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初音ミク、大好き!(後編)/絶望ライン工 独身獄中記 第64回

  • 2026.3.4

『絶望ライン工 独身獄中記』を読む

諸君、初音ミクをご存じだろうか。

毎日新曲を出す世界的バーチャルシンガーとなった彼女だが、私は黎明期より盛り上がるハツネミク・ムーヴメントをたいぶ近くで観測してきた。

その体験のせいで手放しに「初音ミク、大好き!」とは決して言えない。

あの頃を思い出すといつもつらい気持ちになる。

憧れ、嫉妬、恨み、後悔、そして音楽へ注いだ情熱と惜しみない愛。

あなたを想えば胸が張り裂けそうに苦しいの。

これが、狭心症──。

初音ミクを駆使して承認欲求と自己顕示欲を満たそうとする試みを、何度も繰り返す社会的落伍者を総じて「ボカロP」と呼称する。

ヤクザではなく暴力団、暴走族ではなく珍走団、作曲家ではなくボカロP。

敢えて珍妙な呼び名にすることで、憧れを抱く者を少しでも減らす意図がある。

そして自分も、ボカロPとして数年に渡り活動してきた。

今ここに罪を告解するとともに、懺悔の気持ちでその体験をここに書き記す。

ボカロPとして味わった一瞬の栄光と多大なる挫折は、癒えない傷となって今日の自分の一部になった。

そういえばボカロPって皆初音ミクのこと本当に好きなのかな。

甚だ疑問である。

「ありがとう初音ミク……君のおかげで素敵な未来が広がるよ」

とか表向きは言うが、そう言わないと自分の中の整合性が取れないんじゃあないかな。

面接官に志望動機を聞かれ「何故御社で働きたいか」を述べるのと同じ、形式のようなものだと考える。

働きたくないが本音であるが、それを言っちゃあおしめえよ。

淫売が「スケベ行為が大好き!」と売春宿店頭や映像作品で述べるのと同じ、一種の仁義のようなものと推測する。

初音ミク大好き!はボカロPどもの仁義なんだな。

これはとても分かりやすい。

ところで彼女への関わり方は大きく分けて二つ存在する。

それは「初音ミク生活」と「生活初音ミク」です。

「初音ミク生活」

健全で楽しいかかわり方。大好きな初音ミクに囲まれ、グッズを買ったりイベントに行ったりする。

毎日新曲が出る最高に刺激的な歌姫を暮らしの中核に据え、すべてのコンテンツを楽しみながら生活する。

自分もやってみむとて絵を描いたり、曲を作ったり、イベントを主催したり。

多くのクリエイターも最初は初音ミク生活から始まった。

「生活初音ミク」

これは地獄である。生活のため初音ミクに頼らざるを得ない。

暮らしに必要な日銭を稼ぐため、家賃を払うため、飯を食う為に初音ミクコンテンツを創作する。

今をときめくコメヅ・ゲンスイやデコツーセヴンといった力の差がありすぎる強豪と同じ戦場で争うことを余儀なくされ、生きるために初音ミクをする。

私は当然後者、生活初音ミクで随分と苦しんだ。

貧困はまぁ耐えられる。楽しめすらするが、問題は劣等感だ。

劣等感は実に堪える。初音ミクは数字が全てだ。

自分の創作物が数字によって評価される、その苦しみたるや計り知れぬ。

彼らは惨めで屈辱的な現実を遠慮なく突きつけてきやがる。

彼らとは?

中学生である。

楽しく暮らす初音ミク生活者の半分以上が中学生であり、初音ミク労働者たる我々は中学生のためにあれこれ工夫をこらして創作する必要があった。

彼らは8秒で飽きて視聴を中止してしまうので、8秒に1度急展開をする必要がある。

それは過激な転調だったり、異常な程高速なテンポだったり、曲中で誰か死んだり、パチンコ演出のような下品なエロゲ風映像だったりした。

刺激的な悲劇を好む彼らに合わせ、我々大人は随分と振り回された。

気が付けば考えるのはいつも中学生のことばかりだ。

中学生、大好き!

初音ミクの悪口(中学生の悪口かもしれない)ばかり書いてきたが、ここから怒涛の巻き返しをはかる。

初音ミクの素晴らしさ、世界観、自分にもたらされた多く希望、満たされる承認欲求、ボカラン、テラ銭、コスプレイヤー女性とのロマンス。

嫌なことの10倍、楽しかった思い出があります。

でも不思議だなぁ、原稿を前にすると何も思い出せないの。

花粉症の薬で朦朧となりながら、コメダ珈琲でこれを書いています。

最後に、15年前に言えなかったことをお伝えしたい。

【初音ミク】絶望ラインファクトリー【オリジナル曲】

こういうタイトルって

【うまい】ラーメンショップ【うまい】

これじゃね

あと何かを告知する時の「何卒」はたぶん自分が源流っぽいです。

一方で「だばぁ」は自分ではなくMeたんが元ネタだぜ。

これだけはどうしても言いたかった、以上です

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