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低迷した視聴率とは裏腹に“盛り上がり”を見せた作品の実像 一部の視聴者から“熱烈”な支持を受けた【NHK大河ドラマ】

  • 2026.5.21

2025年に放送された大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下、『べらぼう』)は、江戸のメディア王と呼ばれた蔦重こと蔦屋重三郎(横浜流星)の生涯を描いた物語だ。

※以下本文には放送内容が含まれます。

舞台は江戸時代中期・安永の初頭。吉原で茶屋を切り盛りしながら女郎たち相手に貸本屋を営んでいた蔦重は、客が減っている不況の吉原を盛り上げるために何かできないかと考えていた。
そして、吉原のガイドブック『吉原細見』を改訂するために平賀源内(安田顕)に序文の執筆を依頼するのだが、そのことがきっかけで蔦重は本づくりの楽しさに目覚めていく。

江戸時代中期を舞台にした異色の大河ドラマ

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横浜流星 (C)SANKEI

『べらぼう』の脚本を担当した森下佳子は、数々のヒット作を手掛けた人気脚本家だ。
大河ドラマは、2017年の『おんな城主 直虎』に続いて2作目となるが、『べらぼう』が江戸時代中期を舞台に、出版に関わる町民たちを描く作品になると知った時は、大河ドラマとして成立するのか懸念した。 だが、放送が始まると本作はSNSで話題となり、多くのドラマファンを熱狂させた。

森下は時代劇を得意としている脚本家だ。 出世作となった村上もとかの漫画を原作とする連続ドラマ『JIN-仁-』は、現代の脳外科医が幕末の江戸にタイムスリップするというSF時代劇として大きな反響を呼んだ。
一方、よしながふみの少女漫画を原作とする『大奥』は、男だけが感染する疫病が蔓延したことによって、男女の社会的立場が逆転し、将軍や偉人が女性として登場する架空の江戸時代を描いた時代劇だった。260年あまりの期間を描いた『大奥』は、SF大河ドラマとでもいうようなユニークな連続ドラマだった。
今回の『べらぼう』は『大奥』のチームが制作しているため、江戸時代中期の見せ方は実に巧みで、蔦重たちといっしょに同じ時代を過ごしているかのような臨場感があった。

大河ドラマというと戦国時代と幕末が定番で、この二つの時代の物語を交互に制作しているという印象が今も強い。
しかし、2019年に放送された明治・大正・昭和を舞台に、日本にオリンピックを招致しようとした男たちの物語を描いた『いだてん~東京オリムピック噺~』(以下、『いだてん』)以降、「日本資本主義の父」と呼ばれる渋沢栄一を主人公に幕末から昭和初期を舞台にした2021年の『青天を衝け』、日本の中世を舞台に鎌倉幕府を執権として支えた北条義時を主人公にした2022年の『鎌倉殿の13人』、平安時代を舞台に『源氏物語』を執筆した紫式部を主人公にした2024年の『光る君へ』といった、これまであまり描かれてこなかった時代や人物を主人公とするユニークな大河ドラマが増えている。
『べらぼう』もこの流れを汲んだ作品で、江戸の出版文化を通して当時の人々の暮らしを描いた異色の大河ドラマだった。

残念ながら『べらぼう』は、期間平均世帯視聴率が9.5%(関東地区、ビデオリサーチ)と視聴率の面では苦戦し、大河ドラマでは『いだてん』に次ぐ歴代2番目の低さとなってしまった。

14日に終了したNHK大河ドラマ「べらぼう 蔦重栄華乃夢噺」(総合、全48回)の期間平均の世帯視聴率が、関東地区で9.5%、関西地区で8.1%だったことが16日までにビデオリサーチの調査(速報値)で分かった。関東は、2019年放送の「いだてん」の8.2%に次ぐ過去2番目の低さだった。
出典:『「べらぼう」は9.5% 大河、2番目に低い視聴率』日本経済新聞 (2025年12月16日投稿 より)

だが、『いだてん』がそうであったように、SNSでの盛り上がりは終始高く、一部の視聴者からは熱烈な支持を受けていた。
本作は出版の世界で成功していく蔦重を主人公にしたビジネスドラマだ。
蔦重が絵師や戯作者と本づくりに情熱を燃やす姿や、本の流通を取り仕切る地本問屋の株仲間(同業者の組合)に阻まれて自由に商売できず、なんとか抜け道を探そうと試行錯誤している姿を見ていると、どの世界でも縄張り争いはあり、商売の新規参入は難しいと感じる。
また、吉原で女郎たちが格付けされて大衆から支持されている様子は、現代のアイドル文化のようだ。

森下佳子はNHKで『だから私は推しました』という地下アイドルを応援するアイドルオタクの女性を主人公にしたドラマの脚本を手掛けていたが、現代の推し活文化を吉原の女郎と客の関係に重ねて書いたのかもしれない。

田沼時代と重なる平成

『べらぼう』では二つの時代が描かれている。
田沼意次(渡辺謙)が、老中として実権を握った田沼時代は、経済政策が成功したことで自由な空気が生まれ、町人文化が爛熟する豊かな時代となったが、賄賂が横行して世の中の道徳が乱れた。
その後、田沼が失脚した後、老中となった松平定信(井上祐貴)が「寛政の改革」をおこなうと、財政再建のために幕府が質素倹約を推進するようになり、自由を謳歌していた町人文化に対する締め付けが厳しくなり、蔦重は自由に本を出版できなくなっていく。

自由だが暴力的だった田沼時代の町人文化の爛熟ぶりを見ていると、筆者は表現に対する規制が緩いが故に様々なカルチャーが花開いた平成の空気を思い出す。
逆に「寛政の改革」によって町人文化が規制され、道徳に対する意識が高まっていく松平定信の時代を見ていると、コンプライアンスやハラスメントに対する意識が高まり規制が厳しくなっている令和の空気と重なるように感じる。 本作は、自由を謳歌する町人文化の背後には吉原の女郎たちのような犠牲になっていた弱者が存在したこともしっかりと描いている。

そのため、田沼時代を全肯定しているわけではない。 だが、松平の時代に起きた表現規制に対して抵抗する蔦重たちの姿を見ていると、やはり令和現在に感じている息苦しい空気と重ねて描かれているように見える。

遠い江戸時代の出来事を描いた物語なのに、なぜか自分たちの現実と重ねて見てしまう。
それこそが『べらぼう』が熱狂的なファンを生み出した理由だったのかもしれない。


出典:NHK 大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」NHK ONE

ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。

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