので、後で届けてください」

と伝え、自分で立て替える形にしました。

そのときの私は、完全に「この方を助けなければ」という気持ちで動いていました。
正直なところ、運賃のことを細かく考える余裕はありませんでした。

病院に到着すると…

ところが、ここで思わぬ展開になります。

病院の看護師さんが出てきて、お客さまの様子を見るなり、こう声をかけたのです。

「歩けますよね?」

するとその女性は、さっきまでの様子がうそのように、自分の足で普通に歩いて病院の中へ入っていきました。
私はその場で、少し拍子抜けしてしまいました。

「えっ、歩けるの?」
「さっきまでのあの様子は……?」

もちろん、体調の悪さは見た目だけでは分かりません。
病院が見えて安心し、少し動けるようになった可能性もあります。

ですから、あの女性が大げさだったと決めつけるつもりはありません。
ただ、そのときの私は、どう受け止めればいいのか正直よく分かりませんでした。

そして結局、立て替えた800円が後から届くことはありませんでした。

私の失敗

当時は「困っているのだから仕方ない」と思っていましたが、後になって振り返ると、私の対応にはひとつ大きな落とし穴がありました。

それは、先に領収書を渡してしまったことです。

私は「住所が書いてあるから、後で届けてもらえるだろう」というつもりでした。

でも、これは自分にとって不利な対応でもありました。

もし相手に悪意があれば、「領収書はもらっている」で話が終わってしまいます。
反対に、本当に体調が悪くて記憶が曖昧だったとしても、「領収書があるなら払ったのだろう」となってしまうかもしれません。

どちらにしても、確認が曖昧なまま善意だけで動いた結果、私だけが損をする形になっていたのです。

助けたい気持ちと、自分を守るということ

助けたい気持ちは大切です。
でも、その気持ちだけで動くと、後で自分を守れなくなることもあります。

これはタクシーに限らず、日常でも似たことがあるかもしれません。

困っている人を見ると、まず何とかしてあげたくなる。
だけどそこには落とし穴があるかもしれない。

善意で動くことと、自分自身を守ること。
この2つは、どちらか一方ではなく、両方備わってこそ大切なのだと思います。

あの日の女性は、そのことを私に教えてくれました。
今でもたまに思い出す、忘れられない800円です。


ライター:けんしろ

現役タクシードライバー。
日々さまざまなお客様と向き合う。現場での経験をもとに、移動の裏側にある人間模様や、サービス業における対応力について発信。密室空間だからこそ見える感情の機微を大切に、実体験をもとにしたコラムを執筆している。


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