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「集中できない…」は、あなたのせいじゃなかった。スマホ時代に"自分の時間"を取り戻す

  • 2026.3.23

「ちょっとだけ」のつもりが、気づけば30分…

先日、カフェでこの原稿を書いていたときのこと。

「よし、今日こそは集中するぞ」と心に誓ってパソコンを開いたのに、ふとスマホが光った。友人からのLINE。「了解!」と返したその3秒後、インスタの通知が。

「まあ、ちょっとだけ」とのぞいたら、おすすめリールが止まらない。かわいい犬、おしゃれなカフェ、誰かの旅行記…。気づいたら30分以上経っていて、コーヒーは冷め、原稿は1行も進んでいなかった! …あれ私、何しにカフェ来たんだっけ。

———こういうこと、ありますよね? きっと私だけじゃないはず…。

集中力は、奪われている!?

いま私が夢中で読んでいる本があります。イギリスのジャーナリスト、ヨハン・ハリさんが書いた『奪われた集中力』。世界100万部のベストセラーで、今年ようやく日本語版が出たそうです。

本のなかのこの文章に、私は思わず膝を打ちました。

「集中できないのは、あなたの意志が弱いからじゃない。集中力は”奪われている”のだ」

「マルチタスク」という名の、脳内大渋滞

私、これまでずっと「マルチタスクができる人=仕事ができる人」だと、思っていました。

仕事のメールを返信しつつSlackをチェック、Zoomに入りつつ資料を修正。なにより「タイパ」が重視されるこの時代、同時にいくつものことをこなしている。効率的。カッコいい、みたいな空気がありますよね。

でもね、脳科学者アール・ミラー教授は、こう断言しています。

「人間の脳が同時に意識できるのは、せいぜい1つか2つの思考だけ。マルチタスクは巨大な幻想です」って。

私たちがマルチタスクだと思っているものは、実は「タスクスイッチング」。AとBの間を猛スピードで、行ったり来たりしているだけなのだそう。そしてこの切り替えには、つねに「スイッチコスト」と呼ばれる代償が伴います。1つのタスクに集中しているところを中断されると、元の集中状態に戻るまでに平均23分もかかるという研究もあるんですって。23分! 結構長いですよね。しかも、切り替えるたびにミスが増え、記憶の定着も悪くなるそうです。

つまり、「効率よくやってるつもり」が、実は一番非効率だったっていう話。

カフェでのあの私の30分も、まさにこれ。スマホの通知でタスクスイッチングが発生、「原稿を書く」という集中の糸が、いともカンタンに、ぷつん、と切れてしまったわけです。

「ぼーっとする時間」が、じつは宝物

この本で、もうひとつ私がハッとさせられたのが、「マインド・ワンダリング(ココロのさまよい)」の話。

私たちの脳には「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」という神経回路があります。これは、脳が特定のタスクに集中していないとき…つまり、”ぼーっとしているとき”に活性化するネットワーク。「なんだ、サボっているときに動く回路か」と思いますよね。ところがこのDMN、じつはものすごーく、大事な仕事をしてくれるんです。

頭のなかの情報を整理し、過去の経験と今の出来事をつなぎ、未来を想像し、ひらめきを生む。

数学者アンリ・ポアンカレが長年解けなかった難問を、散歩中に解決できたエピソードは有名ですが、これもまさにDMNが働いていた瞬間。お風呂やトイレで妙案を思いつく、という話もよく聞きます。歴史上の発見やひらめきも、集中しているときではなく、ココロがさまよっている時間にこそ、生まれているのかもしれません。

つまり「ぼーっとする」ことは、けっしてサボりではなく、私たちの脳にとって、必要不可欠な”メンテナンスタイム"だったのです。

でもここで、大きな問題がでてきます。

最近の私たちはもう、ぼーっとすることを、自分に許してあげられなくなっているということ!

電車の中。エレベーターの待ち時間。カフェで注文を待つ数分間。昔なら、ぼんやり窓の外を眺めていたその時間を、今は皆、反射的にスマホを取り出して埋めてしまっています。電車に乗ってまわりを見回すと…? 今の私たちは「あ、1分空いた」と思ったら即座にスマホを取り出しますよね。つまり、脳がメンテナンスするスキを1秒も与えていないってこと。想像すると、ちょっとゾッとします。

私たちの脳とココロは「ぼーっとする権利」を奪われ、DMNが十分に働けなくなっている。ハリさんはこれを、集中力が奪われる12の原因のひとつに挙げています。

3ヵ月の「デジタル断ち」で見つけたもの

彼自身、自分の集中力の低下に危機感を覚え、なんと3ヵ月間、インターネットを完全に断つ実験をします。場所は、アメリカ東海岸の小さな町、ケープコッドのプロビンスタウン。ネットにつながらないおんぼろPCと、通話だけできる携帯電話だけもって。

最初の数日は、まるで禁断症状のようだったそう。存在しないスマホを探して手が動く。頭のなかで、つぶやきたいツイートが勝手に浮かぶ。「見なきゃいけないものがあるはずだ」という焦燥感に襲われる。

