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ポップシーンにおける“オペラ再興”の新潮流。Z世代が今、オペラの美学に惹かれる理由とは?

  • 2026.3.18
Getty/Samir Hussein

ロザリアが幼い頃、祖母の家ではマリア・カラスやルチアーノ・パヴァロッティの歌声がいつも流れていたのだそう。数年前、ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)のインタビューで「祖母は私にオペラ歌手になってほしかったのだと思う」と語っていた彼女は、昨年秋にリリースしたアルバム『Lux』で、まさにその祖母の願いを叶えることになった。ロンドン・シンフォニー・オーケストラの協力のもと制作された『Lux』には、オペラが持つ技術的な美しさがふんだんに盛り込まれている。アルバムのリリース後には、「クラシックというジャンル、そしてクラシックを理解した声にこだわりました」と力強く語った。

しかし、オペラに惹かれているのはロザリアだけではない。レイもまた、オペラ文化からインスピレーションを得て音楽制作に取り組んでいる。アルバム『This Music May Contain Hope』のリリースを3月に控える彼女は、クラシックで培った音楽的素養とライブオーケストラを新作に取り入れている。

最近「ジェニファー・ハドソン・ショー」に出演したビービー・レクサも、ポップスターとしてのキャリアを歩む前はオペラ歌手を目指していたことを明かした。そして、ビヨンセのアルバム『Cowboy Carter』に収録されたシングル「Daughter」も、イタリアン・オペラから着想を得たものである。

FKAツイッグスもまた、2019年に発表されたアルバム『Magdalene』を筆頭にオペラ的なバックグラウンドを作品に取り入れてきたアーティストのひとりだ。かねてから「純粋なオペラ作品を制作したい」と語ってきたツイッグスだが、ソランジュも同様の思いを抱き、すでにその道を歩み始めていることを昨年明らかにしている。また、ビリー・アイリッシュやケイティ・ペリーもクラシック音楽に通じるトレーニングを受けており、ポップヒットが並ぶ最新プレイリストの裏側にも、クラシックという確かな基盤が存在していることを物語っている。

「歴史的に見ても、ポップは人々が思っている以上にオペラから着想を得ています」と、ニューヨークのメトロポリタン・オペラ・ハウスのプレスディレクター、ジェン・ルゾは語る。「オペラの全盛期だった19世紀後半、オペラは当時のいわばポップ・ミュージックでした。ポップがオペラからインスピレーションを受けるのは一時的な現象ではなく、長い歴史の中で続いてきたものなのです」

FKAツイッグス(FKA twigs) JMEnternational/Getty Images

そんな中、「オペラ・ガール」と呼ばれる世界観が今、SNSでトレンドに。InstagramやTikTokでは、若い女性インフルエンサーたちがきらびやかなドレスに身を包み、世界各地で開催されるオペラ・パフォーマンスに足を運ぶ様子を捉えた動画が数多く投稿されているのである。

去年、ピンタレストは「オペラ・スタイル」が2026年に向けて注目が高まっていると報じた。ピンタレストのグローバルトレンドおよびインサイトを担当するシドニー・スタンバックによると、ピンタレストの検索データを分析した結果、「オペラ・スタイル」に関連するキーワード検索が大幅に増加しているという。たとえば、『オペラ座の怪人』にインスパイアされたスタイルは435%、「オペラ ファッション」は415%、「オペラ・コア」は210%増加した。さらに、1930年代や50年代、特に60年代のヴィンテージガウンの保存数も増えており、ファッションの着想源としてだけでなく、パーティー向けのインテリアやデコレーションのインスピレーションを求めるユーザーも多いとのこと。

オンライン上のトレンドはオフラインの世界にも大きな影響を与えており、オペラを観劇する人の増加が見られている。ルゾによると、メトロポリタン・オペラのチケット購入者の平均年齢は、57歳から44歳へと大きく若返ったという。

「『オペラ・ガール』は、ドラマチックで表現力あふれるオペラの世界からインスピレーションを得ている。人と違うファッションを身にまとい、その日の主役になることを恐れない」

メトロポリタン・オペラ・ハウスを訪れる観客のファッションを記録するインスタグラムアカウント「Last Night at Met」には、友人同士やデートで観劇に訪れた若い女性や女性的なスタイルを身にまとったオペラファンの姿が数多く掲載されている。このアカウントの写真を撮影しているフォトグラファーのロース・キャラハンは、10年以上前にTumblrでアカウントが立ち上がってから写真を撮り続けており、現代においてどのようにその美学が発展してきたのかを記録している。「私たちの考えでは、『オペラ・ガール』スタイルには、他のトレンドのように明確なルールがあるわけではありません。でも確かに広がりつつある現象で、私たちはその流れをとても歓迎しています」とルゾ。

ビヨンセ(Beyoncé) Kevin Mazur / Getty Images

「『オペラ・ガール』は、ドラマチックで表現力あふれるオペラの世界からインスピレーションを得ています。文化やアート、音楽をこよなく愛し、歴史や創造性、デザイン、そして自己表現につながる体験を求めています。ファッションの観点で言えば、リュクスな素材感や目を惹くジュエルトーン、そしてクラシカルな華やかさを好むことが多いでしょう。けれど、何よりも大切なのは、オペラという世界を自分らしく解釈すること。人と一線を画すファッションを身にまとい、その日の主役になることを恐れない。それが『オペラ・ガール』です」

ルゾによると、近年のシーズンでは若い世代がクラシック作品を選ぶ傾向が強まっており、35歳未満のチケット購入者が『カルメン』や『ラ・ボエーム』、『蝶々夫人』、『魔笛』、『トゥーランドット』といった演目を観劇しているという。また、「Last Night at the Met」を運営するチームが被写体となった来場者と言葉を交わす機会を得ると、オペラを観に来た理由を嬉しそうに語り、特別な機会でなければなかなか着ることのない装いを披露することにも意欲的だという。

「ある来場者は、息をのむほど美しい白いレースのドレスで現れました。話を聞くと、それは結婚式で着たウェディングドレスだったそうです。オペラは、こうした豪華で思い出深い装いを再びまとうことができる、数少ない機会なのだと話してくれました。また、いつも一緒にオペラを観に来るカップルもいて、ジェイク・ヘギーの『モビー・ディック』の公演では、パートナーが手編みした、メルヴィルの名作からの文章があしらわれたセーターを着て来場したこともありました」とルゾは語る。

ポップスターたちがオペラの要素を音楽に取り入れて、より身近な存在にしている今、メトロポリタン・オペラのような機関にとっても、その動きはオペラを未来へとつなぐものとして歓迎されている。「ポップ歌手たちが、オペラ的な要素をサウンドやパフォーマンスに織り込んでいるのを耳にするのは、本当に素晴らしいことです」とルゾ。「今のリスナーは、本質的な魅力と革新性に惹かれています。ロザリアの『Lux』はまさにその“本質的な魅力”を体現する素晴らしい例です。私たちもその流れを大歓迎しています。ロザリア、もしこれを見ていたら……ぜひメトロポリタン・オペラに来てください。心からお待ちしています」

Translation: Reno Shimamoto

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