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異世界に「温泉」を持ち込んだら?『異種族レビュアーズ』の著者・天原が書いた“小説”が「次にくるライトノベル大賞2025」文庫部門で第1位に【インタビュー】

  • 2026.3.23

「温泉」。日本全国いたるところから湧出する温泉は、わが国が誇る一大観光資源と言えよう。老若男女を問わず愛される温泉地は、昨今の旺盛なインバウンド需要を受け、いまや外国人観光客も多く詰めかける盛況ぶりだ。だが、温泉人気はもはや「この世」の枠にとどまらない。いまや異世界の人々をも虜にする存在になっている……ということで、いよいよ本題に入ろう。

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今回ご紹介する『異世界転生ダンジョンマスター 温泉ダンジョンを作る』は、日本が誇る温泉文化を異世界に持ち込んだら何が起こるのかを描いたエンタメ作品だ。一見すると突拍子もない設定に思えるが、実は本作、ファンタジー世界のダンジョンに人を呼び寄せるために温泉を設置し、それが現地の人々にどう受容されるのかを精緻にシミュレーションした「思考実験」の書でもある。SF的、あるいは経営戦略的な観点からも楽しめる奥深い作品に仕上がっているのだ。

著者は『異種族レビュアーズ』などのヒット作を生み出している人気漫画家・天原氏。稀代のストーリーテラーが小説を執筆したことでも注目を集めた本作は、2月23日に発表された「次にくるライトノベル大賞2025」文庫部門にて、見事第1位に輝いた。その面白さは、まさに折り紙付きと言える。

そこで今回、著者・天原氏に作品誕生の経緯やその魅力を語ってもらった。本インタビューを通じて、唯一無二の作品世界の一端に触れていただければ幸いだ。

漫画と小説、創作の違いは?

――天原先生は漫画家として活躍されていますが、今回小説を書き始めたきっかけを教えてください。

天原:1巻のあとがきでも書きましたが、他の作品の作画担当の方が長期休養されていたため、時間に余裕があったので……。もう少し別の事を言えば、今まで漫画でプロットなどを書いたことが一度もなかったのですが、『平穏世代の韋駄天達』※という漫画で、初めて最終話までの流れをプロット化して書いてみたところ、小説20話分くらいの量になりまして。それが意外と小説としても読める内容だったので、「あれ? これだけでも成り立つのでは?」と思って練習がてら実験的に書いてみたというのもありますね。

(※)天原先生が原作を担当された漫画。2018~2024年にかけてヤングアニマルにて連載

――小説を手掛ける上で漫画よりも苦労した点や、逆に漫画よりも書きやすいと感じた点はありますか?

天原:小説は無理にでも特徴的な喋り方をさせないと、誰が喋っているかイマイチわからなくなりがちなのが難しいですね。宝石ダンジョンマスターや糸ダンジョンマスターなど、最初は普通の喋り方で書いていたのですが、文字で読むと特徴を感じなさすぎたので、怪しいカタコトの外国人のような喋りをするキャラや、怪しい関西弁を喋るキャラに全部書き換えたりしていました。漫画ならこのようなことはしていません。

あと、小説は単行本化する作業が漫画の20倍くらい、修正のたび読み直す時間がかかるので大変です。

――ダンジョン内に温泉を作り出して、「美容」をフックにして人を集めるという発想がとても印象的でした。着想のきっかけはどこから得たのでしょうか?

天原:「こうすれば女性が大勢駆けつけて、毎日がサービスシーンになるのでは? それ以外は特に何も……」みたいなことを主人公のセンくんが言っていましたが、彼の言う通りで。最初は本当にそれ以外は何も考えずに書いていたと思います。

温泉の効能を目当てに何度も護衛を連れた貴族女子のリピーターが来て、ダンジョンに駆けつけてくる人数が一般的なダンジョンと比べて桁違いの人数になるという状態が産まれましたので、「ダンジョンは人が来れば来るほど成長する方式にしよう」、「人間の欲がわからないからマスターを呼ばないとこういうダンジョンは作れなかったということにしよう」といった具合に、状況に合わせた都合のいい設定を引っ付けていった結果、現在の形になりました。

――本作には様々な効能の温泉が登場しますが、書いていて特に楽しかった「温泉×ダンジョン」ならではの要素はありますか?

天原:最初は「美貌だけインスタントに手に入れられてラッキー」みたいな状況だったのが、11階層にあるありえないくらい美女化する湯の効果が発見されて以降、陛下も貴族もダンジョンに潜るために全員が異常な運動を強制されて地獄を見だすのに、誰も止められないし止まらなくなってくるあたりですね。

完全にダンジョンのもたらす美貌の欲に取り込まれてしまったというか。『笑ゥせぇるすまん』でいう、「あなた達は今後美容をひたすら追い求め続けるのです、ドーン」みたいな手遅れ状態になってしまった場面が書いていて楽しかったです。

――本作はいかにしてダンジョンに人を集めて発展させるかという「経営モノ」の楽しさもあります。好きな「経営モノ」の作品や何か参考にした作品などはありますか?