でも、1週間、2週間と経つうちに、不思議なことが起こります。

時間がゆっくり流れはじめた。

見知らぬ人とカフェで長話をするようになった。海辺を歩いていたら、波の音や空の色が、今まで見たことがないほど美しく感じられた。本を一冊、最初から最後まで集中して読み切ることができた。夜はぐっすり眠れた。

「かつて自分が当たり前にできていたことに、ようやく再会できた気がした」と書かれてありました。

それは、「目の前の世界を、五感で味わう」ということ。

なにより、ココロがさまよう時間が戻ってきたことで、創造性と思考の深さが、甦ったのだそうです。

「自分が悪い」わけじゃない

ここで大事なことを1つ。

こんな話になると、「じゃあスマホを手放せばいいんでしょ」とか「結局、意志が弱い私が悪いんでしょ」と思いがち。

違うんですって。

彼がこの本で繰り返し言っているのは、「集中力を奪っているのは、私たちの意志の弱さではなく、私たちの注意を食い物にするように設計されたシステムそのものだ」ということ。

SNSは、「いかにユーザーを長く画面に釘づけにするか」を徹底的に研究し、設計されています。無限にスクロールできる画面、次々と表示されるおすすめ動画、「いいね」がつくたびにドーパミンが出るあの仕組み…。すべてが、私たちの注意を引きつけて離さないために、天才エンジニアたちが作り上げたもの。

だから、「スマホが手放せない自分はダメだ」なんて、自分を責める必要はないんです。

でも、だからこそ、「知ること」が大切。自分がどんな仕組みのなかにいるのか。何に注意を奪われているのか。そして、本当はどんなふうに時間を使いたいのか。それを「知る」だけで、目の前の景色が少し変わってきます。これもまた、自分のトリセツづくりの一歩ですね。

”イマココ"を五感で味わうための、小さなヒント

最後に、この本と私自身の実践から、今日から試せる小さなヒントをお伝えします。

1:朝の「ゴールデンタイム」を守る

起きてすぐスマホを見ると、その瞬間から脳はタスクスイッチングモードに突入します。朝の15分だけ。スマホを見る前に、温かい飲み物と共に、窓を開けて空気を吸って、「今日はどんな1日にしたいかな」とココロに聞いてみる。この小さな儀式が、1日の集中力の土台をつくります。

2:「シングルタスク」を意識する

何かをしているとき、それだけに集中する練習を。ごはんを食べるならごはんの味を味わう。友だちと話すなら目の前のその人との時間を味わう。全部同時にやろうとしない。1つずつ、ていねいに。

3:「ぼーっとする時間」を自分にプレゼントする

電車の中、お風呂、散歩中。スマホを触らずに、たまにはただココロをさまよわせてみる。最初はソワソワするかもしれない。でもそのうち、面白いアイデアが浮かんだり、ずっと気になっていたことの答えが見つかったりする。ぼーっとする時間は、自分へのごほうびです。

4:「画面の外の世界」に目を向ける

空の色。風のにおい。コーヒーの湯気。隣の席の人の笑い声。画面の中には映らない、でも確かにそこにある豊かさを、五感でキャッチしてみてください。私たちが「いま、ここ」にいることを思い出させてくれるのは、自分の身体の感覚です。

スマホを置いて、顔を上げたら

この本の原題は ”Stolen Focus"、「盗まれた集中力」でした。

盗まれたものは、取り戻せる。でもそのためにはまず、「あ、私、奪われてたんだ」と気づくことから始まります。

もちろん、スマホを完全に捨てるなんて現実的じゃないし、そんなことをする必要もありません。ただときどき画面から顔を上げて、目の前の世界をちゃんと見てみる。隣にいる人の表情に気づく。自分のココロの声に耳をかたむける。

そのとき、あなたの集中力は、静かに戻りはじめます。

現実は、スマホの画面よりずっとカラフル。春の風が、すぐそこまで来ていますよ。

参考文献

●ヨハン・ハリ(福井昌子訳)『奪われた集中力――もう一度”じっくり"考えるための方法』作品社、2025年(原著:Johann Hari, Stolen Focus: Why You Can't Pay Attention—and How to Think Deeply Again, Crown, 2022)

●Mark, G., Gudith, D., & Klocke, U. (2008). The cost of interrupted work: More speed and stress. Proceedings of the SIGCHI Conference on Human Factors in Computing Systems, 107–110. https://doi.org/10.1145/1357054.1357072

●Raichle, M. E. (2015). The brain's default mode network. Annual Review of Neuroscience, 38, 433–447. https://doi.org/10.1146/annurev-neuro-071013-014030

●Ophir, E., Nass, C., & Wagner, A. D. (2009). Cognitive control in media multitaskers. Proceedings of the National Academy of Sciences, 106(37), 15583–15587. https://doi.org/10.1073/pnas.0903620106

●アンリ・ポアンカレ(吉田洋一訳)『科学と方法』岩波文庫 2000

島田恭子(しまだきょうこ)

予防医学者・保健学博士。医学や心理学の知見を、女性のウェルビーイングに役立てたいと活動中。(社)ココロバランス研究所代表。著書『心が疲れたらセルフケア』が好評発売中。ストレスなく心の疲れを取り、元気を取り戻すための50の方法を紹介。

https://customer-harassment.org/kyokoshimada/

TEXT=島田恭子

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