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朝ドラが仕掛けた“第一週目”の気になる構造「展開が読めない」「疑問に思った」今後の伏線にも繋がるあえて外した“当たり前”

  • 2026.4.3

連続テレビ小説『風、薫る』第1週を観て、少し不思議に思った視聴者もいるのではないだろうか。二人の主人公がいながら、元家老の娘・一ノ瀬りん(見上愛)と、貧しい暮らしを余儀なくされる大家直美(上坂樹里)は、まだ出会わない。それどころか、物語は完全に分断されたまま進んでいく。この“距離”には、どんな意味があるのか。第1週は、彼女たちの人生を点として丁寧に描きながら、やがて交差する未来への期待を静かに積み上げていた。

※以下本文には放送内容が含まれます。

“出会わない”ことで際立つ、二人の距離

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『風、薫る』第1週(C)NHK

『風、薫る』第1週の最大の特徴は、二人の主人公・りんと直美が一度も交わらない構成にある。通常であれば、物語の導入で接点を作り、関係性の種を蒔くのがセオリーだろう。しかし本作は、その“当たり前”をあえて外してきた。

栃木・那須で暮らすりんは、元家老の家に生まれ、家族とともに農業に従事する少女。一方、東京で生きる直美は、身寄りのない孤独な女性として、マッチ工場で厳しい労働に身を置いている。舞台も環境も価値観も、あまりに遠い。しかし、この“遠さ”こそが重要なのだ。

りんの世界は、家族や村という共同体に守られている。しかし同時に、そのなかには同調圧力や暗黙のルールも存在する。一方の直美は、何にも守られていない代わりに、誰にも縛られない。二人は正反対の環境にいながら、それぞれに生きづらさを抱えている。

この時点で無理に出会わせてしまえば、対比の輪郭がぼやけてしまうだろう。だからこそ、第1週はあえて“交わらない”選択をしたのではないか。この構造が、後の出会いを単なる偶然ではなく、“必然”へと引き上げていくはずだ。

りんと直美はまだ出会っていないものの、強いて言うなら接点としては、りんの母である美津(水野美紀)と、妹の安(早坂美海)かもしれない。結果的にたち消えてしまったものの、安の縁談をまとめるために東京を訪れていた二人は、たまたま直美と道端で話をしている。

SNS上でも「まさかそっちが先に」「展開が読めない」「疑問に思った」と言及のあったシーンだ。伏線として活きてくるのは、第何週になるのだろう。

りんの物語に仕掛けられた“触れられなさ”

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『風、薫る』第1週(C)NHK

りんのパートで際立っていたのは、“触れること”が極端に制限される世界の描写だ。

村に広がる感染症の猛威によって、人と人との距離は一気に引き裂かれる。患者は隔離され、家族であっても近づくことすら許されない。人は人を避け、やがて監視し合うような空気が生まれていく。

象徴的なのは、りんが、同じ村に暮らす青年・虎太郎(小林虎之介)の手を握れなかった場面だろう。近親者が感染してしまった彼に触れれば、十中八九、罹患してしまう。心配しているのに、近づけない。励ましたいのに、触れられない。その選択は“正しい”はずなのに、彼女のなかには“間違えた気がする”という感情が残る。

さらに、父・一ノ瀬信右衛門(北村一輝)の看病においても、同じ状況が繰り返される。感染症に罹患してしまい、自ら納屋に立てこもった父に対し、りんは外から世話をすることしかできない。触れることも、顔を合わせることもできないまま、命は静かに遠ざかっていく。

ここで浮かび上がるのは、“触れることができない”という痛みだ。そしてこれは、看護という職業と強く結びつく要素でもある。人に寄り添うとは何か。手を差し伸べるとはどういうことか。その問いが、すでにりんのなかで芽生え始めているようだ。

直美という“もう一つの軸”

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『風、薫る』第1週(C)NHK

一方の直美は、りんとはまったく異なる角度から、物語に緊張を与えている。

貧困、労働、そして孤独。マッチ工場での過酷な日々で、彼女は常に社会の底辺に置かれている。失敗すれば給金は引かれ、“耶蘇の孤児”と蔑まれる。そんな環境でも、直美は決して思考停止に陥らない。

印象的なのは、流暢な英語で悪態をつく姿や、教会の伝道者になる誘いを断る場面だろう。“嫌いなものが多すぎる”と言い切る彼女の言葉には、大衆に迎合しない強さがある。同時に、その裏には、自分自身をも肯定できない不器用さが滲む。

りんが“優しさのなかで揺れる存在”だとすれば、直美は“反発しながら生きる存在”だ。この対比は、単なるキャラクターの違いにとどまらない。二人が出会ったとき、どのように影響し合うのか。その化学反応への期待を自然と高めていく。

第1週は、まだ物語が動き出したばかりだ。しかし、りんと直美というふたつの点は、すでに同じ問いを内包している。優しさとは、正しさとは何か。その答えを探す旅のなかで、二人が交差する瞬間はきっと大きな意味を持つだろう。


連続テレビ小説『風、薫る』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_