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朝ドラで“容赦なく”突きつけられる看護のリアル「トレンド入りしてる」強く拒む患者の態度に“懐かしの教師役”を思い出す声も

  • 2026.5.22
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『風、薫る』第8週(C)NHK

連続テレビ小説『風、薫る』第8週「夕映え」は、看護が“優しさ”だけでは成り立たないことを突きつけた。乳がん治療で入院した侯爵夫人・千佳子(仲間由紀恵)を前に、病院が守ろうとするのは患者より名誉。問題が起きたら梅岡看護婦養成所の責任にできるよう、看護婦見習いのりん(見上愛)に世話を押しつける狡さから物語が始まる。しかし、りんは引き受ける。看護とは、制度と沈黙の間で“交渉し、翻訳する”仕事なのだと知るために。

※以下本文には放送内容が含まれます。

責任転嫁から始まる看護?

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『風、薫る』第8週(C)NHK

侯爵夫人が入院する。乳がん治療という切実な理由があるはずなのに、院内に走る緊張の中心は“何か問題が起こったらどうするか”という体裁の話になっている。

千佳子は看病婦を拒み、病室に他者を入れない。そこで病院側が考えたのは、患者の心をほぐす方法ではなく、責任の逃がし方だった。看護婦見習いとして実習中のりんたちに世話をさせ、もし失敗したら梅岡看護婦養成所のせいにすればいい。この狡い算段が、今週の出発点である。

バーンズ先生(エマ・ハワード)はその魂胆を見抜くが、直美(上坂樹里)がそっと口を挟む。りんに任せてみてはどうか、と。病院の都合を逆手に取れば、うまくいった時に養成所の株が上がる。つまり自分たちの信頼を得られ、優位に立てる。

千佳子の看護を引き受けたりんの決意は、あくまで自分の意志で引き受けるための選択だった。

触れられない身体

りんが病室で試みる看護は、教科書通りに正しい。窓を開けて空気を入れ替え、シーツを替え、朝食の様子を聞き取る。しかし千佳子の態度は冷たく、女中が壁のようにそばにいる。りんの入り込む隙間はない。

とどめは、お通じに関する問いだ。治療に必要な情報であっても、千佳子にとっては無礼として響く。りんは追い出され、脈も体温も測らせてもらえない。その厳しく頑なな様子に、SNS上でも「言葉ちょっとキツめ?」「あの人を思い出す」「ヤンクミがトレンド入りしてる」と、千佳子を演じる仲間由紀恵の過去の主演作である大人気学園ドラマ『ごくせん』シリーズの主人公・山口久美子(通称・ヤンクミ)について言及する声も見られた。

ここで立ち上がるのが、“身体の在り処”だ。看護のためとはいえ、他者に身体に触れられるのは緊張するし、嫌だと思うこともある。まして胸の病気だ。触れられることは、痛みだけでなく羞恥や恐怖と地続きになる。

翌日、りんは千佳子の気持ちに寄り添おうとする。自分も気持ちがよく分かる、と伝えようとするが、千佳子は切って捨てる。「思い上がらないで」と。理解されることは救いにもなるが、理解されることが怖い場合もある。「分かる」と言われた瞬間、こちらの複雑さが平らにされる気がするような。

だから、千佳子は壁を立てるのだ。彼女の壁は悪意ではなく、あくまで防御なのである。

患者の気持ちを100%理解することなどできない。ナイチンゲールは“観察”を説いたが、観察とは魔法ではない。理解の代わりに、推測し、確認し、少しずつ距離を測る作業だ。看護は手順の積み重ねであることを、今週は容赦なく教える。

孤独を“観察”する

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『風、薫る』第8週(C)NHK

病院の裏手の中庭、見習いたちが落ち込んだときにふらりと来る場所で、りんは直美と本音を交わす。夕食の時間、戻ってこない二人を心配した見習い仲間が弁当を持って現れ、さながらピクニックのように外で広げ始める。

仲間が近くにいてくれるありがたさを噛み締めた瞬間、りんの中に比較の視点が生まれる。病院で一番の個室に入っている千佳子は、いまもたった一人なのだ、と。乳がんの手術をしても助かる見込みは半分ほど。千佳子は恐怖を抱えながら、それを誰にも見せられず、どうにもできなくなっているのかもしれない。

千佳子の心を解凍したのは、双六だった。千佳子は最初こそ渋るが、りんと盤上で時間を過ごすうちに、少しずつ言葉を取り戻す。

やがて千佳子は、手術を拒む理由を訥々と語る。胸のない自分で夫の隣に立つことを想像すると、不安が膨らむ。少女でもないのにそんなことを考えてしまう自分が嫌になる……涙ながらの本心に、りんはそっと背中へ手を当てる。

この手は、最初に拒絶された“触れる”とは別物だ。触れていい距離を、二人が一緒に取り戻した結果の手だ。看護とは、心に触れることではない。心に触れられる距離を、相手の尊厳を守りながら探すことだ。

だから今週は、優しい話でありながら痛い。制度の狡さ、言葉の暴力、孤独の個室。そのすべての間で、りんは患者の尊厳を翻訳し続けた。看護が“仕事”になっていく瞬間を、私たちは見届けたのだ。


連続テレビ小説『風、薫る』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_

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