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『花が咲けば、月を想い』が面白くなる「禁酒令」の理想と副作用

  • 2026.3.12

ドラマ『花が咲けば、月を想い』はフィクションですが、その時代背景は朝鮮王朝・第21代王の英祖(ヨンジョ)が統治した頃となっています。

英祖は韓国時代劇ドラマにも多く登場。『トンイ』の息子であり、『イサン』の祖父であり、『ヘチ』では若き頃も描かれました。その名を知る人も多いことでしょう。

その英祖(ヨンジョ)が朝鮮王朝史上、最も過酷とも言える「禁酒令」を敷いた王でもありました。『英祖実録(ヨンジョシルロク)』には「禁酒に背き、島へ流刑となった者が700余名にのぼる」と記録されているほど。

(画像=『花が咲けば、月を想う』韓国ポスター)

なぜ、彼は禁酒令を敷いたのか。そこには単なる個人の嗜好を超えた、切実な国家経営上の理由と儒教的な統治理念がありました。主に以下の3つの観点から、その歴史的背景を解説します。

1. 食糧難の打開:米を「酒」ではなく「糧」に

当時、酒の主原料は貴重な米でした。朝鮮半島はたびたび深刻な干ばつや飢饉に見舞われており、米の確保は国家の最優先事項でした。

 穀物の浪費防止: 1升の酒を造るには、その数倍の米が必要です。民衆が飢えに苦しむ中で、支配層や裕福な商人が大量の米を酒に変えて消費することは、国家的な資源の損失とみなされました。

物価の安定: 酒造りが盛んになると米の需要が跳ね上がり、米価が高騰します。禁酒令は、米を市場に流通させ、価格を抑えるための経済政策でもありました。

2. 英祖の「勤倹節約」と儒教的道徳観

英祖は、歴代の王の中でも特に倹約家として知られていました。

王自らの範: 英祖は粗食を貫き、衣服もつぎはぎのものを着るほど贅沢を嫌いました。王自身が模範を示すことで、士大夫(貴族階級)の贅沢な風潮を正そうとしたのです。

社会秩序の維持: 儒教社会において、飲酒による乱痴気騒ぎは「礼(れい)」を失う行為とされました。禁酒を通じて国民の精神を引き締め、道徳的な国家を再建しようという狙いがありました。

3. 王権強化と官僚の綱紀粛正

禁酒令は、役人たちが王の命令をどれだけ忠実に守るかを測る**「リトマス試験紙」**のような役割も果たしていました。

特権階級への牽制: 当時、酒は主に両班(ヤンバン)などの特権階級が楽しむものでした。これを禁じることは、彼らの特権的な生活様式に制限をかけ、王の支配力を誇示することを意味しました。

汚職の摘発: 前述の通り、禁酒令の違反を取り締まる過程で、賄賂を受け取る腐敗役人をあぶり出し、行政の規律(綱紀)を正そうとしました。

英祖にとって禁酒令は、「民を飢えさせず、道徳的に正しい国を作る」という崇高な理想に基づくものでした。しかし、あまりにも長く厳格な規制は、かえって闇取引や役人の腐敗を招くという皮肉な結果を生んでしまったのです。

ドラマ『花が咲けば、月を想い』の裏側には、こうした「理想に燃える王」と「生きるために法を破らざるを得ない民」の葛藤があるのかもしれません。

文=森下 薫

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