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患者「薬もちゃんと飲めてます」→信じていたら…患者家族からの1本の電話で“発覚した事実”に唖然

  • 2026.4.14
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出典:photoAC ※画像はイメージです。

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

訪問看護では、「自立」をどこまで支えるのか、日々判断が求められます。

できることを尊重することは大切ですが、その見極めを誤ると、隠れたリスクを見逃してしまうこともあります。

今回は、双極性障害のある利用者さんとの関わりの中で、「できている」という言葉の受け取り方を見直すきっかけとなった出来事をお伝えします。

安定して見えていたAさんの生活

Aさんは訪問看護を利用している50代の男性で、双極性障害の診断があります。

これまで気分の波により入退院を繰り返してきましたが、ここ最近は大きな波もなく、生活は比較的安定していました。

訪問時の様子も落ち着いており、会話もスムーズです。

「調子はどうですか?」

「大丈夫ですよ。だいぶ落ち着いてます」

そう答えるAさんの表情に、不安定さは見られませんでした。

服薬について確認すると、Aさんはこう言います。

「薬もちゃんと飲めてます」

「もう一人でできますよ」

実際、薬はピルケースで管理されており、訪問時に確認しても飲み残しは見当たりません。

「すごいですね、継続できてますね」

そう声をかけると、Aさんは少し誇らしそうに笑いました。この頃から、私たちの関わりは少しずつ変わっていきました。細かく確認する支援から、見守り中心の関わりへ。

「自分でできている」という言葉を、そのまま受け取っていました。

「薬が減っていない気がする」と家族からの1本の連絡

変化があったのは、ある日でした。Aさんのご家族から、1本の連絡が入りました。

「すみません、薬なんですけど…減ってない気がして」

一瞬、意味が分からず聞き返します。

「薬が減っていない、ですか?」

「はい…本人は飲んでるって言うんですけど、数が合わなくて」

その言葉に、違和感を覚えました。訪問時には、ピルケースの中身を確認しています。残薬がある様子はありませんでした。

「何かの勘違いかもしれない」

そう思いながらも、次の訪問で確認することにしました。

見つかったもう1つの薬の保管場所

訪問当日。

「薬、飲めてますか?」

「大丈夫です。ちゃんと飲んでます」

いつもと変わらない返答でした。ピルケースの中身を確認しても、確かに残りはありません。

「やっぱり問題なさそうだな」そう思いながらも、頭の片隅に家族の言葉が残っていました。

帰る前、ふと部屋の一角にある紙袋が目に入りました。普段はあまり気にしていなかった場所でした。

「これ、何か入ってるんですか?」

軽く尋ねながら中を確認すると、そこには未開封の薬がいくつも入っていました。

一瞬、思考が止まりました。

「これは…」

明らかに、処方されたまま手をつけていない薬です。

「飲んでます」と言い続けるAさん

私はAさんの方を見ました。

「これ…どうされてましたか?」

Aさんは一瞬だけ視線を逸らしましたが、すぐに答えました。

「飲んでますよ」

その言葉に、わずかなズレを感じました。

「この分も、ですか?」

「はい、大丈夫です」

表情は大きく変わりません。けれど、どこか噛み合っていない感覚がありました。

ここで事実確認することもできました。

「飲んでないですよね?」「これはどういうことですか?」

しかし、その言葉を飲み込みました。代わりに、少しだけ角度を変えて聞いてみます。

「最近、生活どうですか?」

「しんどいこととか、ありませんか?」

Aさんはしばらく黙ったまま、視線を落としていました。そして、ぽつりと話し始めました。

「…正直、ちょっとしんどくて」

「朝起きるのが遅くなってて。飲むタイミング、ずれちゃうことがあって」

言葉はゆっくりでしたが、少しずつ本音が出てきました。

「でも、一人でできてるって思われたくて」

「もう大丈夫って思われたくて」

その言葉を聞いたとき、はっとしました。

「できている」という言葉の受け取り方

Aさんは、「できている」と言い続けていました。

そして私たちは、その言葉をそのまま受け取り、支援を軽くしていきました。

けれど実際には、「できていない部分」を隠しながら、なんとか保っていた状態だったのかもしれません。

自立を支えるつもりの関わりが、結果としてリスクの見逃しにつながっていた可能性。その事実を、痛感しました。

「一人でできています」

その言葉は、事実とは限らない。むしろ、「そうありたい」という思いが込められていることもある。

帰り際、Aさんは少し照れたように言いました。

「ちょっと無理してましたね」

私は「そうだったんですね」とだけ返しました。

訪問看護では、「できることを尊重する」ことが大切です。しかし同時に、「できているように見える状態」の裏側にも目を向ける必要があります。

あの日の出来事は、「言葉をそのまま受け取ること」の危うさと、関わりのバランスの難しさを改めて考えさせられるものでした。

そして今も、「できています」という言葉を聞くたびに、その背景にあるものに目を向けるようにしています。



ライター:こてゆき

精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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