天原:「ダンジョンコア」とか「ダンジョンポイント」という概念は、『絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで』(オーバーラップ文庫)が参考になっていますね。

それ以外のダンジョン経営モノのなろう小説を読んだことがないので、必然的にダンジョンモノを書く基礎参考になっています。あとは経営モノではないのですが、『理想のヒモ生活』(ヒーロー文庫)は書籍を全部買っている数少ないなろう小説ですので、かなり参考にしています。

――本作は漫画家でもある天原先生がライトノベルを執筆するという珍しいケースですが、キャラクターのデザインはどのように決まっていきましたか?

天原:キャラクターのデザインは小説で描写されている要素から外れていない限りは、基本的にイラストレーターの方におまかせです。主人公であるセンの服装がファンタジー風だったので、それに合わせた加筆をしたりなど、上がってきた絵に合わせて、文章を変える場合もあります。

ただ、ペタちゃんがどうみても下着を履いていないし、身体もスケて見えてるドスケベ服を着ているのは、文章でツッコミを入れるべきか否か悩んだ結果、それを見たマスターがマスターを致してしまいそうな描写が増えそうな気がしたので、あえてスルーしました。

――イラストを担当されたじゅん先生が描く可愛らしいキャラクターたちも本作の魅力の一つです。最初にじゅん先生のイラストを見た時の感想を教えてください。

天原:挿絵の担当者が決まる以前は、美少女の絵がうまいだけじゃなくて、トウジ隊長みたいな筋肉ハッスルおばさんのビフォーアフター絵がしっかり描ける器用な人がいいなと考えていましたので、いろいろな候補の方々を紹介された中で「圧倒的にじゅんさんを推します」という感じで返事した記憶がありますね。

筋肉をしっかり描くタイプの絵描きなのに、顔は濃くなく可愛いキャラを描く方でしたので、上がってくる絵もイメージ通りでした。

――本作では主人公であるダンジョンマスターとダンジョンコアのペタちゃんをはじめ、珍奇なダンジョンの登場に頭を悩ます女王陛下や、ダンジョンの秘密を解き明かそうとする侯爵令嬢のアウフ、ダンジョン攻略(?)に挑む女騎士団の面々など、多彩な立場のキャラクターが登場します。天原先生のお気に入りのキャラを教えてください。

天原:アウフはいつもむちゃくちゃなことを言って作品の方向性を破壊してくるので好きですね。

ユーザ陛下とアウフが面談した回などが特に顕著です。あの回はユーザがアウフを認めるようなことを言わせる回だったのですが、実際に何を言うかは全くのノープランで、「まあなんとかなるでしょ」みたいなノリで書き始めてみたら、結果的に著者ながら「何言ってんだこいつ」と思うようなセリフを言わせてました。

基本的にアウフ回は、「今用意されている情報から思いつくことをノープランで深く考えてみる回」というような書き方をしていますので、だいたいアドリブです。

アウフが「ダンジョンから出てくる道具がシンプルすぎて洗練されているから、これは未来人の意思だ」とか言い出した回も、「突然何言ってんだ、こいつ」と思いながら書いていました。

――天原先生はpixivやSNSに上げているショート漫画にも異世界転生を題材にしたものが見られます。異世界が舞台の作品は以前から読まれていたのでしょうか? またお気に入りの作品などはございますか?

天原:読んでるのは10~20作くらいですね。書籍まで全部買っているのは、『蜘蛛ですが、なにか?』(カドカワBOOKS)と『理想のヒモ生活』の2作だけです。

Web掲載のコミカライズを読んだあと、「続きを待ちきれないので原作で読んでしまおう」という流れで読み始めるケースがほとんどでしたね。

ですので、「小説家になろう」は作品のタイトルで検索して直接作品のページに飛ぶという方式でいつも読んでおり、現在のランキングは女子向け恋愛小説が強い傾向になっているとか、そういう事情は全く知らないまま当時は投稿していました。

――これから本作を読む方へ向けて特に推したい部分の紹介と、一言メッセージをお願いします。

天原:最初は「入浴!入浴! ちち、しり、ふともも、おっぱいおっぱい!」くらいの気分で読んでいただければ十分です。そのうち、「あれ? これはただのスケベ作品ではないのでは?」と錯覚していただければ成功です。

***

前例のないコンセプトで話題を呼び、「次にくるライトノベル大賞2025」の文庫部門で第1位を受賞した天原先生のインタビュー、いかがでしたか。文庫は現在2巻まで刊行中で、「小説家になろう」でも連載中。少しでも気になった方は、この機会にぜひチェックしてみください。

取材・執筆:マイストリート

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