1. トップ
  2. 上京する学生「両親からの贈り物をなくしました」→『定時運航』との葛藤の中でCAがとった行動とは…

上京する学生「両親からの贈り物をなくしました」→『定時運航』との葛藤の中でCAがとった行動とは…

  • 2026.4.8
undefined
出典:photoAC ※画像はイメージです。

皆さま、こんにちは。大手航空会社で10年間、CAとして勤務しておりましたSAKURAです。

春の機内は、一年で最も「期待」と「不安」が入り混じった独特の空気に包まれます。

住み慣れた故郷を離れ、夢や目標を抱いて新天地へ向かう方。

そして、その背中を遠くから祈るように見送るご家族。

私たちは、目的地までお客様をお運びするだけでなく、お客様の「人生の節目」に寄り添う場面を幾度となく経験します。

今回は、東京へ向かう機内で出会った一人の青年と、彼の手の中にあった「大切なもの」を巡るエピソードをご紹介します。

青年の「勇気の源」を捜し出したい

そんな私たちの執念が実を結んだ、ある日の出来事です。

ずっと手にしていた「大切なもの」

3月下旬、羽田へと向かう国内線。

機内には、大学入学のための上京と思われる青年・A様の姿がありました。

A様は、入学に関する書類に時折ペンを走らせては、じっとその「黒いペン」を見つめていました。

特別な想いが込められたペンなのだと、傍で見守る私たちにも一目で分かりました。

疲れからか、そのまま眠ってしまった彼の手には、大切そうに「ペン」が握られたまま。

着陸前にテーブルを元の位置に戻していただくようお声掛けすると、目を覚ましたA様は慌てて書類を鞄にしまわれたものの、まだ少しウトウトした様子でいらっしゃいました。

しかし到着後、A様が座席からお立ちにならないため傍へ行くと、「ペンをなくしてしまった」と、今にも泣き出しそうな声を絞り出されたのです。

それは、上京にあたってご両親から贈られた大切なものだということも、言葉を詰まらせながら教えてくださいました。

執念の捜索

あの「黒いペン」のことだとすぐに分かった私は、応えるよりも先に体が動いていました。

座席の隙間、シートポケットの奥。あらゆる所をくまなく捜します。

次便の出発準備が急がれる中でしたが、保安確認と機内清掃のわずかな合間を縫って、CA同士で連携し、座席周りを徹底して確認しました。

「定時運航」という重い使命がのしかかる中、私は他のCAたちと協力し、捜しやすいようジャケットを脱ぎました。

「あのとき、ペンをしまっていただくようお声掛けしていれば」

「気付いていたのに」という申し訳なさと後悔が、胸を締め付けます。

けれど、上京という心細い中での「お守りであるペン」は絶対に捜し出し、そっと背中を押してあげたい。

私たちCAは同じ想いを胸に、床に膝をつき、這うようにして一列ずつ捜索を続けました。

すると、着陸の衝撃で三列も前まで転がっていた「あの黒いペン」が、ようやく姿を現したのです。

「新たな一歩」への祈り

ペンを差し出した瞬間、A様の顔に安堵の表情が広がりました。

何度も何度もお礼を言い、力強い足取りでタラップを降りていかれたその背中を、私たちは祈るような気持ちで見送りました。

限られた時間の中で一本のペンを捜し出したその数分間は、飛行機が単なる移動手段ではなく、誰かの「大切な想い」を次の目的地へと繋いでいく場所なのだと、改めて感じた出来事でした。

お客様の「不安」を「安心」に変える使命

公共交通機関にとって「定時運航」は、守るべきものです。

そこに影響のない、ほんのわずかな時間の中で、お客様が抱える「不安」を「安心」に変えて送り出すこと。

それもまた、私たちが一番大切にしたい使命なのです。

「できない」と諦めるのではなく、できることを考え真摯に向き合い続ける。

その積み重ねが、空の上で生まれる「誰かの新たな一歩」を、今日も静かに支えています。


ライター:SAKURA * 心を読む元国際線CA

日系大手航空会社にて10年間、客室乗務員(CA)として勤務。国内線・国際線を経験し、多種多様なお客様と接する中で「感情を読み解く力」を磨く。客室責任者としてVIP対応や後輩育成に携わる傍ら、社内の人材教育やグループ会社での業務にも携わり、多角的な視点から接客のあり方を見つめてきた。

現在は、その鋭い洞察力を活かし、言葉だけでない、「心理的・物理的アプローチによるクレーム回避術」を発信するライターとして活動中。国内線での細やかな気配りから国際線での難しい状況判断まで、現場での実体験に基づいた「心に届く接客のヒント」を言語化し、接客業にとどまらず、人と人とがよりよい関係を築けるサポートをしている。


【エピソード募集】日常のちょっとした体験、TRILLでシェアしませんか?【2分で完了・匿名】